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最寄り駅で下りて改札口を通る。
その間に手を繋がれて、彼が此方を振り返り。
「スーパーはどっち?」
と聞いてきたので、繋いでない方の手で指で示しす。
「どうした?」
私が喋らない事に顔を覗き込んできて、不思議そうに見てくる。
いや、まぁね。
まさか、この私が地元の人通りが多い時間帯で、知り合いに遭遇しかねない場所で手を繋いで彼と歩くなんて思ってもみなくて、ちょっと、イヤ、大分狼狽えているなんて、知る由も無いだろう。
しかも、彼はイケメンの部類だ。
同年代の女の子達が、さっきからチラチラと彼を見て私を見て何やら言ってるのが耳に入ってくるのだ。
その言葉が胸を抉っていく。
わかってるんだよ、私とは釣り合ってないって……。
そんな事考えてたら。
「田所さん?」
って声が掛かった。
えって、そちらに振り返れば、中学の同級生で、誰もが認める美人の佐藤さんが此方に近付きながら、彼と繋がれた手を交互に見ているのがわかる。
最悪……。
「久し振りね。」
そう口にしながら私の方を一度も見ずに彼の方をじっと見つめてる。
彼女が彼を狙ってるのが目に見えてわかる。
中学の異名が"狙った者は逃がさない"だったはず。
やだな。
私は、どうしたら……。
「珠稀の知り合いか?」
彼が私の耳許で聞いてきたので頷き。
「中学の同級生。」
とだけ伝えた。
彼女を紹介したら、捕られちゃうんじゃないかって……不安になった。
「そっ。珠稀、行こうか。余り遅くなると親御さんが心配するだろ。」
彼は何事も無かった様な態度でそう口にした。
思わず顔を上げて彼の顔を見る。
すると。
「珠稀のそんな顔、始めて見るな。」
って、笑みを浮かべる。
そんな私たちのやり取りに痺れを切らしたのか。
「ちょっと、無視しないでよ!」
と佐藤さんが怒鳴った。
その声で周りの注目を浴びる羽目に……。
あ、どうしよう。
私は、キョロキョロ周囲を伺いオロオロするしか出来なくて、情けなくなる。
そんな私を庇うように。
「何か用でもあるのか?珠稀の同級生なだけだろ。親友とかじゃないなら、退いてくれ。」
彼の冷ややかな声音、初めて聞いた。
庇われてるから顔はわからないが……。
後ろから覗き込めば、彼女が顔を赤らめ。
「私は、貴方に用があるの。」
意を決したように声を出す。
えっ、まさか……。
「早く言えよ。」
彼が催促する。
「貴方、私と付き合いなさい!」
と上から目線の物言いに目が点になったが、こんな美人から言われたら断るわけ無いよね。
この時は、彼の気持ちを信じきれてなかった自分が居た。
「はぁ~。誰がお前みたいなブスと付き合うかよ!」
って、彼が珍しく怒鳴り返していた。
その言葉に彼女の方が目が点になり、そして"私がブス……"って口をパクパクさせている。
「初対面で何も知らない見かけだけのヤツと付き合うなんて、有り得ない!それにな、珠稀 だけが好きなの。中身もだ。だから告白されても断るだけだ!!」
とはっきりと言いきった。
私は、彼の言葉を聞いて恥じた。
彼の事信じてなかったのだから……。




