真の勇者の下で働く編8
「ジャンヌ大公母様!我が国の大勝利です。」
勝利の報告の使者の到着に、カペー王国宮廷は、喜びの声が満ちあふれた。勇者デューク・フリードが没してから、僅か数年、魔族の大々的侵攻が発生した。好戦派が反乱を起こし、魔界のかなりの部分を制圧したからだった。カペー王国軍は国をあげ、現国王、王太子、ジャンヌ大公母の再来とも言われる双子の曾孫の率いる軍を編成し、立ち向かった。初戦で大敗し、今回は背水の陣であった。齢100歳を越えたジャンヌは、既に戦いに出られる体ではなかったが、武装姿で王都を一人守っていた。国王、王太子、孫、曾孫も無事だということで、喜びで安心して力が抜けそうだった。それでも、彼女は何とか耐え、威厳を崩すことなく、立ったまま報告を聞いた。しかし、
「当初、我が軍は敗色が強かったのですが、トウドウ・シン・デーン殿率いる軍の援軍で大勢を逆転いたしました。」
との報告に、体が崩れた。
王都への、国王以下の軍は凱旋式から始まる一連の行事を、老体に鞭打ち全て取り仕切った彼女は、戦勝式で王族の最前列で、国王から感謝の言葉を受けるトウドウ・シン・デーンの姿を見た。真の勇者デュークですら、老衰で数年前に亡くなったのに、彼は、数十年前に、最後に見た時から時間が止まっているようだった。彼は、彼女に向かっても一礼した。その時、彼女はかつて言えなかった言葉を口にしようとした、勇気と気力を振り絞って。しかしそれは、彼の傍らに、彼同様に時間止まっている、四人の美しい女達が目に入った時、消えてしまった。彼は、4人を愛おしそうに、彼女らは甘えるように寄り添って、彼女の前から姿を消した。
翌日、ジャンヌ大公母は、病床につき、一ヶ月後、眠るように世を去った。
トウドウ・シン・デーンを先頭にした、人間・亜人・魔族和平派の連合軍が、魔界を制圧してから、三日後だった。
「真の勇者の下で働く編」は、今回で最終回ですが、引き続き「勇者乱立編」に移行します。