#7 出力と感覚
「『ソウのやつ携帯壊れててさ、連絡ならこっちにしてくれていいよ。月丸くんとも連絡取れるようにしておいて』か。よかった、何かあった時には助かる」
「ごめんね、私部活で今日は外すから」
「ううん。ひどいものを見せられるだろうから…いや、なんでもないや。それよりも連絡先知っててくれて助かったよ」
城介はひな経由で壮太朗達との連絡先を教えてもらっていた。
「こっちはなんだかんだ散々だった…そっちはどう?」
「ああ、はるちゃん? んーとね、城介達と別れた後なんだけど、二人とも最近こっちに引っ越してきたばっかだから近所を案内してほしいって言われてしばらくいろんなところまわってみて、それでついでに連絡先も」
「そうだったんだ。引っ越してきた、か…まさかわざわざこの競争のためになんだろうか」
「はるちゃんから聞いたけど本当の話なの? なんでも願いが叶うのもそうだけど…正直、城介がすごい力を持ってるとは思えなくて」
「見せてみた方が手っ取り早いけどまだ不安定なんだ。驚かせるわけにもいかないし、けどすぐにコントロールしてみせるよ」
城介はまだ完全に理解できなかったが、恐ろしい力であるのは自覚していた。
下手にひなの不安を煽らないようになるべく感情を抑えつつ特訓に備えていた。
昨日と同じ時間と場所の待ち合わせ。
一つ違いがあったのは、はるが新たに特訓に加わったことだ。
「別に来なくてもよかったんだぞ」
「でもソウってば携帯無いでしょ。また迷ったらどうすんのさ」
「ったく、昨日は帰ってこられたからいいだろ」
「その帰るのに何時間かかったっていうのよ。心配したんだから」
「あのな。俺はただの人間じゃないのはお前だってわかってるだろ。いいから特訓だ」
言っても聞かないと諦めたかはるが壮太朗のそばから離れると、特訓開始の合図。
空気が変わり、壮太朗の錬纏が発動する。
「まずは昨日の続き、スケールは無視でとにかく錬纏を発動させろ」
「オッケー。イメージして、纏う。…うん、一応それだけならもう自分の意思でできる」
「両手足のみの装甲、これについて指摘したことを覚えてるか」
「小回りが利かないんだよね」
「よし。そのために全身で出力をコントロールする特訓だ。お前は今部位ごとにばらばらで、腕と比較して足がおよそ三割の状態で、残りはすかすか」
「すかすか…間違ってはないけど」
「お前は今から全身の錬纏を発動し、そのすべての出力を揃えろ。わかりやすく全て十割だ」
城介は両手足の感覚を全身にイメージする。
鎧を纏うように、体からあふれるそわそわとした雰囲気を留めて、体に密着させ形にする。
深呼吸と同様、吐き出せるだけの息を、あふれてくる力を限界まで吐き出す。
「はー、これが全力…うん」
「なるほどな…そのまま維持できるか」
「え? ああ、このままね」
城介はふと壮太朗の声が遠い気がした。
それに意識がぼうっとして、直立不動のまま肩の力が抜けている。
だが錬纏の制御に没頭し過ぎたせいだと気にも留めなかった。
「あと動かずにいろ。試したいことがある」
「試したいこと?」
「ちょっと衝撃が来るぞ」
城介が防御の構えを取る間も無く壮太朗の腰の入った一発が腹に入る。
二人から十分に離れていたはるにも空気を通して衝撃を感じさせるほどの威力であった。
「ちょっとソウ、今のは…」
「…あり得ねぇ、やっぱ化け物かよ」
「…っ、おい壮太朗、いきなり何を…」
城介は拳の感触ではなく、壮太朗の一連の行動を目で見てから錬纏の一切を解除し、虫のように後ずさる。
そしてすぐにがさがさと風に揺れる周囲の樹木に驚き、あちこちを見渡した。
「あ、あれ? 寝てたっけ…」
目を覚ましたばかりの時のような、意識だけがはっきりとしていて遅れて音や匂いを感じる気分だった。
完全に意識と五感が戻ってきて、徐々に事態を把握する。
殴られたはずの体に痛みは無い。
そして逆に壮太朗の方が苦い顔をしている。
「口で説明するよりもこうした方が手っ取り早いからな。全身にまで出力を最大で開放すれば防御も補える」
「確かにわかりやすいし体感もしたけど…」
「その反面行動が鈍くなる。五秒ぐらいだっただと思うがお前自身どう感じた」
「…細かく数えてないや」
「意識がもうろうとしていたということ。仕組みはわからんが、分厚い装甲で周囲の変化に疎くなるのは確かだ」
「なるほど…」
「全開の錬纏は単純な攻守に特化しているが代わりに繊細な面を殺している。致命的な弱点だ」