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「木崎さん。今更ながらつかぬ事をお聞きします。」

 私がそう口にすれば。

「何だい?」

 耳元で甘い声が返ってくる。

 あうッ……。 

 それは反則です。

 私は自信の右耳を手で押さえ。

「流されるまま私は木崎さんの前に座ってしまいましたが、これって何か意味があったのでしょうか? 別に隣に座っても良かったのではないでしょうか?」

 疑問に思ったことを口にした。

「あ~、それは…。俺が珠稀に触れていたかったから。さっきのご褒美として……。」

 と答えが返ってきた。

 えっ、ご褒美?

「だって、この方が自然に珠稀にくっついていられるだろう。だから、そうなるように導いたんだ。」

 と早口で捲し立てながら、弁明しているがその声には熱を帯びている感じがするのだが、気のせいでしょうか?

「もしかして、嫌だったか?」

 落ち込んだ声で緊張気味に聞いてくる。

 私は首を横に振った。

 嫌だったかと聞かれたら、嫌では無い。寧ろ落ち着いて話せたと思う。

 彼の腕の中だと安心できてしまうから、不思議だ。 

 無くなっていた自信さえも取り戻せたみたい。

「良かった。極力珠稀が嫌だと思うことは避けたいと思ってるけど、俺自身が暴走し出したら止まらないと思うんだ。だからその時は遠慮なしに叩いてくれて良いから。山崎みたいにな。」

 と安心したかの様な脱力した声で、私の背中に彼が凭れてきた。

 私は、思わず。

「フフフ……。」

 と笑みを浮かべていた。

「何、笑ってるんだよ。」

 横目で彼を見れば、少し不貞腐れた顔をして此方を見ていた。

「だって……。木崎さんでも緊張するんだなって思って。」

 私の言葉に一瞬目を瞠目させてから。

「当たり前だろう。俺はロボットでは無いですからね。そこの所を間違えないでください。」

 と訴えるように言ってきた。

「特に、珠稀と言う女性に対しては、何時も緊張しっぱなしです。今、この触れているだけで、緊張して手が震えているのですが、気付いていませんか?」

 逆に丁寧な言葉で私の耳許で囁いてくる。

 だから、その声でその言葉は反則なんですよ(私にとっては)。

 そう思いながら、彼を睨み付けたのだが、効果無くて撃沈させられました。

 で、言われた通りにお腹に廻されてる彼の手を見れば、小刻みに震えているのがわかった。

「好きな娘を怖がらせないように尚且つ、自然に触れれる事がこんなに緊張するなんて思いもしなかった。」

 ポツリ呟かれた言葉に ”ボフッ” と音と煙が出てるんじゃないかって言うほどの熱が体内を駆け巡っていく。

「どうした珠稀。そんな顔を赤くして。寒かったか?」

 心配そうに此方を見ながら、背後から私に覆い被さってくる。

 いやいや、あなたが平然と暴露した言葉達に翻弄されてるんですよ。

 背中越しに伝わってくる温もりが余計に私を戸惑わせてくる。

「これなら、寒くないよな。授業が終わるまでこのまま引っ付いててやるよ。」

 甘い声音で言われて、益々戸惑ってしまったが、フと思えば、これは彼にとっての更なるご褒美に当たるのでは? と思わずにいられなかった。

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