#4 未来のために闘う
「城介、やっぱり約束した場所に行くの?」
壮太朗達との約束当日の帰路、ひなが城介を心配してそう尋ねる。
「ああ、話をしなくちゃいけないからさ。ひなはどうする?」
「城介が行くならついてくよ。それに変な質問も答えられてないし」
「考えてきた?」
「『何でも願いが叶うなら』、でしょ?」
城介は登校してからすぐにひなにそう質問をしていた。
ただ、老人が話していた錬纏に関することは一切省いてである。
「少し前なら、テレビとかネットじゃなくて本当にいろんな美術館を回りたい、とかだったけど今はね、もっとわくわくすることがあるの」
「ひなだったらそうか。きっと背後霊さまに関連したことだろうけど」
「背後霊さまの完成はいつか叶えたいよ。そのために実際に目で見ていっぱい学びたい」
「うん。実際に見てみないと感じられなかったりするんだね」
「で、改めて見つけたのはこれ」
ひなが常に持ち歩いているスケッチブックを城介に突き出す。
「…結局背後霊さまってこと?」
「背後霊さまが城介の以外にあるってこと。これは壮太朗ってひとの、城介はこれ」
「確かにところどころ違う」
「まだまだ見つけていない背後霊さまがいるかもしれない。それを全部探してみたいな。それが今の私の夢」
「僕と壮太朗の背後霊さま…ん? まさかだけど、ひなには錬纏にまつわる何かが見えている?」
「れんてん?」
「いや、なんでもない。…折角なら見せてあげたかったな、って無謀だよな」
あの場に居合わせた城介、壮太朗、はるを除いて唯一状況を理解しておらず、まして描きわずらいなどをこじらせているひなが城介に何も聞かずにいるなんてことは万に一つも無かった。
老人から聞いたことを包み隠さず話したとして、『不死の軍勢』などという危険な力があることを教えて自分と同じように思い詰めて欲しくはなかった。
だが嘘をつくのが苦手な城介は平静を取り繕おうとしても不審がられてしまうだけだと、悩んだ末に錬纏に関わることは省いて『大いなる力』にあたる願い事を尋ねていた。
気を紛らわせるつもりで話しただけであったが知らないままだったひなの夢を知ることとなった。
「嫌だなぁ…やっぱり。富とか財はどうしても争うきっかけになっちゃうんだ…」
城介は初めて見た壮太朗に対してとびきり悪い印象は持たなかった。
交差点で危うく転びそうになった時は手を差し伸べて、友人らしきはるには錬纏を有しているのに威張ることなく接していたのは確かだった。
しかし錬纏使いと知った時の態度の変化はそれは激しかった。
そこまで壮太朗を変えてしまう願いというのは、いまだに見当もつかず、考えることも恐ろしかった。
「あ、いたよ、城介」
待ち合わせの公園は、きりんが描かれたスロープ二本の滑り台がシンボルで、壮太朗達ももれなくそこで待っていた。
「月丸城介、だったか。ここに来たからには、あのじいさんからの話は済んでるってことでいいんだよな」
「…うん。全部聞いた」
「お前はどうする?」
「どうするって、意外だな。きっと不要な質問のはずなのに」
「ああ、叶わないまま潰えていく、という意味では不要という言葉は適しているな」
「いいよ。思っているまま言う。僕は…できるなら他の誰にも出会わないまま『大いなる力』を完成させずにいよう、なんて考えてた」
老人の言ったとおりに錬纏を使い闘い続ければ願いを叶えられる。
だが逆に初めから闘いを放棄すれば願いを叶えることとは無縁にはなるが、今まで通りの平穏は得られる。
錬纏使いとして目覚めていなかったころと同じようにだ。
しかし、城介は壮太朗に出会ってしまった時点で自分の行く末は変えられないと、そう悟ってそこで思考は止まった。
「だってさ、ソウ。協力をしてもらおうよ」
「おい、どうしてそうなる。」
「考えてることは大体同じだと思うんだけど」
「協力か。力を引き継いでいくならそういう言い方も間違ってはいないね」
「…月丸城介。お前、何か勘違いをしてないか?」
「え?」
「そうね…月丸君、私達は『大いなる力』を完成させるわ。けれど、考えていることはあなたと同じ」
「俺達は必ず『大いなる力』を完成させて、『錬纏に関する力の消滅』を叶える。そのために闘う」
「『大いなる力』で錬纏を消滅させる…!?」