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息を切らせながら教室に辿り着くと、入り口で私たち三人は、彼を探す為に教室をキョロキョロと見渡した(他のクラスメートには、不振な目で見られてたけど)。
すると。
「あっ、珠稀(今さら名字で呼ばれても違和感があって、名前呼びを許しました)。何処に行ってたんだよ。」
って、口を尖らせて近付いてくる彼に、クラス中が驚いた顔をしながら私たちを見ていた。
まぁ、その中には剣呑な視線も混じっていたが……。
イケメンの不貞腐れた顔なんて、早々拝めるものじゃない(普段笑顔を絶やさない彼の意外な顔と言えばいいのか……)。それが、こんな私の性だと思うと居たたまれない。
「お、探す手間省けた。」
星香が口にしたから、彼はキョトンとした顔で首を傾げた。
「まるで犬だな。」
とボソリ聞こえた声に、私も同感だと思った。
でも、今の彼の顔が、 "可愛いかも" 何て思ったことは、内緒にしておかないとね
「木崎。今、ちょっと出れるか?」
星香が問う。
彼は、私の頭を撫でながら(名前呼びを許可したら、スキンシップが増えた。解せぬ。)。
「……珠稀と離れてか?」
と不満を口にする。
彼にしたら、今しがた見つけたのに直ぐに離れることが嫌なんだろ。
気付けば後ろから抱きつかれてるし。
大人しくしてる私もいけないのかもしれないが……。
「その珠稀ちゃん絡みの厄介事。」
瑞歩が口にすれば、私の顔を横から覗き見てくるから私は首を縦に振った。
もう、顔近過ぎでしょ。彼の整った顔が目の前に在るって、あ~もう、どうしたらいいのよ。
恥ずかし過ぎて、顔に熱が集まってくる。
「あっ、珠稀。顔が真っ赤。可愛い。」
って、耳元で囁かれて、俯くしかなくて。
そんな私を助けるように。
「珠稀から離れて。」
星香が私の腕を引っ張って、背に隠してくれた。
「あっ!」
彼は、ムスっとした顔をして声を上げ。
「珠稀の事なら、幾らでも時間作る。」
と答えて、二人が苦笑する。
「珠稀ちゃん、愛されてるね。」
瑞歩が揶揄って来る。
その言葉に更に顔に熱がこもる。
彼に目を向けたら、熱が籠ってる視線とぶつかり顔を背けた。
「ここじゃない方がいいんだろ?」
彼の言葉に星香が。
「そうね。余り聞かれたくないかな。」
と口にした。
「じゃあ、こっち……。」
彼は、そう言って私の手を掴んで歩き出した。
星香と瑞歩は、私たちの後ろを付いて来る形になった。
。
着いた場所は、技術棟に在る空き教室。
入り口のドアを閉めて、鍵をした彼に。
「こんなところ、良く知ってたね。」
瑞穂が感嘆な声を上げる。
「部活の先輩から聞いたんだ。…で、珠稀絡みの厄介事って?」
彼の言葉に私たちは顔を見合わせて話し出した。




