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始業のチャイムが鳴る直前、私の席に影が出来た。
顔を挙げると彼が安心した顔をして溜め息を吐く。
また艶かしいことで、周りに居た女子の頬を仄かに色付かさせていた。
「おはよう、珠稀。何時の間に教室に……。」
彼が問い詰めてきた。
今の言葉で彼が、門で待っていたことは確定だ。
待っていて貰っても、困るんだけど……。
彼にとっては、大事な時間なんだろう。
けど、私にとっては迷惑なこと……。本当にそうなのかな……。
「今日は、私と待ち合わせて早めに来た。文化祭の準備を進めるためにね。」
星香が私の代わりに答える。
私では、上手く誤魔化す事が出来なかったから、助かった。
「本当に?」
彼が疑いの目で此方を見てくる。
「今してる作業が、嘘だというの?」
瑞歩の言葉に机に視線を落とす彼。
まぁ、手元に有るのを見れば、一目瞭然だと思う。
それを見て納得しつつも。
「いや、それなら俺にも声を掛けてくれれば良いだろ? 同じクラス委員なんだから。」
と、最もらしい返答を膨れっ面で言う。
イケメンがそんな顔をクラス内で曝しても良いの?
何て思っていれば。
「キャー、快翔くん、可愛い~!」
と周囲の女子が声を上げた。
やはりか。
この彼の無自覚さには、呆れるしかない。
「担任が来たよ。席着かなくても良いの?」
私は、淡々と見たままの事を告げれば、彼は自分の席に戻って行った。
この時は、席が離れててよかったと思った。
ハァ~~。
つい溜め息が出てしまった。
彼の事は信頼できるし、自分の中では好きが徐々に増えていってる。
だけど、その芽を育てていくには自信が無くて、直ぐに摘むいでしまってる。
これは、自分自身の問題だと思ってるけど、そろそろ限界が来ているのも確か。
彼と接していくうちに好きな所が増えていき、その芽を摘むには手が足りなくなってきている。
どうしたら……。
そんなことばかり考えている自分が居る。