戦狂姫編 8
「これからどうするかだの?」
ディーテが、問いかけるように見た。女達は、原形を残していない衣服を脱ぎ捨てて、死体から適当に剥ぎ取って身に着けていた。周りから死臭を感じる中で、取り敢えず途中だった食事をとることにした。イシスは、ドューク・フリードの死体のわきに座り込んでいた。トウドウが、シチューとパン、そしてビールを持って近づいて来たのを感じて振り返る。
「粗末なものだが、神とはいえ、食事をとった方がいい。」
差し出すと、彼女は素直に受け取って、スープをすすりだした。
「何故、こうなったじゃ?今までにないくらい立派に育てたのに、本当に立派に育ったのに。」
憎々しげに、あの女神の死体を睨みつけた。
「あなたは、彼を完璧にし過ぎた。だから、彼は私もお前も許せなくなったのだ、完全ではなかったから。」
「あの売女神や女達が完璧だと言うのか?」
見上げながら、彼女は睨んだ。
「身内だから、許せなかった…、のかもしれない。本当のことは…分からない」
首を横に振った。本当のところは、デューク以外には分からないだろう、
「寝取られたことをクヨクヨしてないでよ。あんたのせいで、こうなったんだから、今後のことを考えてよ。」
メディアが苛立った。トウドウが窘めようとしたが、
「そうだな。かなりの神々を敵にまわしているわけだからな、早く今後のことを考えないとな。」
メディアに同意するように立ち上がって、皆のところにやって来て、腰をおろした。
「神々を敵にまわした?」
トウドウはあらためて尋ねた。イシスは、苦しげに口を開けかけて、いったん閉じてから、もう一度開けた。
「女神と正式な勇者を殺したのだからな。」
「しかし、正当防衛だろう?」
「正当防衛?お前の世界の言葉か。あの時点でな、裁定が下りていたのだ。我は、天界から堕とされた。その我とお前が、天界の女神と正当な勇者を殺したのだ。当然、罰を与えようと考えるだろう。」
「天界全体を、神様全てを敵にまわすということになるわけ?」
メディアが口を挟んだ。
「とても勝てない?」
ラセットだった。しかし、2人の顔が、“やってやるわよ!”という顔だったので、トウドウは少し安心した。
「そんなに、天界の神々にとって、この世界は大きなものではないだろう。我はよく分からぬが、どうだ?」
ディーテの指摘は、何となく頷けた。皆、イシスに視線が集まった。彼女は、空を見上げるようにしながら、
「天界の記憶は、堕とされた時に削り取られたらしいから、どうも分からないところが多いが、多分こやつの言うとおりだ。大神なり主神なりが、神軍なりを率いてなどはないだろうよ。裁定の際、我を指示した神々もいたような気がする。そして、何となく聞こえた。」
「なにがだ?」
トウドウを睨みつけながら、
「望む神々に、勇者を選び、加護を与え、お前を自らの勇者に倒させる権限を与えた。お前を倒した勇者を選んだ神は、我の本来の地位を得る。既に、十以上の神々が名乗りを上げて地上に降り立った。さらに増えるだろう。」
「マスターを倒す勇者は一人、あんたの地位を得るのは一人だけでしょう?その他の神々はどうなるの?」
「降格や体罰などの罰則があるらしいな。」
“武闘会かよ。”トウドウは、心の中で毒づいた。ふと、疑問を感じた。
「勇者達は協力して我々とあたるつもりか?我々は、その勇者達に勝てるか?」
「我が、見過ごした勇者の資質の持ち主がいる可能性がないといえぬ。だから、絶対ということは言えないが、お主はおろか、我々を倒せる男或いは女はいない、我のみるとこところ。それから、地位は一つだ。足の引っ張り合いこそしても、協力などしまい。」
「あなたって偉かったんだ。それで如何するの?取り敢えず、身を隠して、勇者がやって来たら、殺すということをするの?」
メディアの後半の問いに、今度はトウドウに視線が集まった。彼は深呼吸をしてから、
「取り敢えず、魔王を倒そうと思う。その前に、少数でも兵を集めよう。」
自分達の意味はそこにあるのだから、とトウドウは言った。そうすれば、多少は自分達になびく国や都市が出てこよう。小さな国の王侯になれるかもしれない。その上で、
「やってくる勇者達を各個撃破しけばいい。その後は、その時考えればいいだろう。天界の主神様なりが、和解してくれるかもしれないしな。」
「いい加減ね。私の国で兵を集める?効果的な脅し方は分かるわよ。」
「私の祖父縁の地なら、魔族の兵を集められるかも。」
メディアとラセットが競うように提案した。
“取り敢えず、近くにいるはずの、かつてのチームの連中を強引に引っ張ってと…。”とトウドウは考えた。
兎に角時間はあまりない。デュークが、軍を解散した後に、秘密裏に、トウドウ達を葬ろうとしたことで、今は誰も勇者達が死んだことは知らない。3人の王女の母国でも、自国の王女が殺害されたことを知らない。勇者達もまだ出現していない。この間に出来るだけ進めておかなければならない。世界が動き出す前に、魔王を葬り去りたい、出来れば。
ただ、彼には、自分達の保身以上に、何となく辻褄を合わせたい、と思っているのではと思えてならなかった、自分のことながら。
その後、食事を終えてから、周囲に散らばる死体に発火魔法で燃やした。炎とともに、肉の焼ける臭いが鼻をついた。勇者も女神も神聖がなくなったのか、他の死体同様に燃え、臭った。その中で輝く魔法陣の中に5人は消えていった。




