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部屋着に着替えて、パパの書斎に向かう。
その途中で、ママの調子外れた鼻唄が聞こえてきて緊張が少し解れ笑みまで浮かぶ。
ママは、料理してる時が一番楽しそうだ。
何て思ってたらあっという間に書斎に辿り着く。
一つ、大きく深呼吸してから、ドアをノックした。
「はい?」
中からパパの問う様な返事に。
「珠稀です。」
と告げると。
「入って良いぞ。」
何時もと違う声音で帰ってきた。
ドアを開けて中に入る。
本棚には、びっしりと本が詰まっていて、入りきらない物は床に詰まれていた。
そんな中、背を此方にして机に向かっていたパパが此方に振り返ると。
「で、木崎の倅とは、どういう経緯で付き合うようになったんだ?」
険しい顔付きで、単刀直入に聞いてきた。
私は、戸惑いながら言葉を考えゆっくりと口を開いた。
最初に、入学式の時に自分が彼の声に惹かれていた事。
彼と同じクラスになってた事。
彼の推薦で同じクラス委員に成った事。
委員以外で接触はしてなかった事。
最近になってアプローチしてきた事。
今日、クラスの皆に囃し立てられて返事をした事。
それらを包み隠さずに淡々と遂げた。
「付き合いは今日からなんだな?」
厳しい顔付きで、確認するように聞いてきた。
私はそれにゆっくり頷く。
「珠稀は、周りに乗せられて答えたのか?」
困った顔をしながら聞いてくるパパ。
ふと経緯だけ話して、自分の気持ちは口にしていないと気付き。
「私は…彼が傍に居ると安心…落ち着けるのです。彼の目が優しげに"大丈夫"と訴えてくると自ずと勇気が湧いてきて、実行で来るんです。烏滸がましいとは思ったんですが、私が彼を支えたいとさえ思ってしまったんです。」
自分の思いを相手に伝えるのは難しいし恥ずかしい。
でも口にしないと伝わらない。
だから、隠さずパパに言うしかなかった。
「そうか……。パパは、珠稀が幸せになれるのなら誰と付き合おうが問題無いと思ってる。だがな、木崎家とのパイプを繋ぐのはマイナスにしかならないんだよ。」
最後の方は小声だったが、確かに聞こえてきた。
マイナスとは、どういう事?
何かあるのだろうか?
「珠稀の気持ちはわかった。退室していいぞ。」
パパはそう言うと背を向けた。
私は、言われた通りに部屋を出た。
部屋を出るとママが此方に向かっていた。
パパに用事かな?
何て思っていたら。
「珠稀ちゃん、パパの部屋に居たの?ご飯出来たから、食べよ。」
驚いた顔をしながらも、何時もの声音で言うママ。
「うん。」
私は笑みを浮かべて頷く。
「パパに声を掛けてくるから、先にダイニングで座ってて。」
ママはそう言うと部屋をノックする。
私は、そのままダイニングに向かった。




