#10 手探りの実戦
「あのっ…」
「ん?」
緊張で先走ってしまったが、後悔しても遅い。
せめて十数分でも稼げれば理想の状況になる。
城介はまずひなに連絡を取ってもらおうとなんでも一言かけようとした。
「見つけた…新しい背後霊さまっ…!」
「あああ! 何してんの!?」
ひなの能力が錬纏使い全てに共通していると分かったと同時に、描きわずらいで地蔵となったひなを擁することとなり、事態は最悪に近かった。
「えっ…な、なんだ?」
「仕方ないっ」
幸いにも城介だけが一方的に顔を覚えていて、かつ錬纏使いであるという情報を知っていた。
そして相手はひなの奇行に困惑していて一つ深呼吸をする余裕があった。
落ち着いて、相手の出方を探るため、城介は五割で錬纏を発動させる。
「…少し話が」
「はあ!? あいつだけじゃねえのかよ、やべえ」
「待って! まず話を…逃げられた、速い…」
「行っちゃった…」
「こうでもしないとまともにもどらないんだ…まあいいやひな、まだ間に合うはずだし僕はあの人を追いかける。ひなは連絡しておいて。必ず壮太朗が来るまでじっとしてること」
「わかった。覚えてる分でも描いておきたいし」
「…わかってるはずだけど、先に連絡ね」
ひなにいくつか注意と念押しをしてから細い路地裏へと駆け込んでいく。
なるべく手がかりを探すことを意識して進むうち、動揺を表しているようにあちこちでまだ新しい散らかったペットボトルなどのごみが目立った。
「かなり驚いてたみたいだし、突然現れた僕が想定外だったのは間違いないか。これを頼りに追っていけば」
城介は入り組んでいた細い道をぐんぐん進む。
「…あれ? 行き止まり? 分かれ道がどこかに見逃してたかな。引き返すか…いや」
前回も同じ手段で逃げられていることから相手の方が土地勘があるとみられる。
単純に再度探し直すだけでは到底追いつけない。
人探しをするなら、より高いところから見下ろしてみるのが有効、城介は強化した脚力で立ち塞がっていた建物の屋根まで跳びはねた。
「おいおい、しつこいな」
「あ、上にいたんだ。あの、待ってください。話を…」
「追ってくるから逃げてるんだよ」
「ええ…な、なら追わなかったら…」
「よし、そのままにしてな」
「ああもう!」
追跡は屋根の上でも続く。
しかし城介が屋根を跳び移るごとに度々危うく落ちかけるほど力を込めすぎてしまい、それに対し相手の錬纏の熟練度は確かなようで機械のように正確なステップでぐんぐん城介と差を広げていく。
強引に掴み引き戻そうとしてもそれは叶わない。
呼びかけは無意味、他にできることをなんとかひねり出そうとしてふとある物が目に入った。
「最後の警告です、止まってください」
「だからその気は…」
「はあっ」
ぱあんっ。
空気を充填していた何かが破裂する音が逃走中の錬纏使いの行く先で響く。
「なっ、なんだ」
「や、やば、もう少しで当たるとこだった。おもちゃのボールは柔らかいから変形してぶれるんだ」
「お前…やっぱ話し合う気だとか無いんだろ!」
「だから逃げないでくれればこうはしてなかったです」
ぶうおおおん。
今度は虫のように小さな物体が耳元で風を切り空中へと消え去っていく。
「今度はなんだあ!」
「ペットボトルのキャップなら指で弾いてコントロールもちょうどいい」
「…なんだ、当てに来てははないのか。その気なら石の一つも投げられるはずだし…投擲をやめさせるには下の方が安全だな」
「あっ、また降りていった」
適当なごみを抱えたままその跡を追う城介だが、遮蔽物である曲がり角が多く、何より人の出入りする扉や窓ガラスがあちこちにあり、リスクを考えると下手に投擲作戦は実行できない。
一人だけ上にいて投擲の継続をしても必ず一方の壁際は死角になるため、最善ではなかった。
「声も届かない…うう…完全に見失った。とりあえずここはどこだろ」
城介は己の無力さに肩を落としてため息をついた。
不安を口にしながらまずはひな達と連絡を取るために、今いる場所がどこかわかる目印を探そうと路地裏を抜けだそうとする。
「見つけたぞ」
「…壮太朗?」
連絡を聞いた壮太朗が後ろから追いついてきたかと思ったが周囲にその姿は無い。
もちろん屋根の上も見渡している。
「おい、早く来い」
「来いって…ああ、反対側か」
「よし。いいぞ、上手くいった」
「これは…」
路地裏をさらに奥へ進む城介が目にしたのはご機嫌な壮太朗の姿だった。
というのも、城介の追跡が無駄にならず、例の錬纏使いを見事挟み撃ちで捕らえられていたのだ。