第1話 START
〜チリリリリ、リーン!!〜
スマホの着信音で目が覚めた俺は薄目で画面を見る。1秒後に俺は今日が月曜日だと思い出し深呼吸してから電話に出た。
「あんた!今どこいんの??学校からまだ来てないって連絡がーーー」
俺のモットーは「オールウェイズ クール」つまり「いつも冷静に」だ。直ぐに電話を切り時計を確認。
「よし、まだ8時10分か」
今から学校までは身支度、移動込みで約50分程で着く。学校に着いた所でまだ1限目の途中。不幸中の幸いか1限目は大嫌いな古典だったのでわざとゆっくり行って1限目終わりの休み時間に着くよう調整するか。とっっりあえず親には
「電車内だから切ったよ。もう少したったら着く。」とメッセージ送信。こうすれば親にあまり叱られまい。
ゆっくりと起き上がり布団をキッチリ折りたたむ。そしたら電気ポットで湯を沸かしつつインスタントコーヒーをスタンバイしながら朝イチのおはようツイートも欠かさない。
「朝からヒューマンエラー。そんな日も、悪くないかな」とツイートし終わると同時に目覚めの1杯をキメたら、制服に着替え新しいハンカチをポケットにしまう。最後にカーテンを開けてさあ学校へ!っと、危ない危ない。
今日は体育だと思い出し爪切りを取った。俺は誰よりもクールだ。だから爪は丁寧に切る。なぜなら、爪はそいつの心の奥底、はらわたの中を映し出す鏡。だからこそ、自分が爪を見る時、相手も必ず自分の爪を見ていると言う意識。これを怠ってはいけない。
5分かけて爪を切ると俺は家を後にした。鍵は閉め忘れずにな。
流石にゆっくりし過ぎたか、各駅では2時間目に間に合わないかもしれん。快速は各駅より混むから使いたくなかったが仕方なく快速のホームに方向転換。
快速は普段使わないが俺はクールな男。クールってのは用意周到。快速のダイヤまで俺は暗記しているから後2分で来ることも知っている。
実は快速ホームを使うのは初めてだ。目の前のJKのスカートの短さに気を取られているとあっという間にエスカレーターでホームまで上がった。
ん?普段各駅停車のホームから見ているのとでは雰囲気がまるで違う。俺は観察力も鋭い。ネットに転がってるIQ診断モドキの図形問題は絶対に答えが分かるほどだ。
「ここは…Where? いや、Of Course、もちろん駅のホームなのだがな?ummm…」
何と言うか、周りが、ただの自販機までもがしっくりしない。幼少期に知らない土地で迷子になった経験があるか?その時の空気感だ。
知らないんだ。この土地を。周りの人間を。いや、勘違いしないでくれ、そこら辺ですれ違うおっさんなんて知らないに決まってる。が、ただの知らないおっさん。ってことは知ってる。
違う。このホームにいる人間は。こいつらの素性を知らない事を俺は知らない。
何を言ってるか訳が分かんないだろ?矛盾してるなこの文は。正確に言おう。「こいつらの素性を知らない事を俺は知らない。…事を俺は知ってる。」
感謝するぜ、持ち前の観察力・洞察力に。「知らない事を知らない」と言うより「知らない事を気が付かせないように隠してる」だな。
変だろ?そんな現象あるわけないと思うだろ?俺も今の今までそうだった。けど、ってともかくだ。
ここまでの思考時間僅か1秒。1秒後に電車が来てることに気が付く。
は?電車なんか来てたか?オールウェイズクールな俺の心拍数がLEAPした。2分後に来るはずの電車がもう来て居た事と、その事に今気がついた事に驚きつつ。ジャパンの電車は世界一正確で2分間も到着時刻がズレることはそこそこ珍しい。
総合的に考えると、このシチュエーションはエマージェンシー!と俺の本能がビリビリ感じてる。
なんだか気味が悪いが一旦深呼吸だ。
すううううううううううううーーーーーーー。
はああああああああぁぁぁぁぁあああーーーーーーー。
よし。クリアシンキング。NP。
なんでも直ぐ違和感を感じた時は辞めた方がいいんだ。腐りかけの牛乳。マイナーな参考書。疲れ目に効く目薬だって違和感を感じたら直ぐ目を洗う。
保守的に立ち回れば安全、クールを徹底しろ、違和感を感じたこの場合は事故の前兆とか?かもしれない。触らぬ神に祟りなし。急がば回れ。だ。俺。くるっと180度回転して各駅のホームに戻ろう。
が、好奇心が勝った。こんなエクスピアレンスは初めてだ。気になるぞこのフィーリングぅ〜!仮に事故の前兆だとしても最悪のケース電車の正面衝突でも真ん中の号車は軽傷で済むと言う。脱線でもこの路線なら予め事故を想定してすぐ頭を守れれば大事には至らない。NP。
行先も確認せず電車に飛び乗った俺は久々にオールウェイズクールを忘れていた。
俺が乗って直ぐ扉が閉まった。そそくさとすぐ近くの席に座り、1秒後、クールを取り戻した無意識に処理していた景色を意識する。周りの景色を突然知覚、違和感。
スカスカ。この号車だけなのか?5-6人しか居ないぞ。ようつべの5秒後スキップをしてる感覚だ。急に場面が変わってる気がする。
クールを取り戻したら俺のブレインがぐるぐると働き出した。今日は心がよく乱れる。毎日クール日記を付けてる俺だが、今日で24時間毎日連続クール1000日目の記念日だったのに。まあ、クールじゃないそんな日も必要だ。今からはクールに行こう。そう心に決め周囲を観察する事にした。ら、
ブス。ジジイ。DQN。JK。の4人。この六号車に乗っているな。そして妙な事に全員がスマホを弄ってない。で、パチンコで5万スった時みたいにボーとしてる。
このデジタル砂漠の時代に電車内の全員がスマホを弄ってないなんてあるか?しかも皆んな生気が抜けた様な顔をしてやがる。え、なんなら行先も気が付いたら文字化けしてるし、車外の風景は見た事ねえクソ田舎だ。いつの間にか景色が変わってやがった。ここは日本中心だぞ!
「Oops!」え、え、クール。。ふう。怒涛の展開でクールが吹き飛びそうになるのを何とか抑えてとりあえずかっこよく叫んだ。
こーいうシチュエーションはネットでよく見るソース不明の怖い話の序章に似てる。急に周りが変わるんだ。そして俺はこれから、、、
クールな俺は知ってる。多分いつの間にか訳分からん駅に着いて乗客もいつの間にか居なくて怖い体験をするんだろ?パラレルワールドに迷い込んじゃいました!ひん!みたいなな。
残念ながらきさらぎ駅とかで予習済みなんだ俺は!と自分を鼓舞したがいざ現実に起こると混乱するな。
だがな自分が混乱している事を知ってるのは強い。一旦深呼吸するんだ。もしかしたら一種の催眠作用かもしれない。平常心に戻そう。
すううううううううううううーーーーーーー。
はああああああああぁぁぁぁぁあああーーーーーーー。
10回繰り返したが何も変わってない。ほっぺをつねっても痛みがあり、高速瞬きしても、水をがぶ飲みしても変わらない。リアル、現実だ。しかしながら、混乱は収まりいつものクールな俺に戻っていた。
今、、いま、俺の心情 IS 恐怖。だと思うか?ノンノン、違うね。アンサーは「ワクワク」だ。最初は戸惑ったが段々と気持ちが高ぶってきて今の俺はH×Hのゴンばりにワクワクしてるぜ。クールにだがな。
俺の元に、クールな俺の元にこんなシチュエーションを用意しちまったなあ。神的な上位存在ぃ!と心の中で叫んだ。
いいね。気分。この違和感だらけの世界が逆にいい。知らない世界に飛び込むのも悪くな。俺の頭には爽快なアニメのopが流れてる。
「さて、と」
そう言って俺は立ち上がった。対面で虚空を眺めながらぼんやり座ってるジジイに
顔面ストレーーーート!!!
クールにな。
駅で駅内での暴力事件の6割は飲酒時のものって書いてる4割もシラフで暴力ふるっててやばいと思わせるポスターあるよね。あれの4割に俺も入ったのか。
ジジイはそのまま前に倒れ込んだ。ダッチワイフみたいに無機質に。