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「それより、珠稀ちゃん。これ終わったよ。」
瑞歩が用紙を取り出して私の目の前に差し出してきた。
彼女から話を変えてくれた事にホッとしてる。
「ありがとう。瑞歩、資料本見せて。」
私はお礼を言ってから渡していた資料の本を出してもらう。
瑞歩が書いてくれたページの付箋に赤ペンでレ点チェックを入れて、他に書く所が無いか確認する。
「瑞歩の方はもう写す所がなさそうね。」
再度確認して。
「瑞歩の方は終わったね。」
そう口にして私は資料本をそのまま預かり、書いてもらった用紙は丁寧にファイルに仕舞った。
疑ってるわけではないが、一様誤字とかの確認を後でしないと……。
そう思いながら。
「手伝ってくれてありがとう。助かりました。」
瑞歩に改めてお礼を言った。
「そんなの大した事してないよ。」
口からは謙遜の言葉が出ているが、嬉しそうな笑みを浮かべている瑞歩。
言ってる事と表情が一致してない事に本人は気付いていない。
星香はこういう所が胡散臭いって言ってるんだろうなぁ。
「他にやること有るなら請け負うよ。」
って、優越感に浸ってるところ悪いけど。
「今のところ無いかな。クラス旗が決まったらそっちの手伝い、お願いできる?」
私が請け負ってるモノで瑞歩に任せられるのはない。
「わかった。」
納得して頷いてくれた瑞歩に怪しい点はこの時点では無かった。
「あっ、星香ちゃん。今日の髪型違~う。」
瑞歩が矛先を星香に移した所で。
「珠稀、ちょっと良いか?」
彼が声を掛けてきた。
「うん。」
何があっただろうか?
彼に連れらて廊下に出た。
人が来ない廊下の片隅に移動すると。
「これ。」
と差し出されたのは付箋。
それは資料に貼っていた付箋で、先生の指示付きのもの。
私は疑問に思いながら彼の顔を伺う。
彼も困惑しながら。
「山崎が資料本を渡す前に故意に外したんだ。珠稀から見えない角度で。」
そう口にした。
「ありがとう。このページは私が彼女のわからない様に写すよ。この事は他言無用でお願い。」
私は、胸の前で手を合わせてお願いする。
「でも、それじゃあ、珠稀の負担が……。」
心配そうな顔して彼が言う。
そんな彼に。
「瑞歩がしたい事が何なのかを、見極めたいんだ。」
真顔で言えば。
「それが ”昨日の言葉” の意味なら、俺は見守るしかないか……。だが、さっきの珠稀に対する言い方には、腹が立った。自分だってそれ程勉強出来ないくせに……。」
彼が怒り顔で言い出す。
「あれが、彼女の憂さ晴らしだと思うの。自分より下の人を貶すことで優位に立とうとする彼女のね。」
人を立ててる様で、実は貶して自分が優位に立とうとするのが瑞歩だった。
半年間一緒に居てそう確信が持てたのは、星香の彼に対する態度。
彼女は見た目重視で中を見ようとはしない。
だから、彼を見た途端あから様に嫌悪な顔をして、別れた後に貶すと言う態度に出たんだと思う。
星香はそれが分かっていたから、瑞歩には会わせたくないと言ってたんだが……。
「じゃあさぁ、珠稀が山崎よりも良い結果を出せば良いわけだ。」
彼がそう口にし、考え込み出す。
まぁ、そうかもしれないが、もう一つ方法があると思う。
「木崎さん。私のクラスからの信頼度って、何れ位だと思います?」
私の突飛な質問に。
「ん? あぁ、二分の一位まではいってるんじゃないか。この間の件で、ある程度上昇しただろうし……。」
彼は少し考えてからそう口にした。
無いと思ってた信頼度が、半分有るとは嬉しい誤算かもしれない。
ここからもう少し上げれば彼女も自爆せざる終えなくなるかも……。
何て考えていたら。
「また、一人で考え込んで……。何を企んでいるんだよ。俺にも教えてくれるよ、ね。」
良い笑顔で抱き締めてしまい、抵抗出来なくなり彼にある事を告げたのだった。




