#18 トラブル発生
「5…いや絵として描けてるのは4枚目か。ひな、それでえーと本体は誰?」
一仕事終えて落ち着いたひなから絵を見せてもらって、呼び方はしのばれたが対象の人物を聞き出す。
「あの車の陰。頭の先が見えてた」
一通り疑ったのは結局無駄になったが些細な問題に過ぎない。
使命感に背中を押され、てきぱきとひなに指示をする。
「ちょっと信号遠いけど渡ろう。あと壮太朗達と連絡とっといて」
「わかった」
「まだ様子見をする、とだけ伝えといて」
城介はいろいろなことが立て込んでしまった前回の作戦から反省を得ていた。
今回は相手の正体を一方的に知っているという情報のアドバンテージを活かし、うかつな接触は避けて距離を意識し調査から始めるつもりだ。
いざ行動を開始、信号待ちは無く迂回はしたが一分とかからず向かいの歩道に到着した。
「誰?」
「歩き出してる。えーと、あのフードの人だ。はっきり見える」
「うーん。男、みたいだけど顔は見えないか」
「あ、返信来た。『ソウしか間に合わない。そっちに向かってるけど道に迷ってたら声かけてあげて』。別の高校からだからやっぱり遠いんだ」
「わかった。ん、あれは…」
追跡しているフードを被った男に警官が近寄っている。
会話は聞こえなかったが職務質問をされているらしい。
「警察だよね」
「そうだけど…あ、逃げ出した! どうする…いや、追おう。ひなは待ってて」
はじめは思わぬトラブルかとその目を疑ったのだが男は警察を体当たりで突破し走り出してしまった。
前の経験から顔が割れて逃げられないため接触を避けていたというのに、追跡をせざるを得なくなった。
「腰抜けるほど暴れられたと思うとすぐに逃走されたり…なんで錬纏使いきれいに両極端なんだろ…」
愚痴をこぼしながら城介はまだ自力で男と警官の後を追っていく。
「…けど今この辺りは…」
通行人の間を乱暴に割って入りながら逃走する男に警官は徐々に差をつけられてしまうが数分とせずけたたましいサイレンが遠くから鳴る。
男が走っていく先には別の警官が待ち構えており、ぜえぜえと呼吸が厳しくなっていた男は簡単に拘束された。
見失わずに済んだが警官に囲まれてはまず声はかけられない。
そこに、初めに追跡をしていた警官が拘束に加わり、何かの相談が済んだようで男をドアを開けた状態のパトカーのシートに座らせていた。
車道側のドアを二人して立ち塞いで逃走を防ぎ、また往来の注目を集めないようにするためであろう。
「どうしたの? 城介」
「ああ、ひな、壮太朗も。さっき追ってた人があの中に」
小さいながら人ごみとなっていた現場、ひな達はそれをきっかけに城介をすぐに見つけた。
「おいまさか警察か?」
「いや、声をかけられてた人。…それもまさかにあたるか」
「景とかいうので判別は確からしいが、追ってる間は他の誰かと見間違うことは無かったか」
「取り押さえられた時に顔を確かめられなかったけど、警察が追ってたから間違いは無いはず」
「まあ決して疑ってるわけじゃないが、確認してくれるか」
「…ごめんなさい、完全に車の中に入っちゃうと見えない」
じろじろと視線を送る城介達は警官にすれば興味半分の野次馬に見えても仕方が無く、正義の象徴らしからぬ物騒な目で睨み返している。
再度向かいの歩道に渡れば確認ができるかもしれないと、ひなの提案でその場を後にする。
「まだ気になることがある」
「気になること?」
なるべく目立たぬように監視は続けながら壮太朗はある相談をした。
「その気になれば警察くらいは力ずくで振り切れるはずだとおもうんだが」
「そうか…うーん、反撃されるのを避けたのかな。特に警察の場合だと手配とかされて追われたりさ」
「いつでも絶えず錬纏を使うわけにはいかないしな。なあ、あくまで仮定だが、まだ自由に力を引き出せていないのかもしれない」
「確かに…先入観で気にしてなかったけどそういう場合もあるんだ」
「目覚めていないとはいえ錬纏使いなのは確か。あの状況は良くない」
「警察に詰め寄られてストレスとかで下手に精神が刺激されたら…」
「ああ、かなりまずい。なんとか様子を探りたいが…」