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授業の合間の短い休憩時間も彼は、私の所にやって来て(宣言通りに構いに来る)は、通路に座り此方を伺いながら話しかけてくるのだが、ボイスだけが届いて内容が入ってこない(時折相槌は打っているが……)。

此方は、書き写す事に集中している為、無意識で対応している。

「珠稀が、相手にしてくれない。だったら俺も手伝う。」

口を尖らせて、拗ねたように言い出した彼に、これ幸いと画用紙と本で書き出して欲しい箇所(予め付箋でページは決めてある)を指して渡す。

すると彼は、下書き無しで直接マーカーペンで画用紙に書き出した。確かにその方が早いけど、字のバランスを考えながら書くことも大切じゃないかって思い包も、黙認した。

ただ一つだけ困った事は、彼の字が以外と癖字(人の事言えないが)で、少し読み難いかなとは思ったんだけど、本人が遣る気になってるのに水を差すわけにもいかず、見守ることにした。



「珠稀ちゃん、星香ちゃん。次の授業、科学室に移動だってさ。」

作業を進めていると瑞歩ちゃんが声を掛けてきた。

「そうなの。ありがとう、瑞歩。」

私は、作業の手を止めて、それらを片付けて、教科書とノート、筆記用具を手にして席を立つ。

彼も、慌てて手にしているマーカーペンに蓋をして、それらを手に自分の席に行く。

星香と瑞歩と一緒に教室を出る。

そこに。

「珠稀ちょっと待って。俺も一緒に。」

と背後から慌てふためく彼の声が聞こえてくる。

聞こえない振りをして先に行く事も出来たが、廊下で何度も呼ばれるのもイヤなので足を止めた。

私に合わせるように二人も足を止めてくれる。

「ゴメン。」

口パクで謝れば、二人は苦笑しつつも横に首を横に振ってくれた。

「お待たせ。」

彼の軽やかな声が側で聞こえた。

彼は、私の横に当然のように並ぶ。前には星香と瑞歩が居るが、これってセイフ……だよね。あれ、アウト?

何て考えていたら。

「二人とも悪いな。お詫びに荷物、持つよ。」

彼が申し訳なさげに言うが。

「自分のは自分で持ちますので。」

星香が胡散臭そうな目で彼を見ながら言う。

「じゃあ、私は持ってもらおうかなぁ……。」

瑞歩が口にするが、星香の一睨みで。

「あ~、やっぱ、自分で持つ。」

慌てて言い換える。

「珠稀は?」

彼は、期待を込めて私を見てくるが、ここで承諾すればあの人に何されるか分からない。

「自分で持つから大丈夫です。そこまで重いわけでもないですしね。」

やんわりと断りを入れたら、あからさまに落ち込んだ。

今、彼の頭上に犬の耳があったら、確実に垂れ下がっているよね。そこまで落ち込むほどの事なのかって思う。

「ところで木崎。何故、珠稀に構うんだ? それに本人の承諾も無しに下の名前で呼ぶのは、どうかと思うぞ。」

星香が此方を振り返りながら質問を彼にぶつけた。

私も、名前の事聞こうと思ってたから、タイミング良い。

私は、隣を歩く彼の顔を見ると、動揺を隠せずにあたふたしてる彼が、ちょっと可愛いなと思っていた。

「珠稀……あっゴメン。そんなの決まってるだろ。長戸さんの事が好きだから、少しでも俺の事を意識して欲しくてさ、側に居たいと思ったら行動に出てた。名前の件は、もっと早く承諾を得ようとしたんだけど、言いそびれてしまって……。」

真顔で星香の質問を返して、熱い眼差しで此方を見てくる彼。

「フ~ン。木崎くんって、モテル割にちゃんと考えてるんだ。」

瑞歩の何処か含みのある言い方に。

「そっか。当たり前の事だと思うぞ。好きな子にアピールしたいし、嫌われたくないからそれなりの努力はするだろ。男だって、女と変わらないぞ。」

どや顔で言いきる彼だけど、女子に思わせ振りをするのは、どうかと思う。

あの先輩の事も、尾にひいてるみたいだ。

彼の言葉を聞いてると、あの先輩が勝手に妄想して、彼が自分を好いていると思い込んで暴走してるだけなんだろうけど……。


はぁ~、本当に何だろうね。

確かにさ、高校生活中に恋愛も出来たらっとは思ったけどさ、今現状の事は私が望んでるものとは、ちょっと……大幅に違う気がする。


この状態を楽しむ余裕なんて、私には無いよ。


ただ、クラスメートの生暖かい視線は常に感じられていて、見守られていると実感してはいる。


他人事みたいだけど……さ。






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