真の勇者の下で働く編2
ダークエルフらしい女は、すかさず火球を続けざまに連射した。一発、一発がかなりの威力を持っているものだった。それは、かなりの高位の魔術師クラスのものだった。牛と虎が合体したような魔獣二匹が、動けなくなって、うめき声をあげた。
「ディーテ。随分パワーアップしたものだ。言ったことは嘘ではなかったな。」
トウドウ・シン・デーンは、夥しい返り血を浴びた姿で、後ろに立っていた。ダークエルフらしい女は、余裕を示すように長い黒髪をたくし上げて、ニヤッとほほえんだ。長身の、スマートだが、魅惑的な体型だった。妖艶な感じもする。それを強調するような品をつくって見せた。
「どうじゃ!この姿、戦士としても、美女としても似合っているであろうが。皆、お前が整えてくれたものじゃがな。我らは似合いのコンビではないか?恋人としても似つかわしいであろう。」
「まあ、出会った時とは見違えた。金貨3枚で、いい買い物をしたと思っているよ。」
「グリーンゴブリン百匹、もう全滅させたか。流石に中継ぎとはいえ、勇者だ。しかし、つれないのを。お互いに、ギブ・アンド・ティク、今のわしはおまえのおかげ、今お前もわしのお蔭だということを感じておろう?」
ディーテは歩み寄って、彼の肩に手をおき、体をすり寄せた。トウドウは、嫌な顔はせず、軽く彼女の背中に腕を回した。その2人を、少し離れたところで、村からついてきた役人が呆気にとられて見ていた。たった2人で、あっという間にこの厄介な仕事が終わったのだ。2人が、この仕事を引き受けた時、仕事が完遂されたことを確認するために役人を一人ついて来させろと言った時は、全く信じていなかった、危なくなったら早く逃げないと、と心配していたほどだった。
「隣村でオークの一団を、一夜で壊滅させたという噂は本当だったのか。」
トウドウが振り向いた。
「仕事は果たされたということでよろしいですね。」
「勿論です。証明書を今書きますよ。明日、これを持って窓口に来て下さい。そこで、報酬を支払いを受けて下さい。」
男は、男は羊皮紙の証明書を渡すと慌てた背を向けて走り去った。
「兎に角、100人くらい雇わないとと思っていたことが、4人分の報酬で片づけられたわけだ。」
彼は、それが自分自身の功績のように感じられた。報告を少しでも早く提出したいとひたすら走った。そのため、2人の武装した女達とすれ違ったことに気がつかなかった。
「おい。駆けてくる女が2人、お前の知り合いではないのか?たいそう怖い顔をしておるぞ。」
「ああ、そうだが、私にもう用はないはずだが。」
そこそこの大国の王女、一見華奢に見えるが、背はわりと高い、胸や尻は形が整い、筋肉も十分ついた、健康的な明るい茶色の髪の、品格のある清楚な美人である、彼女は彼のことを
「私の近衛隊長にするんだから。」
と半ば冗談によく言っていた。
先々代の魔王の孫娘、現魔王達に魔界を追われた、やや小柄だが弾けるようなと言っていい体と肌の、精悍な肉食動物的な野性の魅力を持った栗色の髪の美人、奴隷のままで傍にいたい、“お兄様”とも“マスター”とも彼に呼びかけた。
二人のそれは、真の勇者デューク・フリードが現れた時に終わった。彼が真の勇者だとすぐに分かった。その体から発散されるオーラ、そして他のものには見えないが、傍らに立ち、うっとりした表情で彼を見る銀髪に限りなく近い明るいグレーの髪の長身の均衡のとれた容姿の美しい女神は、彼をこの世界に連れて来た女神だった。勇者が成長するまでの間、中継ぎの勇者として、魔王から世界を守るよう頼んだというか命じた存在である。力と知識と聖剣等を与え、時間の感覚のない、なにも無い空間で、数日間、あるいは数年間、もしかすると、何十年間、特訓させられた。その彼女がいるのだから、本物であると確信した。片膝をつき頭を下げ、
「真の勇者様。お待ちしておりました。」
丁寧な口調で言って、ぼう然としている仲間たちに向かって、礼をとるように言った。そうして彼は勇者の言葉を待った。彼がどう言うか、どう言っても対応出来るように準備していた。
「今までご苦労さまでした。申し訳ありませんが、これからも私とともに魔王軍と戦ってきださい。」
彼は、平伏して、「勿体ないこと」と言って、勇者と共に戦うことを誓った。その後、真の勇者から所持している聖剣や聖鎧の引き渡しを求められた。彼が引き渡すと勇者は己の聖剣でたたき割った。己の聖剣に、力を取り込むためである。それから程なくして魔王軍との戦いが始まった。勇者の力は素晴らしいというか、凄まじいものだった。それを横目で見ながら、予備の低位の聖剣、鎧などで戦った。それも途中で折れ、奪った魔剣で戦っていた。
「デビルビーム!」
小魔王に折れたのを突き刺して、特大の電撃魔法を放った。それでも、小魔王は死ななかった。その巨体を抱きしめ
「ブレストファイア!」
高熱魔法を全身全霊から放った。小魔王は、黒焦げになって崩れ落ちた。
「誰も来なかったな。誰も援護しない。誰も心配しに来ない。最初から分かっていたことなのに、なんで。」
くじけそうになる自分を何とか支えた。
戦いは今までにない大勝利だった。全ては、デューク・フリードによらものだったろう。デュークは一応丁重に、一戦士に対してだが、あくまで、扱ってはくれた。それもあり、皆の態度も一応配慮があった。迷った。軍が、近くの都市に引き揚げ、祝勝会が開かれた際、彼はすぐに抜け出して、街中を思案しつつ歩いていると、ダークエルフを引き摺った男に出くわした。女が振り切って、彼にすがりついてきた。
面倒くさいことだったが、
「金貨3枚で、このダークエルフを買ってやる。どうだ?」
「何だと、8枚は!」
「それは、奴隷商人が売る時の価格だ、奴隷商人が買う時は3枚でも御の字だ。」
嘘ではない。男も相場を知っていたらしく、すぐに応じた。
「この金で、どこかに行け。」
いく枚かの銅貨と銀貨を与えて、そのまま別れた、はずだった。しばらく歩いた先に、そのダークエルフは立っていた。
「中継ぎと自称する勇者。我を、お前の神とせよ。神としての名と権能を与えよ。そして、我と交わえ。さすれば、我は、お前に神としての加護を与え、より強い力を得られる。」
周囲には誰もいない。じっと見つめた。
「ダークエルフではないな、お前?私の、かつて私を呼んだ女神と同じものを微かに感じるが。」
「流石に分かるか。われは、かつて滅ぼされた神の一族の思念と魂などの残滓が長い、それは長い時間をかけて集まったものが、ダークエルフやその他のものを更に集めて形づくられた存在だ。だから、今は神ではない。大した力を持たない、ダークエルフに似た存在でしかない。だが、神となれば異なる。我はお前が強くなるほど強くなり、お前に加護を与えられる。お互いに交われば、お互いが強くなる。少しづつな。どうじゃ?」
彼女は、いつの間にか、彼の目の前に立ち、両腕をかれの首の後ろに回していた。
「人間が神にその権能を与えるというのは本末転倒ではないか?」
「逆もまた真なり、ということもある。異世界から来たお前には分かるであろう。お前は、野心はない。我も、単に一人の神となるだけが望みだ。我らは上手くやってくるいけよう。」
怪しい笑みを浮かべて、彼に体を擦り付けてきた。彼は考えた、計算した。
「わかった。我、トウドウ・シン・デーンは、お前を、戦いと愛欲の女神、ディーテとして認めよう。」
「酷い権能だのう。トウドウとは、以前の名か?」
「今、考えた名だ。権能が不満か?」
「別によい、面白いと思っただけじゃ。」
粗末な宿の一室の、藁の上で上半身を土下座するようにしながら、下半身を高々とあげて、激しく動かして、悲鳴のようなあえぎ声をあげていたディーテが一段と高いあえぎ声を出して動きをとめた。彼女の腰を捕まえていたトウドウも、彼女の動が止まるのを、確認して激しく動き出し、小さなうめき声を出して、最後に何回か震えるように動いて止まった。すかさず体を入れ替え、仰向けで彼女を受け止めた。
「我はどうじゃった?」
「最高だったさ。」
「お前も最高じゃった。共に、永久に、ともにおろうぞ。」
それから、翌日、トウドウはディーテの装備を買いそろえてやり、周辺地域での魔獣退治の仕事を始めた。リーバ公国州都プールは、魔族との最前線であり、魔王軍が退却したといっても、郊外では魔獣などが徘徊し、村々から駆除の要請が相次いでいる。その上、対魔王軍の軍に徴発、雇い入れで、そういった仕事をする人間が不足していた。軍が次の行動を起こすまでの間、この仕事を請け負っていくことにした。領地、引退後の生活のため、の資金のために今までやってことだが、その行動を変えないほうがいいと判断したためもある。
「どこで、ほっつき歩いていたのですの?あなたは私の近衛隊長ですのよ、自覚をお持ち下さいな。それに…何ですの!その女は、ダークエルフの女なんか。」
「マスター、お兄様。いなくなって心配していました。それなのに、そんなダークエルフとなんかと、酷い。」
ディーテは、悪戯を責められている少女のように、彼の背後に隠れた。
「私に用などないはずだが。真の勇者様の傍を離れるべきではないのではないか。ん、姫様。聖剣フレイアは、マイアの髪飾りは、それに。」
彼女が身につけていた聖具が何ひとつなかった。鎧も軽装ということは同じだけのどこにでもある量産品、安物としか思えないものだった。
「あなたがいない間に3人の女が来たのですわ。あの勇者は、私の装備を取り上げて、あいつらにやったのですわ!」
彼女らは以前からの彼との知り合いで、超大国の王女達だった。
「聖剣フレイアは半ば私が手に入れて、与えたものだが。元から彼女のものもあるわけだし、リーダが装備の配分を考えるのは当然としても、やり過ぎだな。」
心の中で思った。それにしても彼女の装備がお粗末過ぎるように思われた。
「国で何かあったのですか?」
「あやつら、恩を仇で返して、兄上が、あの卑しい身分の女の子供の、国王の座についていて。」
それで大体の事情がわかった。異母兄、側室の女を母にした王太子が国王になったということらしい。
「私の地位も、財産も没収して。あの卑しい生まれの連中が。」
涙目になっていた。彼の視線は先代魔王孫娘の方針に向けられた。視線を落として、
「その3人、皆聖女様ぶった女達に、魔族が勇者の傍にいるのは、好ましくないと言われて。」
一人は勇者を後ろ盾にすることに失敗し、国内の権力争いに負けて、命さえ危ないというところなのだろう。元々、彼にもそのため接近し、中継ぎだ、と言う彼の言葉が真実だと分かったとたん冷たくなり、しばらくして、彼の働きを見て、なかなか真の勇者が現れないこともあって、また接近してきたのだった。もう一人は、現魔王から迫害され、人間界、亜人の世界でも酷い扱いを受けてきた。助けてくれる存在を探さなければならない。彼はその力がなくなった。勇者に頼ろうとしたところが突き放されたというところなのだろう。
彼は溜息をついた。2人は、溺れる者は藁をも掴むといったところであろう。何とか、今のところは二人の安全を確保出来るが…。迷った、裏切った女達だという以上に、いつまた裏切るか分からない連中ではあるが、そのことはどうでもよかった。。
ディーテが、耳元で囁いた。
「あやつらとも交えれば、共により強くなるぞ。」
「何、甘えているのですの!」
「お兄さんから、離れなさい。」
「そもそもあなたは、何者ですの?」
「そうよ。あなた、本当にダークエルフ?」
「え?」
“魔王の血筋というところか。ことの重大さが分かったか、流石に勘がいい。”
「こいつのことを説明しよう、今後また共にいくことも同意しよう。しかし、もう後戻り出来ないことになる。それで、いいか?」
流石に2人とも、彼の真面目な表情をみてゴクリとした。表情が歪んだ。
「分かったわよ。あなたと共にいきつくところまでいってあげますわ。」
「私は、いつまでにもマスターのものです。」
グッタリして横たわっているディーテと先代魔王の孫娘のラセットを横目に、元王女メディアは、デーンに後ろから抱きしめられながら、あえぎ声をだし、激しく動いていた。
3人の名前は、トウドウが、新たに名付けたものだ。
「私は悪くない。私は、自分を守るため、国のためにやったのよ。卑しい連中が、悪いのよ。」
「お前は、聖女の仮面をつけて、謀略で人を陥れてきた。他人を、見下してきた性悪女なんだよ。私と同じなんだよ。引退した後ののんびりした生活のためだけに中継ぎの勇者として恥ずかしくない行動を取ってきた私と同じなんだ。お前はお前にとって必要なことをしたのと同じだ、だから非難はしない。ただ、お前は私と同じ卑しい存在なんだよ。」
「あんたなんか、卑しいヤツが私を犯して、もう堕ちてやる、悔しい!」
一段と大きな叫び声と動きの後彼女は静になりグッタリした、彼も一段と大きな動きのあと、動きを止めた。
「私を捨てないでよ。」
「ああ勿論だ。お前は、この顔も、聖女の顔も、悪魔の顔も可愛い、魅力的だ。特に必要なのは悪魔のお前だ。メディア。」
「私の名前は、…いいわ、あなたがくれた新しい私の名前、受け取るわよ。」
口づけを求めた彼女に応じて、彼は唇を重ねた。二人目の舌が絡み合った。
それからしばらくして、トウドウは、勇者から魔王軍の侵攻の危機から救援を依頼してきている国に、勇者の代理としてくれ救援に向かうよう命じられた。各地で魔王軍の侵攻があり、勇者一人ですべてを救援することはできない。兵力も足りない。事実ではあるが、トウドウに与えられた兵力は、かつての彼のチームの一部、数十人に過ぎなかった。あまりに少なかった。しかし、トウドウは文句は言わなかった。それでも、出陣の時、不満と不安の声が上がった。それを耳にした彼が口を開こうとした時、
「大丈夫じゃ。妾がついてやるのだから。」
脇で声が聞こえた。慌てて見ると、修道女魔法騎士風の女が立っていた。長身でスラリとしながらも、魅惑的な肉体だと分かる明るい灰色の髪の毛の美人。
「女神様!」
小声で叫んだ。
「お前のためについて行ってやるのだ、有り難く思え?人間の形をとって降臨しているから、神としての力はないが、最強以上の修道女魔法騎士だぞ。戦力として、十分過ぎるだろう。仮の神の形として、お前が名前と権能を与えてくれれば、お前に加護を与えられるし、妾はより強くなる。それに…。」
最後のところは追求せず、
「デューク・フリード様はどうするのですか?」
彼女は神とは思われないほど、表情を歪めて、彼が彼女に、初めて見るものだった、
「彼は私が選び抜いた勇者じゃ、心配はないし、他の女神にまかせてきた、あくまで妾の助手、取るに足りない存在だが。お前には、妾は責任があるしの。」
”何かあるな。“
とは思ったが、口にしなかった。戦力のアップは大歓迎ではあるし、直々の厳しい特訓を受けたから、彼女の実力は何となく期待できた。それより、後方から痛いほどの視線を感じ、目の前の女神はというとその視線の方向に厳しい表情を向けている。
”何時、何処で説明したらいいものか。“
とりあえず思いついたことを口に出した。
「イシス。知恵と戦略の神。これにしましょう。」
「変な名前だのう。まあ、悪くはないな、お前の神として、しっくりしているようだ。しかし、お前は相変わらず、そういうところはしっかりしておるな。まあ、それもよい。」
当然のように近づいてきで、手を取った、