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#12 刺激され合う二人

「ぐっ…」


 動けず声も上げられない壮太朗は加勢に駆けつける城介を睨みつける。

 男の狙いはお前をおびき寄せること、あえて止めを刺さないでいるんだ、と強く訴えている。

 もちろん城介も彼なりにその考えは理解していて、無謀というわけではなく算段はたてられている。

 おそらく相手は蛸のような触手とは程遠く、つるの先端までは自在に操れてはいないという見立てだ。

 相手がしかけている攻撃の特徴ははらい、および巻きつけて縛るへとつなげるもの。

 前者は単なる鞭による攻撃と同義で、常に相手は鞭の勢いをつけるための大きな動きを挟み、それは繰り出した勢いをそのままに複雑な動きが一切無い。


「もう一つは…直接確かめる」


 素早さ重視、ゆっくりと呼吸を整えた城介は光の尾を引いて駆け出す。

 つるが自在でない場合、巻きつきの仕組みを解明するにはもう一つ情報が必要であった。


「回避に寄せたみたいだけど、わかってないな。弾いた方が賢明だってこと」

「見えたっ」


 男のつるは容易く城介の腕を捕らえたがそれは狙い通り。


「そう言うことだったんだ…でっ、うああ」


 城介の事情は男には無関係、腕の拘束を起点にして右に左に振り回され、ずるずるとうごめくつるの拘束は腕から胴体へと巻きつく。


「このっ…!? うぅっ…」

「だ、めだ…」


 並の力では錬纏の拘束には歯が立たない。

 つるの仕組みは解明できた、懐にさえ入れれば勝機がある。

 城介は錬纏で物理的に膨らんでみせてつるを弾き飛ばそうとするが腹が圧迫されて嗚咽がした。


「賢くないな。拘束を解こうとしてるんだろうけど、錬纏はあくまで肉体そのものじゃない。そーだな、鉄の箱みたいな密室で発動させたとしてどうだ? 鉄よりもずっと柔らかい肉や骨がつぶれるってことさ」

「それならしぼめばいい」


 拘束を受けてでも相手の攻撃を攻略する気でいた城介はあらかじめ辺りで拾った大型のペットボトルのごみを服で隠して腹と背に忍ばせていた。

 それらを指で突き破ってスペースを確保し拘束を抜け出すと、つるを片手で撫でながら男の背後を目指し一直線に走る。


「つるは今伸び切っている。もう一度振るってみてもその動きより僕の方が速い。それに、巻き取ろうとしてもこうしていればすぐに気づける」

「ハッタリ…なのか、いやどっちにしてもピンチか」

「つるの先端は植物そのものでかぎ状だった。それはつるを半周ごとで伸ばす縮めるを分けることで芋虫みたいに丸まらせて触手みたいな巻き取りを再現していたんた。何重にもして力を補っていたのもつる自体の力が無い、意識して操作できないことを示していたんだ」


 つるの鞭が有効でない至近距離で錬纏の真っ向勝負に持ち込めば壮太朗と共に数の勝負に追い込める。

 装甲を捨てて素早く懐に入ったあとは、力を開放すればいいだけであった。


「仕方ない…おし、来な」


 男は壮太朗の拘束を解除し両手を空けてから城介と向き合う。


「壮太朗!」

「ああ、助かった。次は俺の番だ…はああっ」


 握り拳を肘で引きながら胸を張り雄たけびをあげる。

 壮太朗なりの気合を入れ直す一連の動きは辺りの空気を揺らした。

 勇気と知恵をもって相手に立ち向かった城介への称賛の気持ちと、対して今までなされるがままに手を出せずにいた自身への不甲斐なさと真っ直ぐに向き合い、それを原動力へと変えんとする覚悟の雄たけびであった。

 男の注意はたちまち壮太朗に向かい、咄嗟に構え直す。


「ふっ、はっ、はっ、おおっ」

「…! 速い…あれは錬纏どうのじゃない、壮太朗自身の技なんだ」


 五感を多少捨ててでも力でごり押しをするつもりでいた城介だが、それが浅い考えであると反省させられた。

 回避され続けていた猛攻は先ほどの雄たけびを境に次々と手ごたえのある有効打を連発するようになり、反撃に対してもまるで風のように最小限の動きで全て回避して相手を寄せ付けないでいる。

 もしも自分が相手をしていたら指一本触れることなく倒されることも十分あり得ただろうと、気迫に圧倒され動けずにいた。


「錬纏を回収する。見てろ」

「え、ああ…回収…うーん、確か命には関わらないものだったよね」


 壮太朗の猛攻で息が上がっていた男は錬纏の維持が難しく、戦闘の続行が厳しいと城介でも分かる。

 しかしそれが演技である可能性も考慮して警戒は未だ解かず、城介への呼びかけも必然と素っ気無い。

 そんな態度のままで男の胸ぐらを掴み、もう片方の手を重ねてかざす。

 すると男の全身から光る煙がじわじわと上がってきて頭上に集まり、うっすらと紋章らしいものが形作られていく。


「…こういうことか」


 そういえば壮太朗は今まで二人しか錬纏使いに会っていないと言っていた。

 方法は恐らくあの老人から聞くことが出来るが実際に体験したかと言うと、これが初めて回収することになるのだなと見逃さぬようにその様子を見守っていた。


「ん? 鳥かな」


 ほんの少し陽の光が遮られてそれに興味が逸れた。

 それでも目線は外さずちょっとだけため息をついた、その一瞬にそれはやってきた。

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