始まりと始まり
期待せずに読んでください。
始まりは、そう…。一人の男が作り出した、ある玩具。
それが企業の手に渡り、盛り上がり、企業を大企業へと押し上げた。
そんなことがあった十年後、物語は動き始める。
『おんちゃん、何作ってんの?』
『ん?これかぁ?これはな…、おんちゃんが子供の頃から叶えたかった夢だよ』
『おもちゃが夢なの?』
『そうだよ。この小さな玩具が、おんちゃんの夢なんだ。これを動かして、一緒にいたいっていうのが、おんちゃんの夢。やっと完成したから、今度は次の夢を叶えたいんだ』
『次?』
『そう、次。でもその前に、お前の分のこいつも作ってやるからな』
『ホント?やった!』
『はっはっは、やっぱり子供だな。よーし、早速作るからな!』
『うん!楽しみにしてる!』
『よしよし、今度の誕生日プレゼントは決まりだな!』
『わかった!』
『ヒロー?帰るぞー?』
『あ、お父さんだ。じゃあねおんちゃん。約束だよ?』
『わかってるって、気を付けて帰れよ。兄貴にもよろしく』
『うん。お父さーん』
『今日は何してたんだ?』
『今日はねぇ━━━━━━━』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
テレビに大袈裟に声をあげる司会が映る。司会の近くには大きな箱と頭上にモニターが出ていた。
「『さあ始まります!世界最強を決める一大けっ━━━』」
突然映像が消えると、それを見ていた少年が後ろでリモコンを持つ少女に抗議の声をあげる。
「おい!消すなよ姉ちゃん!」
「…ユウヤ。そんな物見てないで勉強しな…今度テストあるんでしょ」
姉と呼ばれた少女は暗い目でテレビを見ていた。
「これ見てからやんだよ。ったくどんだけ嫌いなんだか…」
「…嫌いな訳じゃ、ない…」
少年、ユウヤに聞こえない声でそう呟くと、少女は席をたち、自室に入っていく。
「『━━と!━━━!!━━━━━━たぁああ!!!』」
姉がいなくなりテレビをつけたのか、司会の声がまばらに届き、自室で勉強をしている少女は集中できていない様子。するとそこへ、歓喜に満ちた顔をしたユウヤが部屋へ入ってくる。
「姉ちゃん!またチャンピオンが勝ったぜ!」
「…そう」
少女がそう言った瞬間、ユウヤの顔が曇り不機嫌そうになる。
「…やっぱ興味ないか。姉ちゃんはそいつ壊れてからずっとそんな感じだよな」
「…」
ユウヤが机の上段にある人形を見ると、少女もまたそれを見上げる。
「いい加減直せばいいのに。姉ちゃんならすぐだろ?」
「叔父さんが帰ってきてからでいい」
「まだ言ってんのかよ…。はぁ、姉ちゃんは勉強ばっかしてないで少しは息抜きしなよ。おやすみ」
「あんたは勉強しなよ。…おやすみ」
ユウヤは姉に何を言ってももう変わらないとわかり部屋を出る。それに返すように少女も声をかけるが、ユウヤは既に部屋を出ていた。
「あなたは、どこに行ったの?」
誰もいなくなり人形を見つめ呟く少女は、とても悲しそうだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
学校の帰り道、昨日ユウヤに言われた事を思い出す。『たまには息抜きをしろ』…自分では折り合いをつけてやっているはずだが、あの子はそれじゃあ納得しない。だから、久々に模型店へ足を進めた。
ここは個人経営のお店で、小さい割に品揃えがいい場所。店長もいい人で、ただの客なのに名前を覚えていてくれる。
「いらっしゃい…あれ、ヒロミちゃん?」
お店に入るとカランとベルが鳴り、奥から店長が顔をだして少し驚いた顔をした。
「どうも」
「久しぶりだね。今日はどうしたの?」
「ユウヤに息抜きをしろと言われたので」
正直に話すと、店長は苦笑いをしてカウンターからこちらに来てくれる。
「そっか。じゃあ今回は何にする?戦車?戦闘機?」
「何かいいのって、ありますか?」
そう言うと、店長は困ったような諦めたような顔をして、奥に行ってしまった。こうなると戻ってくるのに少し時間がかかることはわかっている。だから、店内を軽く見て回る。
…やっぱり、BCR…バトルクラフトリペア関連の商品が多い。最近は本当に増えた。ここは今お客さんは私だけだが、他の所じゃ、どの時間帯でもBCR関連の商品を求めて子供から大人まで多くの人がいるとニュースでやっていた。…私にはその気持ちはわからないが。
そうして店内を見て回っていると、店長が二つの箱を持って奥から出てきた。
「これ、本当は渡そうか迷ってたんだけど…。ヒロミちゃん、変わらないから、渡すことにしたよ」
「?どういう、こと、ですか?」
「ヒロミちゃん、今度誕生日なんだって?」
「…私、店長に誕生日言ったことあったっけ?」
「まあ、そこは重要じゃないんだ。とりあえず、はい」
店長が差し出したのは、BCRのプレーンキットと、外装パーツや武器といった武装関連がセットになったキットの二種類。…でも、私は…。
「受け取れません」
「…そっか。やっぱりね。……でもなぁ…受け取ってくれないとこっちとしては結構ヤバイんだけど…」
ヤバイ、つまりお店の危機?それは困る。家から一番近いここがつぶれたらわざわざ人の多いお店に行かなくてはいけなくなる。
「…じゃあ、受け取った。ということにしておいてください」
「それもそれで問題なんだけど…ま、ヒロミちゃんならいいか。そういうことにしておくよ」
「…そういえば、それの代金ってどうなってるんですか?」
「プレゼントしたいって人から貰ってるよ。まあ、渡せてないんだけね」
おどけたように店長は言うが、渡せなくて若干気落ちしているようだ。やはり貰っておいた方が…でも、私は……。
代わりに何か買おうと思ったが、良いのが見つからず、店長にも無理しないでいいと言われてしまった。申し訳ない気持ちになる。でも、それでも私は...。
何となく、帰り道は遠回りをしてみたくなった。
気づけば、駅前の広場へ来ていた。ここは家とは反対の方向で随分と遠回りをしてしまったみたいだ。
ふと、何かの音が聞こえ空を見上げる。空には雲ひとつなく、澄んだ青が広がっていた。そんな空に、小さな黒い点が見えた。その小さな点は段々と、確実に大きくなって行っているように見える。
「何、アレ…」
遂には口に出てしまった。
そして、何故かその点が微妙に動き、私に向かって来ているように感じてしまった。
私は、気にしなければよかった。そうすれば、妙なことに巻き込まれることもなく、寂しいけれど平穏な日常を過ごすことが出来たのに…。
この時の私は、まだ知らない。
続かない(鋼の意思)。
完全に自己満で書いてるから続くかわからないです。