8.怪しい雲行き
「お、おぉ…」
私は目の前に広がる建物のあまりの大きさに、思わず固まってしまった。
ー3日前ー
「イザベラには学校に行ってもらおうと思う。アースレイ学園っていうところで、
世界各国から生徒が集まっているのじゃ。
王族も通っているような良い学校だぞ。
楽しんでおいで」
朝早くから王様に呼び出された私は、学校に通うように言われた。
私がコナリザ王国にいた頃は、
家庭教師がいて、悪口をいわれながら教わっていた。
だから一応王族として恥ずかしくないくらいの知識はあると思う。
なのになぜ学校に?
「あのー。私は12歳の頃にはもう大抵のことは習い終えましたよ。
学校に行く必要はないのでは?」
王様は驚いたような表情をした。
「うむ、そうか…。
いや、学校には行ってもらおう。
実際に人と接することで学ぶこともあるじゃろう。それに、学生はとっても楽しいぞ」
楽しいのか…。
行ってみてもいいかもしれない。
勉強は好きだしね。
「分かりました。私、学校に行きます」
こうして、私は人生初の学校に行くことになった。
その結果がこれである。
あまりにも想像から外れていて、思わず固まってしまった。
まず建物が大きい。王城も大きかったけれども、学校の方が大きい。とにかく大きい。
さらに人が多い。こんな人数は、小さい頃に一度だけ出た舞踏会時で見たきりだ。
「本当に今日からここに通うのね。
ベッキーもいないし、頑張らないと」
この学校では世話係を連れることが許されていない。
だから私は1人で学校生活を送らないといけないのだ。
「……」
それにしても、大きいなぁ。
「ゴーン、ゴーン」
鐘が鳴った。
途端に校門にいた生徒達が校舎に入っていく。
黄色いネクタイの生徒が礼拝堂に入って行くのが見えた。
この学校では学年で制服の色が違う。
今年の新入生のネクタイの色は黄色だ。
私は新入生の群れと一緒に礼拝堂に向かった。
「ではこれから、魔力適正検査を行う。
順番にここに来て水晶を光らせてくれ」
50歳くらいだと思われる眼鏡の男の先生
が私達に言った。
今年の新入生は人数が多いらしく、500人は超えていると思う。
先生の指示に従って、順番に水晶を光らせていく。
属性と魔力の強さで水晶の色と光の強さが
変わるみたいだ。
「おおー」
前のほうで強い光がでた。
どうやら誰かがとても強く水晶を光らせたみたいだ。
「さすが陛下!」
「やっぱり魔術国家ノメルガは違うな」
ノメルガという国の王子がその正体らしい。
さすが、魔力の操作で最先端の研究をしているノメルガは違うなぁ。
「俺ほどの魔力がある奴はなかなかいないだろうな。
そんな奴がいたら、うちの一族に入ってもらいたいぐらいだ」
王子らしき人の声がした瞬間、聖堂内がザワつく。
「マジかよ。陛下の魔力量を超えたら
王族になれるんだってよ」
「それって、カリユゼ陛下と結婚できるってこと?」
「俺たちも王族の姫と結婚できるってこと?」
混乱の声が上がる。
次の瞬間。
「やってやるー!」
「カリユゼ陛下ー」
周りが熱気に包まれた。
生徒が水晶に押し寄せ、魔力を測りだす。
私はボーっとしていたら1番最後になってしまった。
私にはルシアン様がいるし、まあいいや。
のんびりと順番を待っていたが、どうやら
カリユゼ陛下を超える魔力を持つ者はいなかったようだ。
あっという間に私の番になった。
「最後は、君だね」
先生に呼ばれて水晶の前に立つ。
「始めていいよ」
え?ちょっとまって。
「これ、どうやってやるんですか?」
あまりに先生が当たり前のようにいうので、やり方を聞いてみる。
すると、先生は不思議そうな顔をした。
「おや、知らないのかい?珍しいね。
えーとね、こうやって魔力を込めるんだよ。ググーとね」
よくわからないが、ググーっとやればいいらしい。
他の人がやっていたように水晶に手を当ててみる。
ググーっと、ググッとね。
すると、何かが体から吸い取られていく感覚がある。
なんか、出来たっぽい。
「見ててごらん、もうすぐ光ると思うよ」
私がとりあえず出来たことに安堵していると、突然目の前が真っ白になった。
「えっ?」
数秒後、光が収まった。
「……」
みんなの視線が私に集中する。
そして誰かが呟いた。
「光魔法の、使い手で、こんなに多い魔力量…?」
次の瞬間、視線が目に集中する。
「紫の眼…」
そして、教室がどっと沸いた。
「聖女だ!うちの国では紫は聖なる色なんだ!」
「悪魔だわ!破滅の神アメリーヌの眼の色は紫よ!」
「女神だ!」
「悪魔よー」
え?ちょっと待って、なんでこんなに注目されてるの?
私が混乱していると、隣から先生の声がした。
「君達、静かにしなさい」
そう言って先生は私に近づいてくる。
「君…」
「僕の研究に協力してくれないか?
その異常なほどの魔力量、そして伝説だと言いわれている光魔法の使い手!
研究しがいがある!
是非協力してくれー!」
「い、いや、大丈夫です」
「何故っ!」
な、何故っていうか…。
「何事だ!?」
大聖堂に先生達が流れ込んでくる。
「ここからすごい光が見えたぞ!
何があった?」
学校長らしき人が尋ねてくる。
「こ、この生徒が、光魔法の使い手です。しかも魔力量も今まで見たことないほどに多いです!」
「な、なんじゃと!?」
先生達の視線が私に集まる。
「君…」
「「「わしらの研究に協力してくれーーー」」」
すごい勢いで先生が話しかけてくる。
ちょっと怖い。
「ひっひい…」
「ちょっと待て」
ん?
顔を上げると、そこにはさっき話題になっていた、カリユゼ陛下がいた。
なっなに?なんでカリユゼ陛下がいるの?
「お前、ちょっと来い」
え、ええ?
カリユゼ陛下はそう言って、私をズルズル引きずり出した。
「ちょっと、痛いです。自分で歩けますから」
しかしカリユゼ陛下はそのまま私を引きずり続ける。
大聖堂の裏まで引きずられてしまった。
陛下が私の顔をじっと見ている。
「えっと、私何かしましたっ…
『ドン!』
カリユゼ陛下の顔がすごい近くにある。
「あ…」
驚きとドキドキで声が出ない。
「短刀直入に言う」
そう言うと、陛下は私の手首に口付けをした。
「キャッ…」
『俺と、結婚しろ』
「……ハイ?」
ケッコン、けっこん、血痕、結婚、
結婚!?
「結婚って、男女がするあの?」
「そうだ」
「私が?」
「だからそうだと言っている。
俺より強い魔力を持つ奴を嫁にしないという選択肢はないだろう?」
あぁ、そういうことね。
自分より強い人がいて、面目が立たないってことね。
それで自分と婚約させようと。
…断っておこう。
「謹んで辞退させていただきます。
私には婚約者がおりますしね」
「何!?そうだったのか!
いやでも婚約者だろう?
だったらまだ間に合うな」
そう言うと陛下は何かを考えるような顔をした。
「よし!」
「後日、正式に婚約の申し込みをさせてもらおう。良い返事を待っているぞ」
そう言って陛下は走り去っていってしまった。
…騒がしい人だな。
何があれ、私が平穏な学校生活を送れないことが確定してしまった。
「一体どうしましょう…」
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