後編
騒動のあった卒業パーティーから一夜明け、本日はこの王国の立太子の儀が行われる日。
ここ立太子の儀を行う会場である王城の大広間には、この国の重鎮をはじめ、様々な貴族が参列してにぎわっている。
儀式を行う壇上には、国王陛下が座る玉座があるが、まだ王族は誰も現れていない。
そんな中、ラッパの音が高らかに鳴らされ、立太子の儀の開始を宣言した。
壇上横からこの国の宰相が現れ、立太子の儀の開始を宣言すると、玉座の後ろにある扉から国王夫妻および側妃、第一王子であるセドリック、そして二人の王女が現れた。
ここにきて会場に参加した貴族たちは「おや?」とした顔をしたが、近くの誰かと会話するわけにもいかず、疑問を残したまま宰相の次の発言に気を配っていた。
「これより立太子の儀を始める。まずは国王陛下より立太子の儀について宣言をお願いいたします」
その後、国王陛下から今代の立太子の儀を無事執り行える事への感謝の意を伝えられたが、その後の話はここに集まったほとんどの貴族たちには衝撃の内容だった。
それはどのような内容だったかというと、今から15年前、側妃が生んだ第一王子が生まれた一月後の話で、その時王妃も子を産んだ。
産んだのだが、生まれたのは双子だったという。
そして生まれたのは、男児と女児の二人だったのだが、男児はとても弱っていて、このままでは成人は無理だろうとの医師の見解だった。
そこで城付きの占い師に占ってもらった結果、成人するまでの15歳になるまで女性として暮らし、王城からは離れて育てることとの結果が出た。
そうする事により、無事成人しその後は末永く暮らして行けるであろうとの宣言だった。
この宣言を聞き、藁にも縋る思いで重鎮たちと話し合い、その結果女性としてシーボルト侯爵家に一時的に養子に出すこととなり、これまで女性として暮らしてきたと発表された。
そう、その人物とは、この国一番の美女であり、同年代からは貴族子女として羨望の的であるレアナスタ嬢の事であった。
これを聞いたセドリック第一王子はというと、顔を青ざめ、今国王陛下の言った発言を信じられないといった表情で、今にも飛びかかりかねない雰囲気を醸し出していた。
そのセドリック王子の雰囲気により、壇上にいた近衛兵はというと警戒心をあらわにしていたが、国王陛下がレアナスタ嬢……いや、レアナタス王子の入場を促したことにより霧散した。
その入場の宣言により、広間の入り口が開けられ、そこには中性的な容姿の、しかし誰もが目を引かれる美貌の、少年から青年へと移り変わる一人の男性が、王族の正装で立っていた。
レアナタス王子は国王陛下の前まで進み、片膝をついて最上位礼を取ると、国王陛下が王子の元まで下りていき、錫杖にて王子の肩を叩いた。
これをもって、レアナタス王子はこの国の王太子として正式に立太子した事となり、この場にいた全ての貴族は大歓声を上げ、割れんばかりの拍手でレアナタス王子を迎え入れた。
しかし、これを良しとしない者が一人だけこの場にいた。
そう、自分が将来この国の王になるのだと疑っていなかったセドリック第一王子だ。
「これはどういうことだ!私が、私がこの国の王になるのではなかったのか?立太子するのは私ではなかったのかっ!?」
その発言に、他の王族の面々はというと、可哀そうなものを見る目で見つめ、参列した大半の貴族はというと痛ましい視線を向けていたが……
王子の母親である側妃がその王子に対して
「セドリック、いつも言っていましたよね?あなたは予備なのだと。なぜその事が理解できなかったのですか?」
「し、しかし母上。今までこの国の王子は私一人しか……」
「レアナタス王子の事はたとえあなたでも教える事は出来ませんでした。ですが、あなたに施した教育は国王になるものではなく、そのサポートをするものだったはず。なぜそこからあなたは予備なのだときちんと理解できなかったのですか?」
確かに一人しか王子がいない状況では視野狭窄を起こし、自分が将来国王になるのだと、王太子になるのだと勘違いし、思い込んでしまうのは仕方のない事かもしれない。
さらに、たとえこの国の王子と言えど成人していない子供に安易にレアナタス王子の事を教えるのも、どこからかその情報が洩れ、レアナタス王子の命にかかわることになればそれはそれで問題になるため、知らせることが出来なかったのも仕方ないと言える。
だが、アナスタシア嬢が何故王太子の婚約者という地位にあり、セドリック王子の婚約者ではなかったのかをきちんと考えれば、まだましな考えに至ったのではないだろうか。
その後、昨日のセドリック王子の発言により城の牢に投獄されていたと思われていたアナスタシア嬢もこの場に登場し、レアナタス王太子との婚約が正式に発表され、ここに参列した貴族たちから盛大な祝福を受けた。
後日この事は国民にも理由込みで宣布され、一部混乱はあったもののおおむね良好のムードで歓迎された。
その理由として、市中パレードを行った時に王子の姿を見た市民からの感想が大きな役割を果たしていた。
そして昨日セドリック王子の発言により中止となった卒業パーティはというと、後日改めて行われることになり、それにかかる費用はセドリック王子の個人資産で賄われることとなった。
また当の王子はというと、卒業パーティーにて様々な越権行為の発言を行い、その結果国に混乱をもたらしたとして継承権を剥奪され、その身は戦火の絶えない国境沿いの砦へと派遣、そこの司令官としての立場を与えられた。
もっとも、司令官というのも名前だけの物であり、その砦の実権は副司令官にあり、あくまで立場だけのものであることは言うまでもない。
所詮は地方追放というやつである。
そして数年後、隣国からの激しい侵攻により一時砦は占領され、セドリック王子の行方はこの時を境に不明となった。
その2年後、王国軍により砦奪還に成功するも、そこに王子の姿は無く消息不明、遺体も見当たらなかったが、王国としては王子の死亡を国民に宣布した。
こうして生まれてすぐ女性として育てられたレアナスタ嬢は、無事レアナタス王太子としてアナスタシア嬢と結婚し、その10年後に国王となり、末永くこの王国を良い国へと導いていったと歴史書には記されている。