#6 力の片鱗
「嫌な気分だ…ほら、放してよ」
城介は自分の両腕に力が漲るのを感じた。
それは強力なはずの壮太朗の拘束も薄っぺらい布切れのように払いのけられるほどだ。
「0か100だけ、か」
壮太朗の言葉を口にして、錬纏使いには避けられない運命を静かに嘆く。
そして制御しきれない力でもせめて大けがはさせないようにゆっくりと前方の壮太朗を平手で薙ぐ。
「…大振りすぎる」
瞬時に錬纏を解いた壮太朗が低くうつ伏せになるとあっさりと城介の攻撃はかわされた。
間髪入れすに距離を詰めてくる壮太朗に対し、城介は薙いだ手でそのまま防御をした。
だが、何ら強化のされていないはずの壮太朗によって無防備な足元を払われてしりもちをついてしまった。
「ったく、せっかく発動させてこれか。お前、これが俺じゃなかったら詰んでたぞ」
「…ん?」
「慢心してるな。たった今、お前はただの人間にここまで追い詰められたってことだ」
「あ、あれ? 今のが負け?」
「鈍い奴だな…まあ、なんだ。ぎりぎり合格だ」
「さっきのも本当に演技だった…?」
「あれぐらいしないと出さないだろ。実際この通り」
「それはどうも。ああ…覚えてろよ、僕だって本気で怒るからな」
「ともかく第一段階は完了した。次は制御。こっちの攻撃を受け続けろ」
「受けるのみ?」
「ああ、立ってそこでひたすら耐える」
強引なやり方をされたが城介は錬纏を発動することができた。
口を開けば壮太朗からは優しい言葉などは一切無いが、出会ったばかりの突き放すニュアンスのものよりずっと張り合いがあって悪くないものだと城介は感じていた。
「のに! ひー、息が苦しい!」
「何言ってんだ? 喋ると舌噛むぞ」
「このぉ…」
錬纏を構成しているものが何か不明だがとにかくごつごつと鈍い音が絶え間なく続く。
城介は咄嗟に発動できた両腕で防いでいるのだが、衝撃が錬纏越しにずんずんと響く。
耐えろとは指示されたが終わりが見えない。
壮太朗の体力切れを望むが、先ほどの体さばきは見事なもので、武道を経験しているというのは間違いない。
突出したスポーツや武道の経験の無い城介の方が体力的、身体的にも限界が近いのは明らかだった。
「…今度は反撃させるように仕向けてる…のだとしても抜け出す隙も無いぃ…」
安全な間合いがどれほどか把握しているが猛攻の中で走ることは不可能で、できたとしても一歩ずつゆっくりと歩くぐらいだ。
「足だ、なんとかして強化させて跳び出す」
両腕にある感覚を両足にも纏わせる。
そして壮太朗の鼻をあかしてやると己を鼓舞しぐっと歯を食いしばる。
「こうだっ、はああっ」
地面を蹴り上げた確かな感触。
数秒の滞空時間の後、目論見通り十分に距離を稼いで猛攻を逃れた。
「足にまで発動できたか」
「…やっぱそうさせたかったんだ」
「けどまだいびつだ。両腕が大きすぎる」
「言われればそうか…んー」
「さっきみたいに懐に入られたら手出しができない。こうして、状況に応じて都度調整が求められる」
壮太朗は両腕をそれぞれ大きさを変えて比較して見せてみる。
たとえ最低限に削ったものでも木の枝など造作も無く折ってみせたのだから侮れないものだ。
「今日はこれぐらいだな。また明日、この時間で稽古だ」
「明日、もだよね…」
「教えてくれ、と言ったよな」
「二言は無いです…」
「…この辺りならいいか」
城介と別れた後、壮太朗はひとり公園の備蓄倉庫の陰で腰を下ろしていた。
大きなため息をついて天を仰ぎ、疲れた顔をしている。
「俺の方がばてそうになるとはな…あいつの方があほみたいに暴走してたはずだってのにぴんぴんしてやがる…果たしてあいつがまじにあほなだけか、あるいは危険なほどに怒りを秘めてるのか」