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「帰ろっか。」
彼の言葉に頷き、今度はちゃんと足を動かす。
彼に何か伝える事があった気がして、頭の中を巡らす。
「あっ…。」
思い出したと同時に声が出てしまい。
「どうした? 忘れ物か?」
彼が驚いた顔をして、此方を伺ってくるから首を横に振り。
「井上さんと坂井さん、今日用事があったみたいで、クラス旗の作成明日からにしたよ。」
事務報告になってしまったけど、共有しておきたい事柄だから、きちんと伝えた。
「そっか。まぁ、急だったし仕方ないか……。下書きは彼女たちが居ないと無理だしな。」
私の勝手な判断で答えを出したから怒るかなって思ったんだけど、彼は受け止めてくれた。
「体育祭までに完成出きればいいから、それは良いとしよう。で、他に聞いておかないといけない事はあるか?」
彼の言葉にそれ以上には何も浮かばないので、首を横に振る。
「ならいいんだ。何かあれば、直ぐに言えよ。」
彼が繋いでない方の手で、私の頭をポンポンとしてくる。
接触過多では?
さっきから、私が恥ずかしく思う事ばかりしてくる彼。
顔が上げられず、俯き加減で歩く。
こんなイケメンの彼の横にごく普通の自分が居て良いのかって不安になってくる。
「そう言えば、珠稀。寄り道って?」
彼が唐突に聞いてきた。
「えっ…あぁ、ママに卵を買って来てと頼まれたので、スーパーに……。」
って、ついママって言っちゃった。
カァ~って余計恥ずかしくなって、顔が熱い。
母って言わないといけないのに、普段使い馴れてないから……。
そんな私を気付かってなのか。
「そっか……。なら、最寄り駅のスーパーの方がいいな。」
って、私が言った'ママ'は聞かなかったことにされ、彼が私を本当に家まで送ろうとしている事に改めて感じた。
駅までの道をとめど無い話しや、時折ある沈黙も嫌じゃないと感じる自分が居て、何とも不思議な感じがした。
彼は、歩調を私に合わせてくれていて、そんな然り気無い優しさに嬉しくなる。
駅に着き、改札口を抜ける。
自分が乗る電車のホームに降り立った時だった。
プルルルル…プルルルル…。
何処からか着信音が聞こえてきた。
自分のかな?
って思ってると。
「悪い、出ても良いか?」
彼が声を掛けてきたので、コクリと頷いた。
聞いたらダメだろうと少し距離を取ろうとしたのだけど、ギュウッと強く手を捕まれてしまい離れる事が出来なかった。なので腕が伸びる範囲での距離しか離れられなかった。
時折焦った声を出したり、此方をチラチラと見たりしてくるから、自分の事を話してるんだろうとは思うんだが、詳細はわからず首を傾げながら、彼の電話が終わるのを待っていた。
暫くして、電話を終えた彼がどことなく疲れた顔をしていたので。
「大丈夫?」
と声を掛けてみた。
「あぁ、大丈夫だ。」
笑みを浮かべて言うから、私には心配させたくないのかなって思った。
「なぁ、珠稀。珠稀の家って、資産家か何かか?」
突然聞いてくる彼に虚をつかた。
彼も、些か戸惑いながら聞いているのがわかる。
でも、彼の質問に対して、私は答えを持っていない。
っていうか知らないのだ。
唯一わかるのは、ママの実家が大きな屋敷だって事だけで、家はごく普通の家だし……。
と考えていたら。
「ごめん。今のは聞かなかった事にして。」
って、彼が言ってきた。
多分、私が困った顔をしたからそう言ったのだろう。
でも、何でそんなこと聞くんだろう?
と不思議に思った。




