14.儀式成功 (仮)
「来客はいつぶりだろうか。
ようこそイザベラ。君を歓迎しよう」
目の前が真っ暗で何も見えない。
女の人の凛々しい声だけが聞こえる。
「だ、誰ですか」
「私はイザベラだよ。
うーんと、慈愛の神とかいうやつだっけ?」
慈愛の神!
いきなり目の前がぼんやりと明るくなった。
そんなに明るくはないが、なんとか周りが見えなくもない。
「ここは……地下?」
目の前には土の壁が見える。
広さもなく、人が2人入るのがやっとだろう。
「おーい」
またどこからか声がきこえる。
声の主の姿は見えない。
「君は、私に魂を捧げたいらしいね。
前から祈られていたのは知っていたんだけど、魂を捧げられてなんかいなかったから困っていたんだよ。
儀式をしてくれて助かったよ」
やっぱり困っていたか、ごめんなさい……。
「まぁいいよ。
早速儀式を始めよう。普通は私がいなくてもいいんだけど、今回は特別だね。
なにせ、300年ぶりだからね。
張り切っちゃうよ」
300年!?
「300年もひとりだったの?」
「ん?違うよ」
違うの?
「ちょっと前までは、私の子孫っぽい人たちが代々世話してくれていたんだよ」
そうなんだ……。
「では始めようか。
と言っても、君は私のいる祠から来たわけではないようだから、仮のものだけどね。
簡単なものなら使えるようになるよ」
仮なのか。どうやったら正式に魂を捧げられるんだろう。
「目を瞑って。
そう、あとは唱えるだけでいい。
『我、今ここで慈愛の神イザベラに魂を捧げる』ってね。
君に資格があるのならば、それで大丈夫だ」
分かった。唱えればいいのね。
『我、今ここで慈愛の神イザベラに魂を捧げる』
唱えた瞬間、頭がズキンと痛む。
「痛いっ」
『我、汝の魂を認め、光の加護を与える』
「イザベラ、私の祠を見つけてくれ。
そしていつか、正式に儀式を行おう。
またいつか」
「えっ、ちょっと待っ……」
目の前が真っ白になった。
「イザベラ様が帰って来たぞー!」
気がついたら騒がしい大聖堂にいた。
「イザベラ様、お帰りなさいませ!
どうでしたか?感想を!!!」
先生方の顔がドアップで見える。
「お、おぉ」
「どうでしたか?どうでしたか?」
「教えてください!!……ってアコリコ聖生!?」
「おかえり、イザベラ。
急に消えるからどうしたのかと思ったよ」
私が先生方に詰め寄られて困っていると、
アコリコ聖生が助けてくれた。
「儀式中にですか?」
「そうだよ。急に消えちゃったからみんな大騒ぎだったよ」
私、消えていたんだ。
「ご迷惑をおかけしました。
一応儀式は成功しました」
「一応とは?」
「成功はしました。ただ、しっかりした手順で来ていなかったので、仮でしかできなくて……。
しっかりした祠で儀式をしろってことでした」
「祠はまだあるのかい?」
「あるようです。ちょっと前までは誰かが世話をしてくれていたらしいです」
「君が儀式をした場所はどこだった?」
「地下のようでした。
ってなんで別の場所でやったって分かったんですか?」
「僕もそうだったからね。
普通は儀式をやったその場でいなくならずにあっさり終わるらしいけど、たまにいるらしいよ。神との面会許可が下りる人間が」
へえ、そうなんだ。
ってアコリコ聖生もなの?
「僕は気がついたら砂漠に飛んでいたよ。あれはトラウマになった」
さっ、砂漠ですか。
それは、す、すごいですね。
「慈愛の神イザベラはどんな姿だったんだい?」
「見ていません。
声だけが聞こえました。とっても凛々しそうな声でしたよ」
「へぇ、そうなんだ。慈愛の神は凛々しいのかぁ」
すごいカッコいい声だったよ。
それに優しそうだったしね。
「ちなみにアコリコ聖生は土の神に会ったんですか?」
土の神ファッセンダローに会ったのかな?
まぁ、そんなわけ……
「うん、会ったよ」
どええぇぇぇ!
会ったんですか!
「今、世界で広まっているファッセンダロー像は僕が証言したものだからね。
我ながらすごいとおもうよ」
そう言ってアコリコ聖生は胸を張った。
やっぱり、アコリコ聖生すごい人だった……。
「会ったはいいけど、何も言われずに
見つめられていただけだよ」
それは気まずいなぁ。
土の神は何をしたかったんだろうね。
「でもそのおかげで土の神に強力な加護をもらえたよ。
神と面会してお眼鏡に敵わないと帰ってこなくることもあるからね。
君も帰ってきてよかったよ」
だからアコリコ聖生はすごいのかな?
いや、すごいから呼ばれたのか?
ん?どっち?
いやそこじゃなくて!!
「帰ってこないこともあるんですか!?」
儀式でいきなり消えて帰ってこないとか怖すぎでしょ!?
「うん。僕の友達にも帰ってこなかった子がいたよ。
特に優れた魔術師を多く出している家はそういうことが多いんだ」
へぇー、そうなんだ。
魔術で有名な家も大変なんだね。
「帰って来なかった人は生きているんですか?」
「うん、生きてはいるみたいだよ。
その証拠に、いなくなった人も寿命になるくらいまでは戸籍の魔石が光っているから」
生きてはいるんだ。
でもどうやって生活しているんだろう。
「まぁ、いなくなって帰ってきた人はいないけどね。
あっちの神の世界に行ってしまった時点で、自力で帰って来るのは難しいんだよ」
そうなんだ……。
なんとなくしんみりした雰囲気になっていると、大聖堂のドアが大きな音を立てて吹っ飛んだ。
「イザベラ様!!大丈夫ですか!!」
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