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表 : 美食令嬢の婚約破棄

 天窓から燦々と暖かい陽の降り注ぐ、美しさと豪華さと清潔さを併せ持った王立学園内のカフェテリア。

 そこで繰り広げられたのは、世にも奇妙な光景でした。


「……! もう我慢ならん! ヴェロニカ! 僕はお前との婚約を破棄する!」


 学園の生徒大勢が遠巻きに眺める衆人環視の中、一方的に婚約破棄をする状況。

 これは奇妙といえば奇妙ですが、その事ではありません。


 仁王立ちで大声を上げた男は、この国の第三王子。見目麗しいと評判のレオナルド殿下。

 その右手は己の婚約者を指差し、左手は小動物のような愛らしさを持った震える少女の肩を抱いています。


 一方、王子の指差した先には、その婚約者、こちらも麗しき公爵令嬢のヴェロニカが座っています。

 しかし、その座っている様子が婚約破棄という言葉と相まって実に奇妙なのです。


 彼女の為に設えた特別豪奢なテーブルセットに椅子。

 大きなテーブルの上には、様々な料理の皿。

 それを次々と動画の早送りのように、完璧なマナーであっという間に食べていく公爵令嬢。

 陰でその別名を、大食い―――いえ、美食令嬢と言われるその人です。


 周りには彼女の取り巻きである男女の生徒が数名おり、忙しそうに食事の皿を出したり片付けたり、時々彼女がぼそりと呟くのにあわせて用事を済ませに走ったりしています。


 王子はヴェロニカを睨み付けますが、彼女は涼しい顔で鴨のローストオレンジ風味を食べ終わりナフキンで軽く口元を拭いてからにっこりと答えました。


「あら殿下、突然何を仰いますの? わたくしには婚約を破棄される謂れ(いわれ)は無いと存じますが?」


「謂れなど山ほどある! その悪食だ!! 幼い頃から貴様はいつもいつも人の食べ物を奪い、いやしく食べてきたではないか!」


「まぁ誤解ですわ。それに殿下のお食事やお菓子を少ーしだけ頂いたのは小さな頃の話だけでしょう? 今になって婚約破棄だなんて道理が通りませんわ」


「今も! この場で! 俺の食事を奪ったではないか!」


 王子はヴェロニカの取り巻きの一人、黒髪の長身の男が持つ皿を指差します。

 皿には腸詰め(ソーセージ)のトマト煮込みの食べかけが残っていましたが、その料理の赤さと同じくらいに王子の顔は怒りで真っ赤になっています。


「この、可愛いソフィアが手ずから俺のために用意してくれた料理を取り巻きに奪わせ、あろうことか『まずい』と吐き出した癖に無かったことにしようとするのか!!」


「こんな酷い食事を殿下に出すなんて信じられませんわ。……ね、ソフィアさん」


 ヴェロニカがその冷たい美貌でチラリと王子の傍らを見ると、視線を向けられたお仕着せ姿の少女―――ソフィアは目に涙を溜め、怯えた様に王子の服の裾をぎゅっと掴みました。


「ひどいです、ヴェロニカ様ぁ。わっ私は……殿下に、カフェテリアにも美味しいものがあると知って貰いたかっただけなのに……」


「許せん! 悪食の事だけではない!! お前はこのソフィアを苛め、階段から突き落としたというではないか!! そこまでするとは、公爵家の一員にあるまじき恥ずべき行為だ!!」


 二人が泣いたり怒ったりしている間にもなお、料理を食べ続け、時折隣の取り巻きに何かを囁くヴェロニカ。

 その細い身体の一体何処に料理が入っていくのか、まるで魔法のようではあります。

 しかしその様子に驚くどころかますます王子の怒りはヒートアップし、恥ずべき行為だとヴェロニカを批判したのです。


 王子の批判にヴェロニカの顔色は全く変わりませんでしたが"公爵家の一員にあるまじき"という一言に、ナイフを持つ指先がほんの少しピクリと動いたのを取り巻きの黒髪の男は見逃しませんでした。


「それも全くの誤解ですわね。まぁ公爵家の一員としては少々出過ぎた真似をしたのは認めますけど」


「ではソフィアを苛めたのは認めるんだな!」


「いいえ。でもやりすぎたのは貴方もでしょう? ソフィアさん」


「ー! ……っ。殿下ぁ~」


 王子にすがるソフィア。それを見てますますヴェロニカを憎むレオナルド。

 ヴェロニカは溜め息をひとつついてまた料理を食べ、ぼそりと呟きます。


「ええ。確かに()()()()()()良い出来ね」


 そこへ取り巻きの一人に連れられ、カフェテリアの責任者とシェフが真っ青な顔で現れました。


「ヴェロニカ様、何か不手際がございましたでしょうか?」


 レオナルドは驚きました。今この場にいる中で一番身分が高く優先されるべきは第三王子の自分である筈なのに。

 しかし責任者とシェフの二人は王子の方を最初にチラリと見て黙礼こそしたものの、ヴェロニカの機嫌を取ろうと必死です。


 まるで、公爵令嬢こそがこの場を統べる女王のようです。


「ちょっとお伺いしたいのだけれど、そちらのソフィアさんは間違いなくこちらの給仕(ウェイトレス)かしら?」


 ヴェロニカの問いにハキハキと答える責任者。


「はい。3ヶ月ほど前に前任が退職するため雇いました。庶民ですが実家は大きな商家だそうで、身元もしっかりしております」


「ええ。わたくしの"影"が調べた結果も同じでしたわ」


「影だと!! お前はどこまでも卑劣な女だな!!」


 "影"とは、主人を危険から守ったり、諜報活動などを行う文字通り影の存在。

 影を持つのを許されているのは王家と極少数の貴族だけです。

 その影にソフィアの事をわざわざ調べさせたと聞いて、レオナルドは更に怒りを募らせました。


「では、その給仕のソフィアさんを、普段関わりの無い、王立学園の生徒であるわたくしがどうやって苛めるのかしら?」


「……は、」


 質問の内容に責任者はポカンとしています。


「更に、わたくしがソフィアさんを階段から突き落としたのだそうですけど。お仕事で忙しい筈のソフィアさんが、カフェテリアを離れて学園内の階段に行くことがあるのかしら?」


「いや……それは、無い……のでは……」


「ありますぅ!! 休憩中に、ちょっと階段に行ってみたんです!! それに苛めだって、学園の皆さんが私を無視したり、ヒソヒソ陰口を言ったり……!」


 責任者が無いと否定したのに慌ててかぶせるように、涙声で抗議をするソフィア。


「無視や陰口ね……。それはこちらのせいではなくて?」


 ヴェロニカの言葉に取り巻きの女性がサッと前に出て、小さな可愛らしい紙袋をその手に取り出しました。


「あっ」「あっ……何故それを」


 レオナルド王子とソフィアが同時に声を上げ、そして二人は顔を見合わせます。

 ソフィアは気まずそうに俯き、レオナルドはその様子を不思議に思いましたが、ヴェロニカへの怒りと憎しみでその疑問はすぐにかき消えてしまいました。


「この王立学園は、貴族の子女と、その従者のうち優秀さを認められた者だけが通える所でしたわね」


「何を決まりきった事を……!」


「そこのカフェテリアの従業員になれば、庶民でも学園に出入りし、貴族階級の男性に接触できる数少ない機会を手に入れられるわ。そうよね?」


 王子の言葉を不敬にも遮り、責任者に質問をするヴェロニカ。


「……はい、ソフィアの前任は、男爵家のご令息に見初められまして。婚約したためにここを退職しました」


「だからそれが何だというのだ!! ソフィアはその後ここに入ってきた以外に何の関係も無いだろう!!」


 唾を飛ばさんばかりに怒るレオナルドと対照的に、それまで遠巻きに見て口をつぐんでいたカフェテリアの他の客―――――学園に通う貴族の令息達が何人かざわめき始めました。


「ソフィアさんは前任者の事をご存じでしたのよ。だから、めぼしい貴族の令息に顔を覚えて貰うよう、その紙袋を何人にも渡そうとしていましたの」


「……なっ!! ソフィア、あれは俺にだけ渡してくれたのでは無かったのか?」


「……」


 ますます俯いて小さくなるソフィア。


「ソフィアさんはご存じ無かったのでしょうけど、そのなかには婚約者がいる男性もおりましたの。

 ですから女子生徒に陰口を言われたり、声をかけた男子生徒に無視をされても仕方ないですわね。もともと料理を運ぶ給仕が貴族の子女と仲良く話をする方が特別な例ですし」


「……庶民だから、貴族は彼女を無視しても良いのか!! か、彼女は手作りの焼き菓子を味見してくれと言っていただけだ!! 決して(よこしま)な考えではない!! 俺は彼女の優しさを知っている!!」


 もはや苦しい言い訳をするレオナルド。ヴェロニカは冷たい目を彼にも向けます。


「……手作りの焼き菓子、とても美味しかったのでしょうね」


「そうだ! 素晴らしかったぞ! 王宮のシェフにも負けない……」


「負けないはずですわ。うちの領地の自慢の味ですもの」


「は!?」


 レオナルドの顎が外れそうなほど、かくりと大きく落ちました。


「我が公爵家の領地が広く豊かで、この国の5割以上の小麦を賄っているのはご存知でしょう? 他の農業も盛んで、新鮮な材料を使った料理を研究するシェフも大勢抱えています。わたくしの父が"美食公爵"と言われる由縁でもあります」


「……それがどうした」


「その中に、特に焼き菓子が得意なパティシエがおりましたの。小麦とバターと砂糖だけで絶妙な味わいの焼き菓子を焼けますのよ」


「……それが」


「あまりに美味しいのに、下級貴族や裕福な庶民でも買えるくらいの値段で沢山作れてしまうものですから、うちの領地とこの城下に店を出しましたの。お陰で大好評でして。うちの小麦が尚一層消費されてますわ」


「……そっ」


「そこの紙袋に入っていた、幸運の四つ葉を模したクッキー。これはわたくしが以前、殿下に献上したものと同じものですわ。

 殿下は『庶民が食べるものを俺に食わせる気か』と大変お怒りで粉々にされたかと」


「なっ……あれは」


 以前の自分がソフィアと同じ庶民階級を蔑んでいたと指摘され、慌てるレオナルド。しかしソフィアはレオナルドの方を向こうとしません。


「あの時殿下はクッキーのかたちすらご覧になりませんでしたね。せめてその時にご覧になっていれば、ソフィアさんのクッキーは城下の店で()()()手作りしたものと気づけたかもしれませんのに」


「……ソフィア、本当か」


 暫く俯き黙っていたソフィアが、潤んだ瞳でレオナルドを見上げます。


「嘘をついてごめんなさい。私、皆さんと仲良くなりたかっただけなんですっ! ……でも自分で作ったクッキーよりお店の方が美味しかったからつい……。

 それに、私が作ったものだと変な物が入ってないか疑われるかと思って……」


 オ~ホホホホホ! とカフェテリアの天井に高笑いが響きます。

 これぞ悪役令嬢、とばかりに笑うヴェロニカ。


「その通りですわ。殿下の影は、そのクッキーを確認して大丈夫だとわかっていたからこそ、敢えて見逃しておいたのでしょう。でも語るに落ちるとはこの事ですわね」


「何!?」


 青い顔で控えていたカフェテリアのシェフの方に向き直り、話しかけるヴェロニカ。


「シェフ、今日のメニュー、全てあらためさせていただきましたわ。幾つかは改善点がありましたので、あとでわたくしの従者に聞いてくださいね」


「はっはい!! ヴェロニカ様、ありがとうございました!」


「いいえ、このカフェテリアにも"美食公爵"の息がかかっている以上当然の事ですわ。ところで、これは何でしょう?」


 黒髪の男がそれまで持っていた皿をシェフの前に突き出します。


「は、これは今日のメニューの一つの腸詰めのトマト煮込みですが……おや?」


 一度顔色が戻っていたシェフが、今度は紙のように白くなりました。


「先ほど、わたくしはソフィアさんが殿下に持ってきたその料理と、わたくしの従者が持ってきた料理を食しました。後者は大変美味しかったですわ」


「……は、はい、ありがとうございます」


「この二つの皿は、見た目はそっくりですわね。でもこちらは少し味が変でしたの」


「……はい。この腸詰めからは、ごく僅かですが妙な匂いがしますね。これは私が作った料理に後から手を加えられたのだと思います」


「……何!?」


 思わずレオナルドはソフィアを見ます。もうソフィアは王子を見上げていません。再び俯き、真っ青になっています。


「先ほど殿下は、小さい頃にわたくしが殿下の食事やお菓子を奪ったと仰せでしたね」


「……あれは事実だろう! 俺がどんなに嫌な気持ちだったか」


「やはり、お気づきではなかったのですね。あの時わたくしは、毒見を命ぜられていたのですわ」


「……嘘だ! 毒見係はあの場にきちんと居た!」


「大人の毒見係では平気でも、子供の身体なら致死量となる毒もございます。わたくしは殿下と同い年、同じくらいの体格でしたから。

 ある程度大きくなってからは殿下の食事を頂かなくなったのも、毒見係で役目を充分に果たせるようになったからですわ」


 ヴェロニカの言葉に、今度はレオナルドが真っ青になる番でした。

 髪をかきむしりながら、それでもヴェロニカの言葉を否定しようと必死で考えながら言葉を紡ぎます。


「いや……だが、俺は一度寝込んだことがあるぞ! お前の毒見は役に立たなかった!!」


「致死量よりもかなり少ない毒なら、敢えてお身体に慣らすことも必要、と国王陛下より仰せつかっておりましたので」


「な、何だと……父上が……」


「殿下はお気づきではなかったのでしょうが、一度ではありません。薄い毒は何度も口になさっております。勿論、わたくしも」


 ヴェロニカの冷たい微笑に、ゾッとするレオナルド。


「毒を盛る側は、殿下でも、婚約者のわたくしでも、どちらかを害す事ができれば良かったのでしょう。ありとあらゆる毒をこの身で味わいました」


「……」


「お陰で、殿下もわたくしも毒の耐性はついております。ただ、ひとつだけを除いて」


「ひとつだけ……それは何だ」


「惚れ薬……口にした後に、目の前にいる相手に魅了される毒薬です。殿下とわたくしが惚れ薬で仲良くなることは毒を盛る側には不都合でしょうから、それを食事に入れられた事はございません」



「…………!!」


 レオナルドがその事実に気づいたとき、周りのギャラリーと化していた貴族達の中でも勘の良い何名かは同じ事に気づき、ざわざわとしはじめました。

 レオナルドが、シェフの前にある皿を見つめ、再びソフィアを見ます。

 ソフィアはがくがくと震え、もう立っていられない状況です。


「ですから、先ほどソフィアさんに()()()()()、とお伝えしたのですよ。惚れ薬など使わずとも、殿下は貴方の嘘を信じてくださっていたのに」


「……あ……ごめんなさい。ごめん……なさい、殿下……」


 がくりと膝を突き、止めどなく溢れる涙をこぼすソフィア。


「私、わたし……最初はヴェロニカ様の仰る通り、貴族なら誰でも良かったんです。」


「ソフィア!」


「でも、殿下と話すうちに楽しくて、優しくて、暖かくて……私、ほんとうに殿下の事が好きに……。」


 呆然とするレオナルドでしたが、ハッとしてソフィアを抱きかかえ叫びます。


「シェフ! その皿を捨てろ!!」


「!!」


 慌てるシェフの手から、黒髪の長身の男がサッと皿を取り上げます。


「何をしている! その皿を捨てろと言ってるんだ! 俺の命令が聞けないのか!? 王家に逆らう気か!!」


「殿下、未遂とは言え王家の人間に毒を盛った事実は見過ごせませんわ。犯人は処刑ものです」


「いや! 未遂だから、俺が王家の人間だからこそ見過ごせる!! ここに俺より偉い奴はいない! その皿にはなにも入っていない! これが事実だ!! いいな!?」


「で、殿下ぁ……」


 今度こそ本物の涙声のソフィア。彼女をしっかと抱きしめ、王家の威信を振りかざすレオナルド。

 その様子を見て、溜め息をついたヴェロニカが皿を持つ男を見ます。


「……だそうですわ。この手は使いたく無かったのですが」


「ははっ、レオ。男としてはカッコいいが、王子としては悪手だな」


「!! その声は!!」


 男が自身の黒髪を掴み引っ張るとカツラが外れ、長い前髪で隠されていた美貌――――レオナルドとよく似た端正な顔立ちと、美しい銀髪が現れました。


「兄上!!」


 この国の第二王子、アーノルド殿下の出現に、亡霊でも見たかのような顔をする第三王子レオナルド。

 カフェテリアの中は騒然となりましたが、第二王子がその凛とした声を発すとしん……と静まり返ります。


「"ここに俺より偉い奴はいない"だっけ? 第二王子(ぼく)の前でも同じセリフが言えるかな」


「!!」


「ていうかさ、さっきヴェロニカ嬢の側に居た従者の一人、帰ってきてない奴いるでしょ。気づかなかった? あれはお前の影だよ」


「!!!」


「ヴェロニカ嬢が惚れ薬に気づいて吐き出した後、それを持って父上の所に報告に行っている筈だ。もう揉み消すなんて無理だと思うね」


「!!!!」


 再び真っ青になって震えるレオナルドとソフィア。

 第二王子はその唇の片方だけを吊り上げました。美貌のせいか、より残酷に恐ろしく見えます。


「さて、王家の人間に毒を盛ろうとした重罪人と、毒を盛られた当事者とは言え、それを権力で揉み消そうとしたバカ王子。これは王家にとっても酷いスキャンダルだ」


「……」「……」


「しかし二人とも罰を与えられず、かつスキャンダルを美談に変えるとっておきの方法がある。」


「!!」「本当ですか兄上!?」


 第二王子はニヤリとして頷きました。


「レオナルド、今すぐ王位継承権を放棄して臣下に(くだ)れ」


「な!?」


「父上も鬼ではない。きっと侯爵くらいの爵位と領地は用意してくださるだろう。もともと王太子である我らの兄上が王となった暁には、ヴェロニカ嬢と結婚でもしない限りお前の地位はそこに落ちつく予定だしな」


「な、な、な……」


「王家の人間に毒を盛れば未遂でも重罪だが、あくまでもただの一貴族に毒を盛った未遂なら、その被害者の貴族の裁量で始末できる。処刑することも、寛大な恩赦を与えることも、な」


「!!!」


「王子が庶民の美しい娘と恋に落ち、娘は叶わぬ恋に狂って薬を使おうとする。王子は娘を庇って王族の地位を捨てる。これは美しい恋物語、美談ではないか。本にでもすれば庶民の夢となり、評判となり、お前達の名誉になるだろうな」


「……」


 青くなったり赤くなったり、白くなったりと忙しいレオナルドの顔を見て、ヴェロニカは席を立ちます。


「お話中ではございますが、わたくしはこの後ダンスと剣のレッスンがございますのでこれで失礼致します……ああ、レオナルド殿下」


「……なんだ……」


「先ほどの婚約破棄、慎んでお受け致します」


 ヴェロニカは美しく完璧な淑女の礼をして、その場を去りました。


 それは実に奇妙な婚約破棄でございました。



裏舞台へ続きます。

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