1-⑧
コンにちは。くらコンです。今回は大増量2600字の大作です(まとめられなかっただけ)だけ)。どうぞ。
「セティさん、”傘”ってどういうことなんですか?」
私がそう問いかけると、セティはニッと笑って
「ナイショ。行けば分かるよ。」
と答えた。そんな会話をしてから、どれくらい経っただろうか。言われるがままについてきてしまったが、この細い裏道は居心地が悪い。道は建物の影になっていて暗く、ゴミや古臭いガラクタであふれかえっていた。それらを時々拾ってはポケットに入れるセティは、まるで買い物に来た主婦のようだった。
「お、見えてきたよ~。」
道の終わりを告げる明るい光が見えてきた。その奥は、今までと正反対の別世界だった。
広く、舗装された道。その両端には数々の店が並び、人と元気な声が飛び交う。そこは、日向と勘違いしそうなくらい、”普通”の風景だった。
「ここが、日陰西区の表通り。他の通りと比べても格段に平和で商品の質も良い。強盗や殺人は少ないけど、その分詐欺とかが多いところかな。」
「ここ、本当に日陰なんですか?日向とあんまり変わらない気が・・・。」
そう問うと、彼は返事の代わりに後ろを指さした。そこには、あの巨大な壁が覆い被さるように立っていた。
セティの後に続いて歩いていると、不意に声をかけてくる人がいた。
「おぉライちゃん、久しぶり。お友達かい?」
声をかけてきた小太りの中年男性は、私達にそう声をかけてきた。「ライ」という人物が誰なのか、私が聞こうとしたその時、
「あ、おじさん久しぶり。元気だった~?」
セティがいつもより高い、わざとらしいほどの猫なで声で言った。男性と別れた後も、セティは何度も声をかけられ、「ライ」と呼ばれていた。そのことについて彼に問いかけると、
「あぁ、俺はここら辺ではライって呼ばれてるんだよ。幼くして独り暮らしの明るい少女、っていう設定でね。」
・・・少女って設定なのか。やはり、この人は女性なのでは・・・。またもそんなことを考えていると、前を歩くセティが一軒の店へと向かった。どうやらここが目的地らしい。
その店は、廃墟をそのまま利用したような見た目の見るからに怪しい店だった。汚れたガラス扉を開けて中に入ると、大きな棚がいくつも立ち並んでいた。棚には何かの部品らしきものや、薄汚れた人形などが並べられている。そして中央奥には、カウンターがあり2~30代くらいの男性が座っていた。細身で、店員らしいエプロンをつけている。セティは男性の前に立つと、
「久しぶり、ショーン。可愛い可愛いお客さんがきたよ?」
「やめろ、気色の悪い。それで?何の用だ?」
セティが先ほどの猫なで声を出すと、ショーンと呼ばれた男性はぶっきらぼうな対応をした。
「いやぁ、ウチに新人ちゃんが入ってね。その子のお祝いにね?」
「なるほどな。あの”雨女”が嘆いてたぞ?余計な心配が増えたってな。」
「あはは。それで?おいくら?」
「んー、今回はカラダで払ってもらおうかな~。」
その発言に私はギョッとした。カラダで払うって本気なのか?やはりこの人は女性なのか…?
その後セティはショーンという人から何かを聞き、私と店を出た。また何処かへ向かう彼の背中を眺めて、
私は先ほどの疑問をぶつけた。
「あの、セティさんは女性なんですか?」
「え?俺は男だけど?」
彼はこちらを向くこともなく答えた。
「でもさっきのって・・・」
「あぁ、あれはお仕事の依頼だよ。商売敵を消してくれっていう依頼。」
「商売敵?消す?何でそんなことをするんですか!?」
「人を殺す」と平然と口にした彼を見て、私は声を荒げる。セティは私を一瞥して、
「それが仕事だからだ。仕事をして金を手に入れられなければ、俺らは生きていけない。あいつだって、商売がうまくいかなければ生きていけない。あきらめろ、日陰はそういう場所だ。」
と答えた。納得がいかなかった。自分が生きるために他者を殺すというのは、すごく愚かなことのように思えたのだ。そうこうしているうちに、2人は小さな廃墟らしきところに着いた。
「着いた。布で顔を隠して下がってて。あんまり音出さないでね。」
そういうと彼は、どこからか仮面を取り出して被った。笑った顔の太陽を模した仮面だ。
店の中にはスキンヘッドの男が一人。ショーンと同業者には見えなかった。
「やぁどうも、あなたが情報屋の”H.G"ですね?」
「?はい、そうですが・・・」
次の瞬間、乾いた爆発音があたりに響き、男の手が赤く染まった。いつのまにかセティの手には黒光りする
銃が握られており、銃口から細い煙が立ち上っていた。もがく男に向けて、セティはもう一度引き金を引いた。男の腕が血を噴き、叫びが小さな廃墟にこだまする。
私は声も出ず、ただただ見ているだけだった。全身から汗が噴きだし、喉がカラカラに乾く。
仮面の上から男を見下ろすセティは、次の瞬間男に向かって思いがけないことを口にした。
「俺らはね、とある人の『おつかい』で来たんだ。その人は、同業者は少ない方がいい、と。だからキミがこれからも今の仕事を続けてると、また俺らが『おつかい』に来なくちゃいけなくなるの。分かった?」
男が何度も頷いたことを確認すると、セティは私に「行くよ」と声をかけ、廃墟を後にした。
「びっくりした?なかなかの名演技だったでしょ?」
仮面を取ると、私の横で彼ははにかんだ。
「初めから、殺す気はなかったんですか?」
「うん。あの男に今の仕事を止めてもらうだけだっただから。あ、でもショーンは殺せって意味で言ったと思うから、これはヒミツね。」
そう言って、口に人差し指を当てた。
「え…そんなことして大丈夫なんですか?」
と聞くと、セティは自慢げに答えた。
「ふふん。人を騙すのは、得意なんでね。」
その後、私と彼はもう一度ショーンさんの店に寄った。ショーンさんが私にくれたのは、三日月を象った仮面だった。左半分は黒くなっており、片目をつぶった顔が描かれていた。
「なるほど、”ムーン”って感じかな。」
「ムーン?」
「キミのコードネームだよ。セティ(コイツ)が”サニー”でリサ(アイツ)が”レイニー”。そんな感じで仕事の時に使う名前だな。」
「改めてよろしくね、”ムーン”。」
こうして、ロアの日陰での物語が幕を上げた。仮面を眺める彼女の背中を汚れたガラス越しの月明りが照らしていた。
いかがでしたでしょうか。そろそろ本格的に物語が始動します。投稿頻度は相変わらず遅いですがなんとか頑張ります。何かあればコメントよろです。
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。