勇者乱立編1
「相手はトウドウ・シン・デーンと名乗る人間の男とディーテというダークエルフの女で、剣の腕も魔法もかなりの使い手なんでさ、だんな方。それから、二人とも流れ者なんでさ。」
いかにも子悪党然の男が、借り切った酒場の一室で、騎士崩れの男や逞しい獣人の女、悪事専門の魔道士等という、いかにもという十数人の男女に説明していた。
「そんな奴。わし一人で十分だろうが。」
と剣士の一人が言うと、
「あたいには、魔法なんぞ効かないからよ、あたいこそ一人で十分さな。」
ライオンに似た感じの逞しい獣人女も言い立てた。すると一斉に言い争いが始まった。
「まあまあ、ボスはあいつらを確実に殺したいのと、切り刻んで、苦しめて殺したいんですよ。」
慌てて、汗をかきながらその場をおさめ、作戦と待ち伏せ場所の打ち合わせに入った。その最中に獣人女が、彼らに加わらずに部屋の奥で孤立して、一人座っている、金髪に近い明るい茶色の髪毛の女の方をチラッと一瞥して、
「あの女は役に立つのかい?」
「あれは、魔石などを身に着けた魔道士を、魔法で圧倒したんだ、魔法石なしでな。剣の腕も立つ。それに、どこぞのいいとこの出らしいし、結構いい女なんだぜ。」
この中の何人かをとりまとめている男が、舌なめずりしながら言った。獣人女は、彼と女に軽蔑した目を向けたものの、
「それだといいがな。」
不機嫌そうに言っただけだった。
「フン。下民どもが。」
女はつぶやいた。
「どうじゃ、似合うだろうが?まあ、おまえが全て選んで、揃えてくれたものだがな。似合いのコンビ、恋人同士に見えるだろう?」
二人は街道を足早に歩きながら、ダークエルフらしき女は、しきりに嬉しそうに言った。
「ああ、あの時とは見違えた、ディーテ。男達の羨望と女達の嫉妬をこれからも誘いそうで、頭が痛いよ。」
「そうか、そうであろう、そうであろう。トウドウ、お前は正直だ。」
そう言って、嬉しそうに彼の腕をとり、すがりついてきた。二人で、魔獣や凶暴なゴブリンなどの狩り、掃討の依頼、かなり難度の高い依頼も次々、あっという間に処理してきた。あまりにやり過ぎて、他のグループの反感を買い、その襲撃を受けた。3組を返り討ちにして、壊滅させた。このままでは目立っては、流石に不味いので、逃げるようにして、その町を出てきたのである。
「魔力の増大はこれからも続くのか?まあ、かなり強くなったが。これだけの使い手は、滅多にいないというレベルまできているが。」
「分からぬ。ペースは落ちてはいるが、もうしばらく伸びるだろう。お前は、どうだ。」
「同じだ。お蔭で、聖剣の修復度が高まっている。」
「今夜あたり、また交あうか?」
「ああ、そうだな。ところで、待ち伏せしているな。まずはそちらだな。」
「16人か。見くびられたものだな。」
「量より質かもしれないから、油断できないぞ。もうしばらく気付いていないふりをしていよう。」
二人は恋人のように腕を絡ませたまま歩き続けた。“あの日から、まだ1ヶ月足らずか。こいつに会ったのは良かったのか、悪かったのか。まあ、いなかったら、寂しさでたまらなかったかもしれないな。分かっていたことなのに。”
転移魔法、移動するところと移動先に魔方陣を作っておくのが普通だが、移動先に魔方陣無しにでも一応は可能だ。ただし、大きな魔力と時間が、必要となるため滅多に行う者はいない。彼は、あの日、誰もいない路地裏で、魔方陣を作り出し、転移を試みた、転移先の魔方陣無しに。彼の魔力は、それが容易だったし、1週間前から準備していた。魔法石に魔方陣を仕込み、必要な時に発動出来るまでにしておいたのである。これは、彼の創案である。目的地は、彼がこれから小領主生活するために、荘園を購入出来そうな、前々から見込んでいた場所である。中継ぎの勇者の仕事からも、真の勇者からもおさらばする、…はずだった。魔方陣の光の中に入り転移する直前、
「私も連れて行って!」
とダークエルフの女が魔方陣に無理矢理割り込んできて、空間のつながりが歪み、転移先が予定と遠く離れた場所になってしまった。
「ここはどこだ?」
思わず叫んだ。記憶にないところだ。夜空の星と位置検索魔法で位置を割り出して、急いで地図を広げる。出発点から、北に100㎞以上、魔族の勢力がより強い地域だった。思わず舌打ちした。“これもいいかもしれない。”とも思い直した。デューク・フリード、真の勇者が何を考えているか分からない、直ぐに荘園を買い取って安心していても、何をされるか分からない。まだ、誰も知らない場所から、真の勇者の進む道と反対方向に進む方がいいかもしれないと思い返した。彼に、最初に会った時、その発するオーラ、傍らでうっとり見とれる女神から、真の勇者と認め、ひれ伏して彼を迎え、周囲にもそのことを告げたにもかかわらず、彼の目は冷たかったし、いかにも卑しいものを見るものだった。聖剣も聖鎧等もすべて打ち砕かれた。真の勇者の聖剣に総てを移行するためとはいえ、その時の態度はいかにも酷いものだった。一緒にいたければ一緒にいていいぞ、というものだった。小魔王の軍に一人で向かわされた。この態度に誰もが同調して、突然、三下の扱いになった。その一方で、聖剣なしで、小魔王の軍を向かわされた。そして、何とか小魔王とその親衛隊を壊滅して、疲れきって帰っても既に食事もなかった。総ての仲間が手のひらを返すように離れていった。
「奴隷のままで、このまま、お側にいたいのです。」
「お兄様。」
と言っていた先代魔王の孫娘が、
「彼は私を、奴隷のままにしていたのです。」
とデュークに救いを求めたのには流石にこたえた。奴隷のままだったのは、より守れるからだったのに、それは彼女も分かっていたし、彼女の体には触らなかったのに。しかし、それで完全に踏ん切りがついた、と思った。デュークが、魔王軍に対する戦勝祝賀会で、周囲の目のある中で、小魔王を倒した報奨金の袋をぶちまけ
「欲しいか?」
とこれ見よがしに出され、彼に媚びを売るように転がった金貨を踏みつけられながらかき集め、王侯貴族の集まる華やかな場に呼ばれなかったこと以前に心は決まっていた。
「義理は果たした。」
そういう思いだった。そのまま、街なかに出て行った時には、思い残すものはなかった。
「こいつは。」
傍らで気を失っているダークエルフの女は、人気のない場所を探して彷徨っている中で、魔力封印石を付けられ兵士に引き摺られて奴隷に売られようとしていたところを、金貨3枚で買っつ、なにがしかの金を与え解放したダークエルフの女だということに気がついた。このまま置いて置こうかとも思ったが、ぼろぼろの服ながら悪い器量ではない、こいつを着飾らせれば、自分が目立たないと思った。
「使えるな。」
彼女と荷物を抱えて駆けだした。約100㎞以上一気に2時間駆け続けて、女と荷物を投げ捨てて、その場で仮寝することとした。目を覚まして驚いた。2時間以上寝てしまい、それでも疲れが残っているのを感じたからだ。
「これが加護がなくなった、と言うことか。」
少し前にはこうではなかった。3つの強力な魔法攻撃が使えなくなったりこと以上に、現実の厳しさを感じた。
「目が覚めたようだの、中継ぎの勇者。」
女は既に起きていた。
「お前、ダークエルフではないな。」
彼女を、見た時、ひどく異質なもの、そして自分を召喚した女神と似たオーラを感じた。
女は妖しく笑った。
「分かったか。流石に、中継ぎとはいえ勇者だな。我は、かつて覇権の戦いに敗れた神の種族の思念やら怨念やらが、それは長い時間をかけて集まり、ダークエルフや色々な存在に宿り、そして結合して、今のダークエルフのような存在を何とか実体化させたものだ。神でも何でもない、力のないダークエルフのような存在にしか過ぎない、今はな。だが、お前が我を神として認定して、権能を与えれば、我は地上の神となれる。そして、お前に加護をあたえられる。更に、我らが交われば、お互いに更に強くなれる。どうじゃ?」
彼は、目の前の存在の突然の提案に、しばし躊躇した。しかし、彼女に女神の感触を感じた。
「どうじゃ?」
彼女は促した。
「人間が神を認定する、権能を決めるというのは、本末転倒ではないか。」
「逆も真なりだ。異世界から来たお前には分かるだろう?」
彼は腹を決めた。
「分かった。我、トウドウ・シン・デーンは、お前を、愛欲と戦いの権能を持つ、女神ディーテとして認定しよう。」
「何だ?お前の名前は。それにつけても我の名前と権能は?」
「嫌か?」
「いや別に。変わっていると思っただけじゃ。さあ、善は急げだ、さあ。」
彼女は両腕を開いて、彼を誘った。彼は素早く裸になり、彼女がまとうぼろとしか思えないものを剥ぎ取って抱きしめた。彼女は微かに震えていた。
「ん?」
「無理矢理犯される以外は初めてでな。」
「可愛いな。」
彼は優しく唇を重ねた。二人とも直ぐに舌を絡めて、激しく吸った。口づけが終わると、シンデンは自分も裸になり、彼女に優しく愛撫を続けた。一体になろうとすると、僅かに震えた。
「自分の意思で、合意して、受け入れるのは初めてなのだ。」
恥ずかしそうに言った。それは、可愛らしく見えた。彼はあらためて口づけをしてから、一体になった。彼女は、幸せそうに喘ぎ声を出し、激しく動いた。