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真の勇者の下で働く編4

「お前は、まだ勇者として讃えられた日々が懐かしいか?」

 会戦が大勝利で終わった後、魔王軍の敗残兵などの掃討、ついでに混乱の中で出てくる夜盗、略奪に走る戦いに参加した傭兵達の討伐をトウドウ達は引き続き行っていた。その後での慰労の戦勝祝賀会を国王達に約束させた上でのことだった。ジャンヌ王女は約束を守った。運び込まれた酒や食べ物で、王都近くの野営地でトウドウ達の戦勝祝賀会がもう始まってもいるはずである。彼らを王宮内に入れたくないからだが。トウドウとイシスは、残っていた王国との報酬などに関する懸案事項の協議が長引いて遅れてしまった。一応満足のいく結果だったが。

「ああ、どこかの街で、市庁舎のバルコニーから、メディアとラセットが両脇に立ち、私が市民、数百人か、数千人かに向かって手を振った日のことは、まだはっきりと覚えている。イシス、あの時はお前も来てくれた。頭上で微笑でくれていた。私にだけしか見えていなかったがな。あの時、これで終わる、単なる幻覚、夢、幻に過ぎないと分かっていたはずなのに、今でも思いだしてしまう。」

 夢見るような表情だった。そして、すぐ何時もの表情に戻り、

「過去の栄光を忘れないのは、お前も同じではないか?王女に何か言われたか?」

 イシスが同行したのは、ジャンヌ王女が、聖戦士様とお話をしたいと言ってきたからであった。

「なにも。ところで、だ。」

 自分とトウドウの関係、3人のトウドウとの関係を尋ねられただけである。

 彼女は彼の手を握ってきた。そして、彼を引っ張って、木陰に入って行った。訝しげな表情を見せる彼の方を見て、鎧ともども下半身に身に着けているものを降ろし、胸のあたりを緩めた。

「たまには、我だけを抱け。お前は、何時でもできるだろう!」

 口調とは裏腹に、彼女の目は潤んでいた。彼が手を触れ、指と舌を動かすと、直ぐに体は反応し、憐れな声を出した。そして、すっかり濡れていた。彼も下半身のものを脱ぎ捨て、彼女を少し持ち上げた。直ぐに喘ぎ声をだし、激しく動き出した彼女に合わせて彼も動いた。そして、彼女は、一段と大きな喘ぎ声の後動かなくった。その後、彼だけが激しく動いて、彼女の体を引き付けるように震えてから彼の動きもとまった。彼女が口付けを求めてきたので、二人は長いこと舌をからませあった。

「私は女神だ。分かっているな。」

 それは弱々しく、哀願する感じだった。

「変わってない。お前が、私を蘇らせ、この地に転移させた日から変わらず、私にはお前は女神だ。」

 何かがあった、あの女神に勇者をとられたとか?と考えたが、彼女の安心したような表情を見て口にするのはやめにした。そのかわり、さらに力強く抱きしめた。彼女の、その時の表情は、本当に可愛いと彼は思った。

「だんな!遅かったすね。もう、始めちゃいましたよ。」 

と誰かが声をかけた。メディアとラセットが彼を引っ張って自分達の隣に座らせる。イシスは、ふん、とした表情で近くに座った。

「イシスの臭いがする。」

「二人でお楽しみだったわけね。」

 毒づく二人に続けざまに口づけをした。

「力は分けてやる。」

 二人はふくれたものの、それ以上追求しなかった。

「全く、だんなも隅に置けないですね。いつの間にか、姫さんや魔族娘だけでなく…。」

 聖騎士上がりの男が言いかけて、二人に睨まれて慌てて、

「旦那も姫さんも魔族娘もパワーアップしたんじゃありませんか?どういう…。」

 話題を変えようとしたが、

「愛の力よ。」

「愛の力。」

 二人が声を揃えて言ったので、次の言葉が出てこなかった。その後ろから、

「その上、ダークエルフまで。あんたが、そんなに節操のないお方だったとは、思いませんでしたよ。」

 さすがに、ディーテがチラッと睨んだ。ハイエルフの男だった。弓を肩にかけ、長い金髪をなびかせつつ、ラセット、ディーテを蔑むような視線を向け、さらにはその視線をメディアにすら向けながら、輪の中に割り込んで座った。

「それでも、また、あんたと戦えて嬉しいですよ。」

 ワインを口にしつつ、しんみりと言った。

「君がエルフ達に声をかけて集めてくれたことも、君達の活躍にも感謝しているよ。」

 傲慢な表情の中に、少し嬉しそうなものを見せた。

「このまま、旦那と一緒に魔王を倒したいですね。」

「旦那について行きますよ。」

 酒が回ったせいで、調子のいいことを皆は言い始めた。”この場限りの余興だ!“とわかってもいるものの、トウドウも心地良い物を感じた。

「私の近衛隊長なんだから。わかっているわね、2号、3号、4号!」

 メディアが酔っているように、彼の肩に頭を載せながら、叫んだ。ラセットは

「何時までも、お兄様の元に。」 

すり寄るようにしながらも、つぶやいた。

 イシスはフン、いう顔で、ディーテは我関せずという素振りだった。 

「おじゃましてよろしいか。」

という声で。皆が声のする方向を見た。ジャンヌ王女だった。彼の隣にという風だったが、メディアもラセットも動こうとしないだけでなく、一層強くしがみついた。彼の手が、場所を開けるよう、向かい側に示した。何人かが詰めて、場所を開けた。ジャンヌ王女は礼を言いつつ、そこに座った。

「どうしたのですか。王宮で皆が探されていると思いますよ。」

 トウドウが呆れたように言った。ジャンヌ王女は苦笑して、

「鎧を着た身には、こちらの方が心地良いのです。それに。」

 彼女は言葉を切り、言いにくそうに口ごもった。

「あなたにお詫びしなければなりません、あなた様、あなた様方に失礼な言動をしたことについて。この通りです、申し訳ありません。」

 彼女は頭をトウドウの方に向けて深々と下げた。ラセットが何か言いかけるのを、メディアが止めた。

「頭をお上げください、王女様。あなた様がなさったのは、お国の立場からやむ得なかったことだというのは分かっています。その後は、大変よくしていただきました。感謝するのは我々の方です。」

 彼は王女に深々と頭を下げた。今度は、ジャンヌ王女が慌てた。

「頭をお上げください。国を救っていただいた、…」

 一度言葉をきり、自分を励まして、

「勇者様に頭を下げさせる非礼はできません。」

 ゆっくり頭を上げたトウドウの表情は、しかし、厳しいものだった。

「ここを魔族の軍から救ったのは、私やあなた様やメディア、ラセット、イシス、ディーテ、ここにいる仲間、あなた様の軍…全てによってです。そして、それは真の勇者様の命の下でのことなのです。」

 最後は、耐えるかのような表情が一瞬のぞいた。それを見て、ジャンヌ王女はそれ以上何も言えなくてなった。そのうち、誰かの発声で、共に乾杯が行われた。

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