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駛走のシャングリラ  作者: 著者のビスマス
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File01 出会い


 二一世紀後半,第三次世界大戦が勃発,当然日本は大国とのいざこざに巻き込まれることとなり本土が戦場になることすらあった。どうにか敗戦国の烙印を押されずに済んだのだが閣僚たちに休む暇を与えられることはなかった。間髪入れずに次の課題が飛び込んだ。膨れ上がった借金,他国との関係,そして少子化問題だった。子供が減れば減るほど,借金の返済,破綻しかけている経済からの復興は困難を極めかねなかった。そこで官僚たちはある一つのシステムを構成することにした。


 この一連の計画はシャングリラ計画と名付けられた。それは生まれてきた子供の教育,養成を国により管理するシャングリラシステムを軸にするものだった。これにより少子化の問題はひとまず解決した。親元から強制的に子供を引き離す手法が問題視されることとなったが半ば黙認されていた。最も親からしたら養育費がなく我が子の幸せを思い預けるパターンが多かったこともありシステムとの同化は進んでいった。


 そうしてシャングリラ計画は想定通りに進んでいったがその二十年後,当初の目的とはまったく違う方法で運用されていくことになった。対外政策の対応にしびれを切らした軍によるクーデター通称“三・一二事件”。結果,日本の内閣首脳陣は全滅,文官による軍の制御は崩れ,軍部による支配が始まった。。手始めにシャングリラシステムを応用して徴兵制できるように改良を行い安定した軍事力の供給に成功した。だが前者の方とは異なり武力の行使も辞さない手法は段々不満が募っていく結果となった。少なくとも圧倒的な武力により反乱を行おうとするものはこの十年間ついぞ現れることはなかった…。


 ソウタは相手に向かって脇腹に剣を振り下ろす。特殊な金属で作られた装甲により斬撃によるダメージは入ることはない。だが衝撃に関して言えば別である。耐え切れずに吹き飛ばされる。汚れ一つない純白の壁にぶつかり鈍い音が発生した。無論,本気の殺し合いではない。模擬訓練である。剣の名称はより正確に言えばエナジーブレード,空気中のサイファ粒子を吸収し薄緑色の刃を形成する。模擬訓練用に出力を低く設定しているため当たっても軽く痺れる程度だが本来は人体を容易く切り裂く代物である。


 「青井蒼汰の勝利!」

無機質なジャッジの声が室内に響き渡る。

 仰向けに倒れているショウヘイに駆け寄り手を差し伸べた。

 彼は堅苦しいデザインのヘルメットを脱いでいた。

「ソウタ相変わらず強いな,うん強い。さすが主席に名を連ねるだけのことはある。

だがなぁ~もうちょっと加減ってやつを覚えやがれ」

彼は飄々とした口調で喋りながら強めに手を握った。おそらく彼なりの親愛の証だろう。

「悪い,悪い。今度の手合わせはもうちょっと調整するさ」

俺はレモンを口にしたような苦笑いで返した。


彼の名は山城 翔平,俺の親友だ。成績は俺より優れているはずなのだが無断欠席,遅刻が相次ぎ教官からも素行面での評価はすこぶる悪い。妙なことに休憩時間は大体どこからともなくともなく飛んでくるハトとつるんでいることが多い。彼に聞いた話だと一緒にいると心が落ち着くそうだ。


 「今日は一緒に食わないか?」


 着替え室で装甲服を脱ぎながら答えた。


 「いいさ,暇だったし」


 俺たちが過ごしている場所は全国に二百か所以上ある軍事教練施設だ。生活に必要最低限の衣食住に問題がないようになっている。十年前のシャングリラ計画の改定により,十五歳以上の年齢に達したもの全員が強制的に入れられるようになる。無論,拒否権はないのだから。


 昼食後,教練所の中庭でダラダラと下の年齢の者が訓練している様子を眺めていた。

 昼食中,いろいろな話をした。装甲服が自分と相性が悪いだの,ルームメイトの寝相が悪いとかだ。

 要は他愛もない世間話って奴だ。


 「なぁ,今の日本ってどう思う?」


 唐突だった,ショウヘイはたまによく分からないことを言い出す。

単純に意図が読めない。

これでも二年以上の付き合いだ,彼の素性には割と詳しいはずだが,これだけはいまだに分からずにいた。


 「どうって?間違っていないんじゃないか,少なくとも基本的な国民の権利は保証されているはずだ」


 当たり前だ,国民の生活を管理することによって平穏を保っているのだから。間違っているはずがない。



「まさしく,模範的な回答。まぁ普通はそう答えるわな」


軽く手をたたきながら彼は反応した。

だが話の山場はこれからだった。

「俺はこの世界,いや日本の現状を変えたいと思っている

「どういうことだ?!」

俺は勢いのままショウヘイに詰め寄った。

「まぁ待てよ,今から話すからさ,ほらスローダウン,スローダ…」

 

 その時だった。ハトが首にかけていたIDカードを掴み持ち去っていった。こう文字に起こすとあり得ないだろう。だが起こってしまったものは仕方がない。IDカードがないと施設での日常生活で支障をきたす。

 

 「悪いな,続きは帰ってからちゃんと話せよ!」

 彼に捨て台詞を投げつけ,俺は泥棒(ハト)を追いかけた。

 

遅くなってしまった。

ハトとの激烈なチェイスを行うこと約二時間,あちら側が疲れたのか,または偶然か,IDカードを落として太陽が沈みゆく方に飛び去った。

もし門限に遅れれば,色々と言われることになるだろう,

例を挙げるなら,一時間以上の管理官との受け答え,原稿用紙 三枚分の始末書の作成など無駄にやることが増えかねない。


走りだそうとしたその時だった。

少女が立っていた。

あまりの事態に俺は思考を止めてしまった。

思考が再開した要因は彼女の行動からだった。

黒い長髪を風になびかせながら発した。


「少し,時間はよろしいかしら?」


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