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#8 壮太朗の事情

「それを踏まえて次の特訓だ。一切邪魔はしない代わり、出力を一割切るほどに落とす」

「え、そんな極端まで削るの」

「どうしても必要になる」


 壮太朗は見本で錬纏を徐々に解いていく様子を見せるが、目に見えて装甲が一切消えている。


「消えちゃった?」

「これで合ってる。よく見ろ」


 空を切った壮太朗の指先にはきらきらと光が尾を引いている。

 その光景に城介は見覚えがあった。

 壮太朗が追いかけていた男から放たれていた光そのものである。


「身を守る装甲は無い代わりに、はっ」


 一跳びで何メートルも高く跳び、そばに生えている木のてっぺんに着地してみせた。

 そして木から木へ何度か飛び移って最後は宙返りしながら元の場所へ帰ってきた。


「身体強化はしつつも装甲として発動されるぎりぎりまで絞り、最大状態とは真逆で破壊力や防御を捨てる代わりに、物理的な圧迫を解消して普段通りの直感的な動きが出来る」

「だから逃げてるときに使ってたんだ」

「形は人間のままだから細い道でも自由に動き回られてしまう」

「ねえ、その逃げ回ってる人にも事情を話してみたらどう? 僕も一緒に手を貸すから」

「無理だ。…いや、一応試してみた結果だ。そいつも既に()()()と接触していて、対立を決めた俺とは別に逃げ回ることを選択したらしい」

「なるほど…ちなみにそのモモセ、っていうのが警戒するべき脅威なんだ」

「ああ。妙な奴だと注意はしていたと思うが頑なにモモセ、とだけ名乗っていたのも不気味だったな」

「モモセ…それで、壮太朗は別にモモセ以外は追わなくてもいいんじゃないの?」

「いずれは対峙する相手だからだ。それに一番の修業は実戦を積むこと。実際、出力の調整は精度と時間が要求されて、その緊張感はただの人間相手じゃ再現できない」

「要するに私じゃ不満だったってこと。うん、なかなかもどかしいなー」


 その場の唯一の錬纏を宿さぬ人間であったはるがそう口にした。


「いや、そんな気持ちを持てるなんてすごいと思うよ。僕が逆の立場なら怖いとか、無関係だろう、とかで無視してたかもしれないし。はは…」

「ありがと。月丸くん。で、ソウは相変わらず…昔から思い詰める癖があるよね」

「う、うるさいな。俺は別に貸しをつくりたくないだけだ。世話焼きが」

「はいはい。…ん? ごめん電話だ。あ、ひなちゃん、すぐそこまで来てるの? 待ってて、今そっちに行く。ひなちゃんが来てるんだって、ちょっと連れてくるね」


 はるは電話口で待ち合わせの場所を決めて、公園の出入口へと小走りで向かっていく。


「壮太朗達ってさ、最近越してきたんだよね」

「そうだが」

「まさか今回の問題のため?」

「俺達は田舎の離島生まれで、もともと高校から本州の方に通わなくちゃならなかった。モモセ云々はまあ正直視野には無かった」

「モモセと会ったのはいつ? っと、それより錬纏が使えたきっかけが先か」

「同時だ。時期は…およそ年が明けてすぐ。まだ島にいた頃、突然やってきたやつになす術も無くて死にかけた、かと思った時に偶然出た。今思えばそれが狙いだったんだろうがな」


 現在は6月の上旬、壮太朗は城介よりおよそ5か月経験が上であった。


「というか、その状況まんま最近の僕じゃない?」

「まあ、俺が体験していて確かなやり方だったからな。…なんだ、俺はきちんとこうしてその後までフォローをしてるだろ」

「いいよ。確かに嘘はついてないみたいだし。で、二人とも同じ高校に?」

「…なんだよ。別に見知った仲がいる分には悪いことは無いしな」

「近所に住んでるの?」

「なんでそうなる」

「いや帰りの心配してたみたいだし」

「学校の寮だよ。当たり前だが別々の建物だし、いちいち顔を合わせてたら目立つってのにああして世話をやく」

「なんというか…いい関係だと思うけどな」


 不満は口にしているがその全てを否定する口ぶりではなく、遠慮なく意見を言い合える仲に、城介は素直に感心したのだが、壮太朗は深刻な顔をしている。


「…ちょうど二人はいないし、話しておくべきだな」

「二人って、はるさんとひなのこと?」

「ああ。この闘いで一番危険に晒されるということをな」

「危険って、まあ行動とかがどうしても一緒の時が多いけど」

「それだけじゃない。俺達の錬纏にはどうしてもそれぞれの存在が必須だということだ」

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