表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/58

真の勇者の下で働く編3

「これだけ?しかも勇者様ではなく、まがい物が?どういうことです!」

 将軍達を従えた金髪の、まだ少女の面影が残っているジャンヌ王女は、呆れ、怒り叫んだ。甲冑姿で、将軍達を従え、国王、王太子ではなく、彼女が出てきたのは、彼女が軍の先頭に立つ、そして、勇者ではない者が来たことへの強い怒りを現していた。トウドウ・シン・デンは、片膝をついて平伏していたが、彼女の叫びが一段落するとゆっくり顔を上げた。

「お気持ちはよくわかりますが、勇者様はお一人、幾つもの場所に同時には行けません。速やかに魔王を倒すことを考え、戦略を立てざるを得ません。かつて、勇者様にはるかに及ばないとは言え、私は代理として戦ってきた者であります。その私と歴戦の者達をこの任につけたのは、勇者様が貴国、この地域を決して軽く見られたわけではないことはお分かりでしょう。」

“とは言え、だ。”

 確かに少ない、のは事実だった。以前から、シンと戦ってきた仲間達に加え、メディアのかつての臣下、使用人、失脚した彼女の元に集まってきた連中である、魔族達、ラセットの死んだ両親の種族、家臣がシンとメディア、ラセット、イシス、ディーテに従ってやって来た。あと傭兵がいた。流石に悪いと思ったのか、勇者デューク・フリードは、資金を潤沢に与えてくれた、数百人を雇い入れるほどのものではしかなかったが。また、以前、彼に救われた、彼と戦ったことのある者達が周辺地域からやって来て、加わっている。それでも、総計300名を超える程度にすぎなかった。

「おや、そこにおられるのは、どこぞの、国を追われた、陰謀好きの王女様ではありませんか?」

 情報を入手していたのだろう。メディアは、しかし、その挑発にはのらなかった。

「過去の名前は、地位も捨て、忘れたわ。今はメディア。そして、彼ととも真の勇者様の下で、彼、トウドウ・シン・デンの同士としてともに戦う女魔法騎士、戦士。それだけ。」

 静かに、凜とした口調で言った。“大した奴だ。”シンは心の中であらためて感心した。

「そうですか、分かりました。立派な戦士として接しましょう、王女としてではなく。」

 少しムッとしたが、彼女は言い返さなかった。

「ところで、シン殿。魔族の娘も、ともに戦う同士なのですか?身を売って生きてきたとも、言い立てる者もいますよ。」

 ラセットは、怒りを露わにした。トウドウは、彼女の肩に手を置いた。イシスが耳元で、黙っているように囁いた。

「彼女は、私達とともに、今の魔王を倒し、私達と未来をともにすることを誓ったものです。十分戦士として信頼出来る力量もあります。それに。」

 彼は立ち上がった。

「この世に、洗って落ちない汚れなどはないと私は思っております。ここで、時間をこれ以上無駄にしても仕方がありますまい。魔族の軍との戦いに赴きましょう。」

「そうですね、あなたの言うとおりですね。」

 言ってやりたいことは、まだ足りない。このような、国が軽んじられるようなことに、父国王、兄王太子、国民に代わって言ってやりたいことは山のようにあったが、これ以上言っても仕方がないことは分かっていた。彼女は、自制心を発揮した。`

 魔王軍は、約1万。人間側は、応急だが、一応堀も、壁や柵、望楼を備えた2万弱の兵力が対峙する形となっていた。やくざな造りとはいえ、城攻めに変わりがないため、魔王軍も強攻をためらった。人間側も各国が自分の領地の防衛を優先して、自らの居城に主力を立て篭もらせたため、兵力が集まらなかった。魔王軍は、人間側のそうした事情を見透かして、500ほどの隊を3組、略奪隊として侵攻させた。人間達がそれに引き出されれば、野戦で撃破するし、立て篭もったままなら、略奪しまくり、その戦利品を持ち帰ればよいと考えていた。

 その内の一隊の先頭が突然倒れた。矢が深々と胸を刺し貫いていた。次々に矢が飛んできて、また一人、また一人と倒れた。矢の飛んできた方向を見ると、一人の男が長弓を引き絞っているのが見えた。身構えると、いたるところから矢が飛んできて、正確に当たった。動揺が広がった。しかし、この時点では大したことはなかった。

「イシス!一発、大きな奴をあいつらの上に落としてやってくれ。」

「分かっているわ。特大のを食らわせてやるわ。」

 詠唱を唱え始めた。彼女は、詠唱を唱える必要もなかったが、詠唱なしより魔法力の消耗を防げる。 

 魔王軍の上に、光の大きな玉が現れ、急速に落下し始めた。慌てて防御魔法が張られたが、やくざなそれはかえって、彼らに不幸をよんだ。魔道士の十数人が、血を流して倒れ、その倍以上が大地に叩きつけられた。

「すぐ追いつくからね。」

 トウドウは、大弓を引きながら、珍しく詠唱を口にした。

「カッシンシギョウキンニオオキクススミゴセイミョウヨウニハタラキメノマエノシゼンヲシラナイエイショウヲトナエルアヤマリノトトウヲホロボセテンシンケイカイオウギダイシンキン!」

 放たれた矢が、幾つもの色の光のレーザーのように変わり、魔軍の方に向かった。詠唱により張られた防御結界を貫き、十数人が絶叫をあげて倒れた。3本の光が、より遠く進み、指揮官の肩の辺りを貫通して、周囲の肉を焼いた。

「突入するぞ。」

 大弓を投げ捨てで、剣を抜いて駆けだした。

「メディア、ラセット!援護してくれ。ディーテ、全体援護!」

 両側のメディアとラセット、後ろのディーテに命じた。

「分かっているわ。」

「委せて下さい。」

「了解だ。」

 迎え撃とうとした巨漢の獣型魔族二人を、トウドウは袈裟懸けに切ると、その二人がほとんど真っ二つになっただけでなく、その斬撃の余波で その後ろの3人が体を大きく切り裂かれ、血飛沫をあげて倒れた。メディアとラセットは、巧みに目の前の魔族を切り伏せ、魔法攻撃で留めを刺した。ディーテは短弓の矢と魔法で援護するように、より後方を攻撃した。

「お、待たせ~。」

 短槍を振るって、イシスが躍り込んだ。トウドウを先頭にした100名に瞬く間に押されていたところに、横合いから、200名が突入してきた。さらに、300名が後方に、退路を断とうとするように現れた。もともと略奪を主目的にしていたため油断があった。しかも、予想していなかった精鋭の攻撃に突き崩されかけていただけに動揺がすぐ拡大し、崩壊寸前になった。指揮官の巨漢、ほとんど巨人型オークに近い人間型魔族は、自らに自信があったのか、既に負傷している身で先頭に立ってトウドウに向かってきた。両脇の護衛も、魔法攻撃で援護したが、彼が剣に乗せた強力で、範囲を絞った衝撃魔法でそのまま主人とともに魔法ごと切り刻まれてしまった。副指揮官と親衛隊長を、メディア、ラセット、イシスが瞬殺してしまった。ディーテが、その周囲に爆炎の嵐を落とした。そこで魔軍は、総崩れになった。そこで、トウドウは自分が率いる300名を止めた。総崩れで敗走することになった魔軍をジャンヌ率いる300名が追撃をかけた。ここまでいけば、流石に魔族500とはいっても、トウドウの目の前の遺棄死体は200は少なくともありそうだから、残兵は300名以下だか、人間の兵士精鋭300名にも抗し得ないだろう。実際、ジャンヌの軍は200近くの魔族を殺した。時間をおかず、他の二隊も敗走させた。そちらの方では、事前に囮の部隊を砦に立て篭もらせていたり、陽動の部隊をうろちょろさせておいていたが。

 それに焦ったのか、魔王軍は、対峙して、砦化している陣地で守りを固めている人間側の本軍に、攻撃を仕掛けた。

 瞬く間に、魔王軍は二つ目の堀と柵を破って、本陣に迫った。その時、後方に大きな衝撃と震動が起こった。後方警戒の部隊が支えようとしたが、周囲から矢や魔法の攻撃があって混乱する中、突入してきた軍の勢いは尋常なものではなかった。今度は、魔王軍があっというまに突き崩されかけていた。立て直そうにも、それを巧みに妨害するように、矢や魔法が狙撃するようになされ、色々な方向から突撃しては逃げる部隊が現れ妨害した。そして、突入した部隊の先頭の兵に、立ちはだかる兵が部隊ごとなぎ倒された。トウドウだった。

”援護されていると戦いやすいな。“と彼は思いつつ、剣を振るいながら、複数の攻撃魔法を放って、周囲をなぎ払っていった。彼と並んで戦うメディアとラセット、後ろから矢と魔法で援護するディート、大きさ攻撃魔法を魔王軍に落としながら、駆けてきているイシスを見ながら、時々援護した。さらにその周囲の兵や離れた所で援護している兵のことも考えて魔法攻撃を放った。圧倒されていた人間の本隊も盛り返して、柵から魔王軍を押し出し、さらに柵から出て追撃してきた。魔王軍は、両方に対応しようと、予備隊を投入し、総指揮官の副魔王又はそれと同格の大将軍も自ら陣頭に立って進んできた。それを待っていたかのように、魔王軍の横合いから突入する部隊があった。トウドウとその兵に完全に押され、反撃も逆に押し返される中、魔王軍には新たな攻撃を支えることは出来ず、総崩れとなった。”ここで、撤退してくれると助かるのだけれど。“トウドウは思ったが、そうは上手くはゆかなかった。魔王軍の大将は、あくまでも戦う道をえらんだ。親衛隊とともに、人間の本隊に突入した。しかし、直ぐにトウドウたちが後ろの方から追いついた。

 大将は、魔界のエルフ型魔族、ダークエルフということになるが、ダークエルフは人間界にもいるし、ハイエルフに言わせると自分達純粋のハイエルフと、他の血が入ったのがハーフエルフ、それ以外はダークエルフになっていたしまうが。彼はどちらかというと、いわゆるハイエルフに近かった。彼は、直ぐにトウドウに向かってきた。エルフらしく、魔法攻撃と半弓での矢の攻撃で向かってきた。それを受け流すように弾き返し、トウドウは彼に迫った。彼も剣を抜いた。一、二合剣を交えた。魔剣に渾身の魔力を込めていたのだろう。トウドウも同様だった。一合のそれだけで周囲の空間が歪んだと思われるくらいの衝撃だった。剣技にはさほど自信がなかったのだろう。一撃で勝負を決める、勝つもりだったのだろう。しかし、折れたのは、魔族の魔剣だった。次の瞬間、トウドウの剣が彼の体を切り裂いた。親衛隊の半ばはトウドウが倒した。追いついて、躍り込んだイシスが瞬く間に何人かを槍で突き刺すと同時に、総崩れで退却を始めた。それをジャンヌ王女率いる部隊が追撃をかけた。トウドウは、自分の兵を止めた。王女に花をもたせたい方がいいし、更に兵を失う必要もないと思ったからからである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ