#13 異常事態
誇張ではなく確かに地面が揺れた。
なにかが勢いよく落下してきたのだ。
錬纏の回収作業の一環なのかと混乱したが、それまで感じたことが無い強い邪悪な気配によって全身に悪寒が走り現実に戻される。
「だ、誰だ!」
「…まだ退場されては困る。すべての錬纏が引かれ合い、集結するためにな」
「ま、待てっ…ぐ…」
「壮太朗!?」
錬纏を回収寸前まで追い詰めていた男は土煙の落下物から立ち昇る土煙に紛れながら逃げ去ってしまった。
そして何故かはるか遠くに吹き飛ばされていた壮太朗を目にして城介は頭がパニックになる。
「モモセ…」
「え…モモセって…」
土煙がはれて現れたのは城介や壮太朗と同じぐらいの男であった。
城介は足元のまだ熱を放つクレーターをもって、壮太朗を吹き飛ばしたのがそのモモセに違いないと確信した。
「『豪鬼』か。今ので気を失わないとは成長したな」
「…ちょうどいい。いろいろあって今かなり集中してるんだ。お前の錬纏、回収させてもらう」
「無謀さは治っていないな。いいぞ、来い」
モモセは歩きながら壮太朗との距離を詰めていくが、城介はその背中に不気味な恐怖を感じた。
じっと構える壮太朗は一歩で詰められる範囲に来た、錬纏を発動させないままのモモセに容赦なく殴りかかる。
その姿は間違いなく何度も繰り出した有効打となる一撃のはずであった。
「弱い」
「がっ…」
モモセは翼を有した錬纏を纏っただけで完全に防ぎ、微動だにしていない。
そして無意味に地面を踏みつけたかと思うと壮太朗が短く息を吐いた。
「なんだ…地面を通して壮太朗に衝撃を伝えたのか・・・? それにあの錬纏、見たところ五割ぐらいの出力みたいじゃないか…」
錬纏が消え去りうずくまる壮太朗をモモセは黙って見下す。
「生きていてくれなくては困る」
「お前の…都合で…決め、られて…たまるか…」
「殺す気も錬纏を回収する気も無い…? いや、どうした、動くんだよ…」
壮太朗をあしらった後は錬纏を解除したモモセを見て安心したが敵には違いない。
闘いを恐れるな、あの『不死の軍勢』を思い出してでも自分を追い込めと言い聞かせるのだが、安全なままこの場が収まってしまえばと弱気な考えが城介を侵食する。
「…ひなちゃん、ひなちゃん!」
陰に隠れていたはるが悲鳴じみた声が上げる。
「あの人の…怖い…城介と他のとも違う…」
「落ち着いて、ひなちゃん…」
「…ひな? そうか、モモセにも背後霊さまが見えているんだ。けど怖がっている?」
ひなの様子が今までの錬纏使いへの反応とは全く違う。
「ん? お前、見えているのか、これが」
「…! ひなちゃん、逃げて!」
「確かお前はあいつの相棒だな。もう一人は…」
身を挺してひなを守るはるを見て、城介は固く拳を握った。
錬纏使いでもない彼女が勇気を出してひなを守ろうとしている。
取り返しがつかなくなる前に、後悔しないように考えるよりも体を動かした。
「僕が…相手だ。その子達には手を出させない」
「『白虎』…ふふ、いやこうして会うのは初めてか」
「白虎? …ねえ、まさかひなみたいに頭のこれが見えてるの?」
「なるほど。ああそうさ、全て見えている。錬纏を映す『八つ景』がな」
「八つ景…」
「だが必要のない知識だ。錬纏は出せるか、白虎」
「…来るか」
壮太朗を圧倒する規格外の強さを見せつけられていようと、逃げてはいけない確かな理由があった。
ひな達から注意をそらすためにあえて隙のある五割に抑えた出力で構えておく。
「ほう。状況から見るに豪鬼に教わったか。少なくとも全身の展開はできている」
城介の狙い通りモモセの注意を引きつけ歩み寄らせることで、ひな達から距離を取らせることに成功した。
ただ城介自身の緊張感は徐々に増す。
「一つ聞かせろ」
モモセは城介に質問を迫った。