18.脱出
手足、動かせない。
声、出せない。
目、見えない。
……まずいかもしれない。
「ねぇ、あんた聞こえる?
お前は風属性ではなかったの。
まさか、嘘をついていたのかしら」
悪意に満ち溢れた声が私に言葉の矢を刺していく。
「ねぇ、嘘つき、忌子、呪いの子、出来損ない。聞こえてるぅ?」
声の主は面白くて仕方がないという様子だ。
「まぁいいわ。お前は魔石を作れるらしいじゃない。
出来損ないのくせに生意気ね。
ーーアレギ、これを家の地下室に持って行きなさい。そのあとはやることさえやらせればこの女は好きにしていいわよ。」
「分かりましったぁ、イザベラ様。
おい、動くなよ」
さっき私を部屋に閉じ込めた男の声がしたと思ったら、乱暴な仕草で持ち上げられた。
「お前、もっと小さくなれ。よし」
そして狭い何かに押し込められた。
さらに上から蓋を閉めたような音がした。
「ガタガタ」
聴覚意外の情報が遮断された世界で、箱が揺れる音だけが聞こえる。
時折話し声が聞こえるが、くぐもっていて、よく聞き取れない。
「おい……そこ……止まれ」
「リベルナ様……荷物。急い……どいて……」
やっぱりあの声はリベルナで間違いないみたい。
どれだけの時間が経っただろう。
ドスンと床に落とされる音がした。
そして蓋を開ける音がする。
「はぁ、着いた。拘束具は外していいんだったよな」
目を覆っていたものと、口に噛まされていた布が外される。
「おい、歩け」
足が痺れて動けない。
「あぁ?動けないのか?」
その直後、体を持ち上げられて、
箱から出してもらえた。
わざわざ出してくれるなんて、優しい……じゃなくて、何が起こっているんだろう?
「嬢ちゃんには悪いが、俺も仕事だからな。
おめぇにはここで一生魔石を作り続けてもらう。逃げようとしても無駄だぞ、ここの扉には特殊な術式が編み込んである。
外からも中からも開けるのは鍵がないといけないからな」
あぁ、魔石か。
でも良い材料を使わないと、質の悪い魔石になるよ。
いいのかなぁ?
「分かったら早く始めろ」
手の縄も解かれる。
そして、男の足音が遠ざかっていき、
ドアの閉まる音が、
「エルサーナ」
祝詞が唱え終わり、光が男に飛んでいく。
「うぇっ?お前、なに……」
成功したようで、男が力を失って倒れた。
「使うのは初めてだけど、成功してよかったわ」
今使った技は、ものから魔力を吸いとるという、ものを魔石に変える魔法の応用だ。
この世界に存在するほとんどのものには魔力が宿っている。
それが今みたいに足りなくなると、エネルギー不足みたいになって、しばらくの間動けなくなるんだ。
ちょっとだけ吸い取るのが結構難しい。
「さーて、帰ろうかな」
ドアを開けたタイミングで魔法を放ったので、鍵がなくても外に出られる。
かなり久しぶりに明るいところに出る気がする。
「やっぱり」
ドアを開けた先にあるのは、見慣れた景色だ。雰囲気からして、リベルナの住む離れっぽい。
私以外の姉妹たちは全員離れを与えられていたからね。これなら私を隠すのも簡単だろう。
まぁ、他の人たちも喜んで協力しそうだけど。
「どなたで……え?なんでお前がここにいるの?」
驚いたメイドの声が聞こえる。
そして、私の正体も分かっているらしい。
この顔には見覚えがある。確かリベルナの専属メイドだったはずだ。
「お前、なぜリベルナ様の屋敷にいるのかしら。まさか、盗み?
リベルナ様に知らせないと!
お前、そこでじっとしていなさいよ。逃げても無駄だからね」
そう言ってメイドはどこかに走って行ってしまった。
おそらくリベルナのところだろう。
そんなこと言われて待つ人なんていないと思うけどね。
もちろん無視するよ。
さらに歩いて、本館の方までやってくると、衛兵が私の前に立ちはだかった。
「おいお前!動くな!止まれ!!」
あっという間に囲まれてしまった。
さらに後ろからリベルナが意気揚々と出てきた。
「侵入者よ!こいつを引っ捕えて地下牢に放り込んでおきなさい!」
顔を薄気味悪く歪めながら、リベルナはそう言い放った。
絶対私が来るの分かっていてここに衛兵を配置したよね。
衛兵も特別に鍛錬された人たちだし。
「おい盗人。何か言い訳はあるかしら。
今なら聞いてやるわよ」
「……」
「何もないわよね。こいつを独房に入れておきなさい」
「……エルサーナ」
またもや私が詠唱を終えた瞬間、周りの衛兵が倒れた。
リベルナは王族なだけあって、多少顔色が悪くなっただけだ。
「な、なんのつもり!」
本当なら連続で魔法を放ちたいところだが、時間が足りない。
ーーなら純粋な魔力をぶつければいい。
「えいっ」
なんの術式も使われていない、ただの魔力の塊がリベルナに直撃した。
「ぐえっ」
それでもまだ倒れない。
リベルナは魔力で全身を覆っているから、
頑丈なんだよね。
これは魔力が多くないと出来ないから
周りに自慢したかったんだろうね。
続けざまにもう一発魔力をぶつけておく。
「がっ」
やっと倒れた。
死にはしないはず。気を付けたから。
近づいてみると、苦しげな表情でうずくまっている。
息はしているようなので、放っておこう。
さらに進んでいくと、やっと王城の入り口に着いた。
でも門には門番が立っていて出られない。
さて、どうしようかな。
「あのー、ちょっと良いですか」
「はい……。の、呪い!侵入者!」
「イザベラ様じゃないのか?
なぜここに!?」
門番さんに話しかけてみるも、この見た目のせいで怖がられてしまった。
なんなら不審者扱いまでされている。
「あー、緊急連絡ー。
ピンクゴールドの髪に、紫の眼をもつ女を見かけたら、捕まえて王城まで連れてこい」
「この人のことじゃないか?」
「れ、連絡しないと!」
門番のうち、1人が走っていってしまった。
「え、ちょっとまって……」
「特徴が全く同じの女を見つけましたぁぁぁ」
「なに!?至急、ひっとらえろー」
あぁぁ、間に合わなかったぁ。
読んでいただき、ありがとうございます!
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では、また会いましょう!