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中継ぎの勇者は聖女の王女様とは結ばれない  作者: 安藤昌益


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戦狂姫編 15

 雲霞の如き数、その言葉を思い出した。100万を号してはいる、20万は下らない兵力だった。こちらは堅固な野戦陣地を構築しているとはいえ、1万に満たない。それでも、これだけよく集まったとは、思っている。死を覚悟しての面々である。しかし、それでも、緊張し、青ざめている、恐れに震えている。彼らに気の利いた言葉をかけてやりたかった。独創的な言葉が思いつかなかった。ただ、ハンニバルの言葉が思いついた。それをそのままにと言うのは、と思ってアレンジを考えているうちに、思わず噴き出してしまった。

「何が可笑しいの?」

 流石に自身も緊張しているメディアが咎めるように言った。

「いや、あれだけの数の中にだ、その後方の荷駄隊とかも含めてだが、女達は何万もいるのに、メディアやラセットやイシスやディートほどのいい女はいないだろうなと思ったら、何となく可笑しくなったんだ。」

 言ううちに、本当に可笑しくなって笑い出した。

「馬鹿者!」

 イシスだった。彼女もはじめ4人とも、真っ赤になってしたがっを向いた。それを聞きつけ、見た周囲から笑い声が上がりはじめ、それは次第に全軍に拡がっていった。”それだけ、大将は自信を持っていると安心してくれたかな?“そして昨晩のことを思い出した。既にぐったりしているメディアラセット、ディーテを横目に、彼の上で激しく動き、喘ぎながら、イシスはしきりに、

「お前をこんな運命のために、召喚摺るつもりはなかった!」

と叫んだ。一段とはげしく動き、そして留まってから崩れるように、上に倒れて、

「すまぬ。本当に、こんなことになるとは思っては、いなかったのだ。」

 そう言う彼女の背を撫でていると、匍うようにちかづいてきたディーテが、彼の顔を両手で挟みながら、

「我は、最後まで、お前と一心同体だからな。」

と語りかけた。

「お前達を手放したくない、死なせたくない。勝って、生きて、ともに過ごそう。」

 戦いの序盤は、シンデーン側の圧勝に近かった。轟く轟音とともに、至る所に爆裂が起き、バタバタと歩兵が倒れ、騎兵が落馬し、30分の1ほどの軍に、突進していった第一陣が壊滅的打撃を受けたのだ。

 更に後方にも爆裂が起こって、巨大な投石器やカタパルト(巨大な石弓)が、その射程距離内に移動する前に、崩れ落ちていった。魔道士達が張った防御結界が全く効果を発揮しなかった。 

「ここまでは上手くいっているな。」

 トウドウは、満足そうではあるが、心配そうに言った。

「そろそろ勇者様型が、でてくるぞ。お、でてきたぞ。」

 イシスがいまいましそうに答えた。

「どういうようにだ?」

「自分達の直属のメンバーを引き連れてだ、中央から出てきた。」

 イシスが、中継するように続けた。

「戦いの場を作ってやるか。重噴進弾を彼らの前方位置に発射だ。」

 轟音と爆炎とともに飛び出したそれは、勇者達の前方に着弾、トウドウが誘導した、大爆発とともに、周囲を無人の広場にしてしまった。

 その中央に、トウドウは4人とともに転移して現れた。そして、選び抜いた精鋭40人。ただし、カルロス達、彼についた勇者達は連れていなかった。別の場所で戦わせることにしていた。その他大勢の軍を、彼の軍とともに押し返すために。その他大勢の軍は、彼とて無視出来るものではなかった。

「この女はお前の恋人か?さあ、助けてやれよ、勇者だろう?」

 ラセットが、顔の半分が潰されながらも、

「勇者様…お逃げ下さい。」

と口走る女騎士の頭を握り、残忍な笑いを浮かべて、動けなくなっている男の勇者に向かって罵るように叫んだ。片腕を失い、片脚も失いかけていたが、男は何とか動こうとした、また、魔法瓶発動しようとした。

「愛する2人でくっついていろ!」

 力まかせに、女を勇者に向かって投げ飛ばした。頭からぶち当たったが、聖鎧であったため、一方的に彼女の頭が砕け散った。

「殺したのはお前だよ!お前が、お前を愛している女を殺したんだよ!」

 そう言いながら、勇者の頭を、拳の一撃で砕いた。魔法て、何とかしようとする気力も、力も残っていなかったのだ。

「全く、魔族女は野蛮で下品なんだから。」

 メディアは、自分達が罵りながらも、女勇者の体を切り刻んで殺したのを棚に上げて、咎めだてた。イシスとディーテは、そんな2人に溜息をつきながら、それぞれ、あまり変わらないやり方で勇者達にとどめを刺していた。

20人以上の勇者とそのパーティーの殆どは倒れていた。

「勇者様のいない世界で生きたくはありませんわ!」

 軍師格のハイエルフの女の体を、デーンの剣が貫いた。彼女が絶命したのを見て、シンデーンは、フリードリヒをあらためて見た。

「馬鹿な奴だ。さあ、早くとどめをさせ。大望は破れたが悔いはない。お前の下で生きたくはない。彼女と生まれ変わって、次こそは…お前を部下にしたいな、その時は。お前を評価してやっているんだ。有り難く思えよ。」

 まるで、自分が勝利者のようだった。

「その時は、お前のために頑張ってやるよ。」

 剣を突き刺してとどめを刺した。

 何人かの勇者達とそのパーティーは、とどめをさしていない。メディア達も同様だったが、最後の方になると、余力もなくなり、感情が高まり、相手側の罵倒のせいもあるが、戦い方が残忍になった。

「少し、息を整える時間をさし上げましょうか?」

 ジャンヌが、自らの精鋭200名以上を率いて、彼の前に立っていた。

「ご配慮有り難く受け入れよう、ジャンヌ王女。」

「あなたには、我が国を何度も救われた恩がありますからね。」

 そう言いながら、聖剣をすっと抜いた。決して漁夫の利を求めて、隠れていたというわけではない、彼に多数でもって当たるのが卑怯に感じたからであり、あの様な偽勇者達と行動をともにしたくなかったし、彼が疲れるのを待っていたわけでもない、たまたまこうなっただけなのだ、心のそこなら彼女は叫びたかった。

 トウドウにとって、今まで楽勝だったわけではない。シンデーンをはじめ、メディア達も紙一重いや紙二か三重くらいで何とか切り抜けたのである。彼の軍と彼の盟約を結んだ勇者達も、圧倒的な数と魔法装具の装甲騎馬隊、重装歩兵を何とか押しかえすした。彼のもとに勇者達も駆け付けてきたが、彼らも疲れきっている。まだ、ジャンヌ王女の側が十分勝利する可能性はあった。ここで彼を倒せば、形勢は簡単に逆転出来るし、彼を倒すことは十分可能なように思われた。

「回復薬を飲むことまでは許していません。」

 ジャンヌは、回復薬の入った小瓶を取り出したシンデーンに向かって、斬り込んだ。いきなり全力での攻撃だった。彼女の聖剣は、周囲にいる者を弾き飛ばす衝撃を発していた。同時に、十数発の火球を放った。彼女の臣下達も一斉に彼女に続いた。メディア達も、それに応じるように動いた。

”私の攻撃が効かない?“シンデーンは、彼女の攻撃を受け流して、小瓶の中身を飲み干してしまった。彼女は、最初の一撃で彼を倒せなかったので、素早く数歩退いて、聖剣に魔法を載せて、斬撃を放った。彼は、それも受け流した。ジャンヌは、今度は間髪をいれず攻めたてた。シンデーンは、たちまちジャンヌに追い詰められた、ように見えた。これを見て、彼女の臣下達が加勢に飛び込んできた。彼らの攻撃に、シンデーンはさらに押されながらも、と見えた、1人また1人と倒してゆく。彼が苦し紛れに放つ、魔法攻撃はジャンヌに軽く弾かれ、よけられて、全く効果が上がらなかった、ように見えた。

「この卑怯者!」

 ジャンヌが叫んだのは、今まで弾き飛ばし、避けていた彼の魔法攻撃が、複雑な軌道を回り、彼女の臣下達を襲っていたことに気がついたからだった。彼女達に勇気づけられるように続いてきた他国の兵達も、彼女の他の将兵達も、疲れきっているはずのメディア達4人や勇者達、彼の僅かな親衛隊に、彼女の臣下の精鋭達とともに襲いかかったものの、既に押され始めていた。彼の攻撃が一因だった。もうこうなったら、そんな余裕など与えない、とばかり激しく攻めたてた。心の奥底で、“馬鹿にして!私をまともに見ようとしないのか!”という声を上げていた。彼女の目に映ったシンデーンの表情が変わった。彼が攻勢に転じた。すぐに押され始めた。それを見た彼女の臣下達が加勢に加われが、次々倒れていった。

“なかなか圧倒出来ない!強い、臣下達の信頼を勝ち取っている。このまま粘られては、こちらが危ない。”シンデーンは焦った。

 彼女の

「神撃の雷!」

 を彼が叫んだ

「転真敬会奥義シギョウダイタイ」

が中和化しながら押し返し、ジャンヌ王女を衝撃で飛ばし、倒れた彼女の体を彼の剣が貫いた時、“何とか勝った。”と彼は心から感じていた。その彼の元に、荒い息をしながらメディア達が駆けつけてきた。

「何とか、倒したわよ。」

「ようやく退却し始めました。」

「追撃するか?」

「何とか力は残っているが。」

 彼女達を抱きしめて、

「奴らはいいさ。皆殺しにしたい奴は別だし、とにかくお前達と勝利を祝えそうで良かったよ。」

  

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