1-③
コンにちは。こんな時間ですが投稿します。ご容赦くださいませ。では前回の続きをどうぞ。
辺りに広がる、一面灰色の世界。今まで見たようなカラフルな建物と街はそこにはなく、色褪せた街とそれを見下ろす濃い灰色の壁があった。いつもは私を守るようにあった壁が、今は私を阻むようにそそり立っている。小さな古びた建物の屋上から、ロアは石とコンクリでできた巨大な壁を見つめる。
「ちょっとは状況を飲み込めた?」」
髪先をいじりながら、セティはロアに問いかけた。ロアが頷くと、セティは地面に座り込んで話し始めた。
「それじゃあ、まずロアちゃんは日向と日陰についてどのくらい知ってる?そこから説明しよう。」
「えと、日向は人類最後の希望で、壁の外は核戦争によって荒れ地になっている、ってお父さんに聞きました。とても人が住めるようなところじゃないって。」
すると、セティは「やっぱり」と呟いて静かに笑った。先ほどとは違い、少し不気味な笑いだ。
「人類最後の希望、か。随分と高尚だねぇ。核戦争によって荒れ地ができたのは事実だけど、あとは全部嘘っぱちだよ。この通り日陰には人が大勢住んでるし、日向だって清廉潔白じゃない。それに、ロアちゃんのお父さんが裏で何してるか、君は知っているのかい?」
「・・・いいえ。予想はしてましたけど。」
そう答えると、その人は少し意外そうな顔をした。
「へぇ、さんざん甘やかされて育ったお嬢様だと思ってたけど、ちょっと違うみたいだね。」
「はい・・・私は、お父さんに拾われた子ですから。お母さんからも召使からも疎まれていました。」
お父さんが何の仕事をしているのかはロアも知らなかった。だが、屋敷の大きさや召使がいることから、とても影響力のある人だということは分かっていた。セティの言う通り悪事を働いていたとしても、あまり衝撃ではない。
「それじゃ、話を戻すよ。何となく察しはついてると思うけど、この日陰の環境は最悪だ。俺らはまともな生活を送れてるほうだけど、ほとんどの人は金ナシ、職ナシの状況に陥ってる。」
そうセティが話し始めた時、少し離れた大通りらしきところから、怒鳴り声が聞こえてきた。
「このガキ!!待ちやがれ!」
どうやら子どもが屋台で万引きをしたらしい。怒鳴りながら走る小太りの男の姿が見えた。
・・・あまり関係ないが、今セティは自分のことを「俺」と言った。女のロアから見ても分かるほどの美人なのに、少し勿体ない。
「ほらね?こんなのが日常的に起こってる。対して、君が今まで暮らしていた壁の内はどうだい?強い支配体制によって、逆らうことは許されない。“正義”の名のもとに暴力を振りかざす役人もいる。得をするのは、金と権力を持つ者だけ。今ここはそんなトコロなんだ。」
話の内容は恐ろしいのだが、セティの楽し気な話し方のせいか全然恐怖を感じない。それにしても、日向のなかのことも知っているのか。まるで、実際に見てきたかのような言い方が、少し引っかかった。
風が吹き、セティの長い髪が揺れる。いつの間にか高くなっていた太陽が、小さな二人を暖かく照らす。
「だから、あの都市を壊したい。俺らはまだ非力な子供だが、ただ指を咥えて見てるのはつまらないのでね。」
セティの話し方からは、何か決意を固めているような、ゲームを楽しんでいるような、不思議な思いを感じた。それと同時に、使命感のようなものも感じた。心臓の鼓動が早くなっていく。
「まぁ、別にロアちゃんは無理に入らなくても」
「私も、参加させてください。今の話を聞いて、引き下がれないです。」
セティは私と目を合わせ、ニヤリと笑った。
「死ぬかもしれないよ?それでもいいの?」
「断っても、私一人じゃ家に帰れないので、どっちみち死にます。」
真っ直ぐに思ったことを伝えると、セティは声をあげて笑い、先ほど登ってきた梯子へと片足をかけた。
「それじゃ、おいで。いろいろ教えることがある。」
梯子を下りると、セティが他の4人に説明をしていた。リサはあきれたような溜息を吐き、リーとレイは私を睨みつけていた。
泣いて逃げ出したくなる思いをぐっとこらえ、私は新たな人生への決意を固めた。
いかがでしたでしょうか。ちなみに次回では、驚愕の真実が明らかになる・・・予定です。分かりません。分かりませんがきっと多分絶対なると思います。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。