勇者乱立編14
二人の勇者は、シンデーンの声と背中からの違和感に、後ろを振り向いた。
「え?」
「どうして?」
二人の背中には、短剣が突き刺さっていた。直ぐに、痛みを感じ、その後に身体の内部で何かが破裂するような、熱いような感じがした。そして、直ぐ、その剣は引き抜かれ血が吹き出した。その血を浴びながら、短剣の持ち主は、さらに隙を窺うように立っていた。
「イボンヌ!何故、あなたが?」
「カトリーナ?どうしたのよ!」
勇者ではなく、チームのメンバー達が叫んだ。カルロスも、カーミラは、あまりのことに声がでなかった。残忍な笑みを浮かべていた二人は、しかし、そのまま倒れた。駆けつけたメディアとラセットに斬殺された。トウドウは、彼を飛び越し、チャンスとばかり殺到する魔王軍の精鋭達に立ちはだかった。
「デビルビーム、ブレストファイアー、ルストハリケーン、サザンクロスナイフ、アイアンカッター!」
電撃、高熱、溶かす風、光の十字剣、斬撃により生み出された真空が周囲の魔王軍を倒して、しばし彼らを後退させた。
「どうして?一番古くからいたのに。私より、愛されていたのに?」
だれかが、苦痛で膝をついて勇者達の心を代弁するように、震える唇で言った。
“ずっと前から、人間、亜人の中にまぎれこんでいたというわけね。魔王、やるわね。”メディアは、勇者達の応急処置をしながら思った。
「ここは、私に任せて、勇者達を連れて下がって、体制を固めろ!勇者達はそんなことでは死なない。泣くのなら、お二人を運びながら泣け!」
彼らの後退をメディア、ラセット、イシスに援護させる。ここぞとばかりに魔王軍が攻勢に出てきた。トウドウは、その矢面で奮戦せざるを得なかった。ディーテが、そして時折イシスが、メディアがラセットが長距離の攻撃魔法で援護してくれたので、何とか持ちこたえていた。それを見て、魔王と側近の魔王軍の精鋭魔道士達が合成魔法攻撃を遠距離で放った。
「転進敬会奥義!退進妙用!」
迫ってきた魔力を受け流すようにしつつ、巻き込んで、それを幾重にも光のつむじ風のようにまとめて、自分の魔力で一部改変して投げ返した。真正面ではなく、かつ一方向だけではなく、その攻撃をたたき返した。周辺の魔王軍は、なぎ倒され、切り刻まれ、焼け焦げ、溶かされ、消滅してしまった。残れ兵は慌てふためいて逃げ出した。一旦、危機を脱することに成功した。“ふう。危ないところだった。もう少し強かったら、返せなかった。”肩で荒い息をしながら,思った。
「シンデーン様。これを。」
ハーフエルフの女が回復薬の入った瓶を差し出した。ナーラだった。彼女は、彼の分だけではなく、メディア、ラセット、イシス、ディーテの分も持ってきたのだ。彼のそばに駆けつけてきた彼女らは、既に呑み始めていたい。気休めに毛が生えた程度の効き目しかないが、ないよりはいい。彼も一気に飲み干す。
「ありがとう。あなたは後ろに退きなさい。私達が援護するから。」
メディアが、そつなく労うように言った。彼女の背を見ながら、
「相変わらず、聖女の仮面が得意だな。」
それだけではない、自分の臣下のような感じているせいもあるだろう、その意味からは、本心から労っているとも言える。
「似たもの同士でしょうが。」
そう言って体をすり寄せてきた。
「でも、これからどうするの?」
二人の勇者は、足を苦しそうに、顔を歪めながら、チームの仲間達の手を振り切って戦っていた。そんな状態でも、正騎士の数倍は強かった。しかし、早く、ちゃんとした治療をしなければ危なくなる。軍全体は、方陣、魚鱗の陣といった方が良いか、で何とか魔王軍の包囲下で戦っていた。こちらも、このままでは、長く持ちそうもない“私が支えてやれる時間もそう長くはないな”。
「味方の中央に向かって突撃して、包囲を突破する。」
突破は出来るが、味方の中央を崩すことになる。
「それは…いいんじゃない。」
“私達を捨て駒にしている奴らに痛い目を合わすのも良いかも。まあ、脅しになって動いてはくれるかも。”
「分かった。我が伝えよう、あやつらに。」
イシスが、いつの間にか彼の隣にいた。フリードリヒとフリードにということだ。彼は、近くの騎士に命令を伝達した。
「支えながら、少し退くぞ。」
それを見て、魔軍の攻勢が勢いづいた。
「転真敬会奥義。活真互性!」
彼の周辺で、魔族達が電撃で焼け、重力で潰され、体が破裂し、細部から四散するように体が消えていった。肩で息をしながら、後退するが、それを襲おうとして飛び込んで来る一隊がいた。目の前に迫った2人を切り裂いた。
「大丈夫!力尽きたらどうするのよ!」
メディアとラセットが加勢に入った。
「大丈夫さ。力半分も使っていない。」
周囲の魔族と斬り結んでいる二人に言いながら、二人の戦いを援護しながら後退する。ディーテが矢と魔法で援護する。それでも、一騎、大柄な魔族が突っ込んできた。イシスの光の槍が飛んできて、彼に傷を負わせた。怯んで生じた隙をついて、トウドウが真っ二つにした。周囲の魔族達は、それを見て逃げ出した。副魔王に準じたクラスの対峙していた軍の指揮官だったらしい。何とか後退して態勢を整えることが出来た。
その後暫くして、これ以上の攻勢を受けたらいよいよと思っていたとき、戦いの流れが変わるのを感じた。中央と左翼が競い合うように攻勢に出たのだ。
「間に合ったようだな。」
フリードの後続の軍の本隊が到着したのだ。それに力を得て、先に彼と彼の軍が攻勢に出てきしまっては、勝利の名誉を奪われるとフリードリヒは焦った。その結果、中央と左翼が一斉に大攻勢に出たのだ。
「一番隊は魔軍中央の横をつけ。五番隊は退却する魔軍を追撃しろ。二~四番隊は五番隊に続け!」
シンデーンは、中央に、向かって退却である突撃の陣を利用して、目の前の攻撃に利用した。強弓から、矢をつぎつぎに放ち、その攻撃を援護した。疲れている者が多かったが、撤退する魔軍を見て、力が湧いてきたのか追撃を開始した。それを無理のない程度、伏兵による攻撃を避けて止めた。二人の勇者を、早く手当てしないといけないからだ。
「泣いている場合か!勇者がそのくらいで死ぬものか。早く、安静にできる場所にお連れして、倒れるまで回復魔法をかけ、看護しろ!」
と二人のそばで泣きわめく連中を叱りつけた。メディア達も疲労困憊である。彼女達を気遣いつつ、後退する。デュークとフリードリヒの軍は、先を争うように追撃に移っていた。“後はあいつらにさせて、こっちは休み、回復しておかないとな。ん?”草陰で気配を感じた。
「だれだ?」
彼も、メディア達も、周囲の者も得物に手をかけた。ゆっくりと出てきたのは、傷だらけの男女だった。
「あなた?」
イシスが、駈け寄って、二人をのぞき込んだ。
「女神の残滓だ。」
いつの間にか、トウドウの横に立っていた、ディードがぼそりと呟いた。
「じゃあ、男は元勇者、残滓の。」
メディアが軽蔑するように言った。
「魔王に返り討ちになった、チームごと。一人だけ生き延びたんだ。」
ラセットが、やはり軽蔑するように言った。
「ちがう。皆の意見だった。こいつが強制したのではない。それに、こいつも死んだんだ。我が、失ってゆく神格全てで、何とか甦らせたのだ。全て我のせいだった、だから。」
「女神が、私を助けてくれた。ここまでこれたのは女神のお陰だ。恨んではいない。だから、消えていく彼女を見捨てられなかった。残りの力なを振り絞って。」
「馬鹿だ。危うく、二人伴死ぬところだったんだぞ。」
「一人生き残るより、どもに消えたほうが。」
「詳しいことは、後で聞こう。とにかく、一緒に行こう。互いに、その方が安心だ。」
トウドウは、二人に手を差し伸べた。
「甘い!」
4人は呟いた。




