3 ファーストエンカウント
鉄板な展開が好きな作者です。
その娘から目が離せなかった。
思考はふわふわしていて、身体は固まっていて、その娘がロボットの手のひらに乗って降りてくるのをただただ見つめていた。
吸い込まれそうな薄いブルーの瞳だ。
アイスブルーとでも言った方がしっくりくる。
手が届く距離にきたその娘は、素早く、
俺に自分が着けていたヘルメットを被せてきた。
そして一本だけ立てた人差し指を唇に当てるジェスチャー。
しゃべるな?
彼女の右腕が伸びて俺の左手首を掴むとロボットに向かって走り出した。
「え? あのっ ちょっとまって!」
思いのほか強い力で引かれてる。
急なことに驚き声をかけるが彼女はぐんぐん進み、ロボットの手のひらに飛び乗ると、乗るのを躊躇う俺に振り向き。
「Qui--」
話しかけられたが何語かわからない。
ところどころしか発音も聞き取れない。
英語のようでどこか違う。
躊躇いながら俺が手のひらに乗ると、ロボットは俺たちを乗せたまま腕を動かし胸部のコックピットへ誘った。
彼女が乗り込む。
手招きをされ、俺も入るが座席は1つだ。
どこに身を置けばいいかわからない。
邪魔にならないところ、と考えて座席の裏側に周り、座席の縁にしがみついた。
彼女はそれを見て一瞬考える素振りをしたが、座席に座った。
俺の位置が大丈夫か考えたのだろうか。
彼女が1つレバーを動かしコックピットが閉じた。
コックピット内360度が画面に切り替わり、外の景色が映る。感動だ。ガン○ムのようだ。
『Eques Alexandra?Did you ---- -----?』
「Yes,sir」
通信が入ったようで彼女は早口で会話しだした。通信相手の声は低く、男性のようだ。
そしてまたな振動が襲った。さっきよりも大きい!
それに…近い?
顔を上げるとソレはいた。
目があった。たぶん目だ。二つ、黒い丸が目の位置にある。
その上には鹿みたいでもっと枝分かれした角。
全体が赤い。脚は四つ。
外見は滑らかな陶器のよう。
鹿みたいな角を生やした、赤い、こっちと同じくらいの大きさのなにか、だ。
「なんだあれ…」
そいつはこちらに向かって走り出した。速い!
彼女が操縦桿を握り、素早く後退する。
俺は胸をヘッドセットにぶつけながら座席にしがみついた。
景色がどんどん前に流れていく。
しかし相手はそれを上回る速さで迫ってくる。
彼女がまた操縦桿を動かし、視界が急激に上昇した。
跳んだのだ。かなりの急上昇だが体にGがかかった感覚はない。
機体はライフルを構え、銃口が緑色に発光し、光の弾丸が打ち出され、角のやつに三発向かっていった。
命中した。倒したのか?
土埃が舞い上がって角の様子が伺えない。
土埃のなかから赤い輝きが見える。何だ?
風に土埃が流れ、一部が見えた。
赤い輝きは、角だった。
角は頭(?)に生えている側から輝き、徐々に角全体に広がっていく。
機体が地面に降り立つとほぼ同時に、真っ赤な輝ぎが角の先端に達した。
そして、そいつを中心に放射状に赤い光線が数多に放たれた。
光線はビルを切り裂き、アスファルトに裂け目を生みながらこちらに迫る。
機体が警報を鳴らす。やばい!
しかし彼女はただ静かに操縦桿を細かく動かし、左右に機体を数歩動かしただけでかわし切った。
「……っ!」
息を呑んだ。
見切ったのか!なんてセンスだ!
全身が一気に鳥肌が立ち、心臓がどくんと高鳴った。
機体は腰部からブレードを取り出し逆手に構えた。
その刃が緑色を帯びていく。
機体が走り出す。
景色がぐんぐん後ろに流れていく。目標は再び赤い輝きを纏いだした。
機体はそいつに肉薄し、走り抜けながら揃いの角を根本から切り落とす。
反転するとブレードをライフルに持ち替え、そいつの後頭部を一発、撃ち抜いた。
そいつは崩れ落ちて頭を地面に叩きつけて静止した。
しばらく見つめてももうそれは動かなかった。
肺の中がからになるほど息を吐いた。
助かった。
生きている。
鼓動は忙しなく、手も震えている。
「なんなんだよ…」
なんでこんな命の危機にあっているんだ。
あのわけのわからない化け物はなんなんだ。
このロボットはどうなってるんだ。こんな技術が現代日本に、いや、世界にあるとは聞いたことも見たこともない。
おかしい。
おかしい。
怖い。なにかとんでもない事態になってる。
怖い。
震える左手に、手が触れた。
驚き、顔を上げると気遣わしげな瞳を向ける少女がさっと手を引いた。
ーーー心配してくれたのか。
その当の彼女は戸惑っているのか視線を泳がせている。不器用な娘なのだろう。
不器用そうな娘のいたわるようなさっきの仕草ーーー優しさに涙が出そうになって堪えた。
日差しが遮られ、視界が影になる。
上を見上げればそれがいた。
巨大飛空艇、白く滑らかな曲線を描くその母艦は空に浮かぶ優美な豪華客船のようだ。
その下部のハッチが開き、緑色の誘導灯が等間隔に灯されこちらを招いていた。
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