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#2 風間壮太朗

「望めばいつでも応じよう」


 姿を消していく老人の言葉をきっかけとして氷が溶けていくようにじわじわと城介は暗闇から解放され、ひな達がいる景色が戻ってくる。


「あー…ごめん。強くしすぎた」

「ああ?」

「加減が難しくて」


 城介の巨大な腕による一撃は姿だけのはったりではないようで、肩で息をしているソウの姿がその威力を示している。


「挑発のつもりか? 仕留め損なった負け惜しみに聞こえるぞ」

「いや仕留めるなんて、そんな物騒なことを…」

「まあいい。お前はここで脱落してもらう!」

「へ…? 全身が…」


 腕のみだったソウの鎧は全身に広がり纏われていく。

 その全てが漏れなく恐ろしい雰囲気を放っていて、城介を再び暗闇に飲み込もうとしている。


「はああっ!」

「…ひなっ!」


 危機に直面した城介はソウに背を向けてひなを庇った。

 怖くないはずがなく、その姿勢のまま震えて硬直していた。


「お前、なんで…いてっ」

「こら、ソウ! 様子がおかしくない? 話を聞くぐらいしようよ」

「あのな…錬纒の隙間を縫ってぶつな」

「こうしないと聞かないだろ」


 ソウは城介の行動に困惑していたようで、その拳はすんでのところで止まっていた。

 まもなくして少女からソウの頭に平手打ちが入り、命をも危ぶまれた緊張感はすっかりほどけていた。


「城介、大丈夫? それにさっきの腕は…」

「なにもわかんないけど…」

「すみません。さっきは壮太郎が突然あんなことをしてしまって。そうだ、私は鳥野はる。こっちは風間壮太郎」

「おい、なにしてる」

「いいから」


 はると名乗った少女によってなだめられてかソウの熱は冷め、集中が途切れて全身の鎧は霧のように消える。


「そんな、こちらこそ。僕は月丸城介。で」

「花村ひな、です」

「…ソウも。挨拶と謝罪」

「…やめろ。どうせ挨拶なんて不要だ」

「む。…なら私が止める前に固まってたのは? もしかしたら、って期待してたんじゃないの」

「別に。妙なことばかりするから気が狂わされた」

「私はまだ本気だよ。ねぇ…」


 はるが深刻な顔をしながら城介達に向かって何か話しかけようとしていたところ、壮太朗がそれを制した。


「この先に公園があるだろ。明日のこの時間、ここに来い」

「へ? 僕が?」

「そこで『大いなる力』への考えを聞かせろ」


 当たり前のように話をふられたが城介にはその言葉にぴんと来ていない。


「それは君と僕とのこの力に関係することなのか?」

「あのじいさんに聞かされただろ」

「いや聞いたけどさ…あれ、君がどうして」

「壮太郎でいい。あれは錬纒使い全員にああして現れてるらしい」

「れんてん?」

「…お前はとことん腹を立たせるな」


 しばらくの静寂の後、壮太朗が徐々に険しい顔になっていく。


「いいな。明日必ずだ」

「ちょっと、ソウ」

「行くぞ」

「…二人とも行っちゃった…城介、どうする?」

「どうするって…」


 夕方の公園のチャイムがちょうど鳴り始め、悩んだ末にまた明日学校で話をすると言って城介達はそれぞれ帰宅した。

 予期せず妙な力に目覚めたばかりで、何者かもはっきりしない壮太朗を何らかの原因で不機嫌にさせて、気分はすっきりとはしなかった。

 気持ちは整理できず、ひなにも余計な心配をかけたくなかったので一旦一人で考える時間を欲していた。

 帰宅後、ベッドの上で老人がいただけの真っ暗な光景を思い出してみていた。

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