#11 加勢
「いいか、いつでも掴める準備はしとけ」
壮太朗は短く命令だけして錬纏を展開し、追跡対象に掴みかかろうとする。
「壮太朗!? 話もせずにそんな…」
「話なら散々試した! もうそれ以上は無駄、言っただろ、0か100かでしかない。こいつは完全に敵だ!」
勢いで投擲というアプローチはしたものの、殴る蹴るという行動をするまでには踏み切れず、加えて壮太朗の迷いの無い一撃事の気迫にのまれて呆然と立ち尽くす城介。
「そっか、手を組んでたってわけか…」
猛攻を続ける壮太朗であったが、対する相手は俊敏性に特化した状態の錬纏を維持したまま次々とそれをかわす。
狭い路地裏の奥、事情は不明であったが特別に整備されていたバスケットコートでの対峙となっていて、お互い存分に力を振るえたはずだが壮太朗だけが一方的に攻撃している。
「こっちは相変わらず。で、こっちの新顔は…」
「どこを見てるっ」
「よっと…悪いけど、無防備ってのはさすがに甘いぜ」
城介を一度横目に見てから曲芸のように跳びはねて壮太朗の猛攻から逃れる男。
着地して即座に城介のもとへと走り出す。
「おい! 構えろ!」
「ま、伊達に逃げ回ってるだけじゃねーよ」
両腕を広げ走っている男はすでに錬纏を纏っている。
藍色をベースに走る白い筋が美しい、また城介達とは違う装いだ。
「きた…落ち着いて、防御だ」
男が拳を握った右腕を振り抜くより城介の防御態勢がずっと速かったのだが、その拳はむしろ勢いを増す。
男の視線、振り抜いた腕は城介の頭よりずっと上に向けられていて、腕の先からつるのように変形した錬纏が伸び、建物屋上の手すりにがっちりと巻き付く。
最後の手向けのごとく、男は城介の頭を踏んづけて跳躍の勢いをつけた。
「じゃーなー」
「がっ…ああ、なんだよ…怒られるのもやだし…多少はけがしない、かな」
日常でそう経験しない頭への衝撃は冷水のように城介を目覚めさせる。
錬纏が纏われている男の姿がはっきりと目に入っていたので、加減せず思うままに動けばいいだけだ。
そばにあったのは空のビール瓶。握り砕いてしまったが破片を上空に向かい投げる。
「危ないよ!」
「ん? おお!?」
ぎらぎらと鋭利なガラス片が向かってくれば錬纏があれど人間の本能で飛び退くのはおかしくなかった。
男はつるでぶら下がった状態で壁を蹴って体勢を変更し、再びバスケットコートへ戻っていった。
「君さぁ…その滅茶苦茶な行動はなんなのさ…」
「…いやその、僕だって話さえできればこんなことはしないです」
城介も壮太朗も男へ決定打を与えられていないが、最低限の錬纏は発動させられた。
城介にとってはけがを負わせるかもしれないという心配が少なからず解消し、吹っ切れた。
「んーと…あ、いたいた。月丸くんだ」
「もうちょっとで完成する…」
城介の後方からはるがぶつぶつ独り言ちているひなの手を引きながら錬纏使いの集いに合流した。
壮絶な闘いが予想される状況でも動じず、慣れているように城介の背後から安全な距離を保って待機する。
「さあ、続きだ」
「あーあ…不思議だ、お前がまともに見える」
逃げ道を失った男が選んだのは壮太朗の突破だった。
それまで回避ばかりだった男の錬纏の変化に警戒し、間合いを取る壮太朗。
「リーチならまだこっちの勝負だ」
「つる状の錬纏かっ…あいつとは比較にならない繊細さだな…」
生きているようにうねりながら襲い掛かってくるつる。
壮太朗には防ぐことはあまり困難ではなかったがなかなか反撃の機会を見つけられないでいる。
得意とする間合いまで詰めるには出力を上げ巨大化させた腕で攻撃のリズムを崩すことが一つの手であるが
、どうしても直線的な攻撃になってしまい、もしも外れた場合は大きな隙を生んでしまう。
顔では平静を保っているが、錬纏の一部を特定の形にするだけでなく、本来は身を守るために堅固であるその性質を変化させてしまう高度な制御力、まだ見ぬ実力を恐れているのだ。
「へへ、何かかじってたか知らないけど動きが丁寧な分、読みやすい」
男は壮太朗が隠していた思考を読んでいたのか、新たな攻撃を仕掛ける。
つるを目立つように壮太朗の足元にうち、視覚的、聴覚的に牽制。
壮太朗の構えが崩れた一瞬の隙を見逃さずもう片方のつるが首元に何重にも巻きつく。
力任せに拘束を解いたり、体をよじって距離を縮めようとするが、馬の手綱のようにほとんど男に意のままに制御され、思うように体に力を込められない。
「どうしよう…今まで闘ってみたけど向こうはたぶん僕を誘い出してまた逃げ出す気だ…」
城介に選択が求められる。
傍観しているままでは壮太朗の体力は消耗し続け、錬纏の集中はいつか途切れて、今度こそ逃走を果たされてしまう。
壮太朗の起死回生の一手を待つよりも先に体が動き、加勢をする。