23.始まり
「お姉様ぁぁ……」
イザベラは自分に抱きついて泣きじゃくるリベルナの頭を撫でながら、過去のことを語ってくれた。
齢12歳の子どもの行動だとは思えない。
子ども……、まだ幼いはずなのに、
当時のイザベラは、あまりにも成熟し過ぎている。
そんなの、悲しすぎるではないか。
そう思うと、胸の底からどす黒い感情が浮かび上がってくる。
私は、この感情を知っている。
怒りだ。まだ幼いはずのイザベラをあんな風にした、コナリザ王家への。
「復讐しようなどとは思わないでくださいね」
イザベラが私の心を見透かしたように言った。
何故だ、何故なのだ。
どうして、ずっと虐められてきたのにそんなことが言えるのだ。
「私の父はともかく、その妻や私の姉妹たちの中には、私が頼んでそうしてもらっている人もいます。
リベルナのように、今までの態度が本当に演技なのかは謎ですが」
イザベラは悲しみと、ほんの少しの安堵が混ざって表情で答える。
「いいのです。こうした方がみんなが幸せになれますから」
その表情は、まるでこの世の全てを悟ったような、16歳だとは思えないものだった。
私は突然、彼女との距離を感じた。
私と彼女では、育ち方が全く異なる。
周りにちやほやされながら生きてきた私とは違うのだ。
……だが、ひとつだけ彼女は間違っている。
「じゃあ、これからはそんな我慢、しなくてもいいな」
「え?」
イザベラは呆気にとられたような表情で固まる。
まるで、そんな選択肢、考えてもいなかったように。
「じゃあ、今までの生活は幸せだったのか?」
「……はい、リベルナや他の姉妹たちが幸せなら、それで満足です」
一瞬の間の後、イザベラが質問への肯定の意思を示す。
彼女の思考は歪んでいる。
周りの人がそうさせたのだ。
「じゃあ、ずっと我慢して、辛いのも痛いのも我慢して生きていくのか?」
「つっ……はい」
どんどんイザベラが遠ざかって行くような気がして、思わず抱きしめてしまった。
「それは私が許さない。許せない。
イザベラには、幸せに生きる権利がある」
「あ……」
リベルナは私の言葉に絶句した後、
美しい双眸に涙を浮かべた。
「私、わたしはっ……」
今まで溜め込んできた感情の数々が一気に押し寄せてきた。
「別に私は何もしていないのに、目の色で呪われているって嫌われた」
「うん」
「他のみんなみたいにお母様が欲しかった」
「うん……」
「お勉強も遊びももっとしたかった」
「っ……」
そして、彼女の心には、ずっと心の奥で存在を主張し続けていた、たった一つの望みが残る。
「幸せに、なりたい。
他の人じゃなくて、私が」
それを言葉にした瞬間、彼女の顔が憑き物が落ちたように晴れやかになる。
「それって、わがままかなぁ?」
それは、ルシアンが今まで見た表情の中で一番、美しかった。
「全然わがままじゃない。
これからは私が君を幸せにする。
私はイザベラを守るためなら、地獄でも喜んで歩くよ」
そして同時に、その笑顔を守りたいと思った。
今、ここで真の愛が生まれた。
まだ、渦中にいる彼女らは気がついていない。
歩み出すだろう。
聖女の容姿を持ち、呪われていると言われる一人の姫と、
80年もの間、呪いに体を蝕まれ続けている一人の王子。
手を取り合った2人は、後に伝説となる英雄への第一歩を踏み出した。
まだまだ一章は続くつもりだったのですが、勝手に主人公たちがいい感じになってしまいました。
なので一章、完結とします!!!
読んでいただきありがとうございます!
これからも応援よろしくお願いします!!!!