1.意外なファン
「…ん」
馬車の揺れで目が覚める。
どうやら眠ってしまっていたみたいだ。
確か黒竜様……ルシアン様のところに向かう馬車の中だったはず。
曲がりなりにも王国の姫が結婚するっていうのに、見送りもなく、付けられたのが御者と侍女の3人だけって……。
私って、本当に嫌われていたんだな。
「起きましたか、イザベラ様」
可愛らしい女性の声が聞こえてきた。
「あなたは……」
確か私につけられた唯一の侍女、ベッキーだったかな。
普通のお姫様の侍女ならみんな喜んでなるんだろうけど、私じゃなぁ。
普通の中級貴族の方がまだいいだろう。
「たしかベッキーよね。こんな私の侍女なんてやりたくないと思うけど、これからよろしくね」
よく見ると、ベッキーの体が小刻みに震えている。
やっぱり嫌だよね。呪われたお姫様の侍女なんて。
「あ、あのっ」
「私のもとで働くのが嫌なら、別の場所で働いてもいいわよ。今まで侍女なんていたことなかったしね」
最悪、侍女はいなくてもどうにかなる。
「そ、そうじゃなくて」
ベッキーは声を震わせながらイザベラの方を向いた。
「いっ、イザベラ様の眼の、色、私、好きです。
だから、い、嫌じゃない……です」
ガツンと頭をハンマーで殴られたような衝撃がはしる。
「い、今なんて?」
「だから…」
ベッキーはもじもじしていたけど、しばらくすると、バッと顔をあげて、私の目を真っ直ぐ見た。
「イザベラ様の眼の色、とっても綺麗で素敵だと思います。私は好きです。だから解雇にはしないでください」
もう一度私の頭に衝撃がはしった。
私の眼の色が綺麗?解雇しないで?
「で、でも、私は呪われた眼の……。
しかも、震えていたし……」
私の驚きの声に、ベッキーが間髪入れずに反論する。
「そんなわけないじゃないですか!
私の故郷のオッホンでは、紫色の眼は縁起がいいって喜ばれました。紫の眼が呪われているなんて、迷信です」
「こ、怖くないの?」
戸惑う私の問いに、ベッキーは迷いを一切見せずに答える。
「もちろんです!
それに、イザベラ様の白くて陶器のように滑らかな肌、絹糸のような金髪、そして見るものを吸い込んでしまうような紫色の眼、素晴らしいではないですか。見ているだけであまりの喜びに震えてしまいます。それに、性格もよくて、周りに気遣いができてもう最高じゃ…ハッ。
失礼いたしました。取り乱しました」
ベッキーがヤバいという表情で真っ青になって謝る。
「ありがとう、ベッキー」
「いえ、お礼をしていただくようなことは何も…」
ベッキーは予想外の言葉に狼狽える。
「私ね、人に目を見て話してもらったことがなかったの。それにね、見た目のことで褒められたこともなかったし、中身なんて気にされたこともなかった」
「だからありがとう。ベッキー」
お礼を伝えたら、ベッキーがフィッとそっぽを向いてしまった。
「どうしたの、ベッキー?」
(イザベラ様尊すぎでしょ!
メイド見習いの時に一度見た時から好きだったけど見た目もさらにお美しくなって最高でしょ!
ただの侍女である私まで気遣ってくれるとか性格も良すぎない?
マジで尊い。イザベラ様イザベラ様イザベラ様イザベラ様は神様!!)
「なんでもございません。
イザベラ様、一生ついて参ります!!」
「えぇっ!」
(驚くお姿も美しい。尊い…)
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