真の勇者の下で働く編1
大広間ではなく、より小さな広間にトウドウ・シン・デーンは通された。あくまで、王族の私的な行為ということなのだろう、と彼は苦々しく思いつつも、逆に安心もした。後ろから、この軽装な鎧を身につけた戦士に向け、
「まがい物が、勇者を気取って。」
「王女様にも困ったものだ。あんな奴に肩入れなどして。どういうことか、お分かりになっているのだろうか。」
という言葉が投げかけられた。だが、
「あの方によって我が国が救われたのだ。」
と反論する声が聞こえた。
「だからといって奴を厚遇して、国が危うくなっていいのか!」
「いつ救われたのだ?」
と大きな声が反論の気概を黙らせてしまった。トウドウは、兎に角、声をあげてくれた者に感謝した、心の中で
「もうそれで十分だ。」
と心の中で言った。
「父上、あの者は、我が国を何度も救ってくれたのです。それを礼を持って迎えたいという妹の思いは正しいかと。」
王太子は、父王になだめるように言った。
「しかし、勇者デューク・フリード様の手前…」
老いた王は怯えるように言った。周辺諸国との比較で言えば、飛び抜けた大国であるカペー王国ではあるが、真の勇者デューク・フリードの3人の妃の3生国とは比較にならない。また、勇者の権威に逆らうことは出来ない。シンデーンを受け入れることが、彼が勇者と対立していない、単に勇者からも認められた報償として与えられた領地に向かう途中であるだけとは言え、彼と関係するだけで、勇者に対抗する“勇者”を擁立しようとしているとの疑惑をたてられかねない、彼はそのことを心配しているのである。それは王として当然なことではあった。そのことは、王太子はもちろん、ジャンヌ王女も分かっていた。
「王太子のおっしゃる通りです。もちろん、陛下のご心配は当然のことかとも思います。しかしながら、礼節を知ることを示すのも必要なことかと。」
一段下がったところから言ったのは、シャルル公爵、王女の婚約者であり宰相の長男である。
父王は娘の方に顔をむけた。娘は、王を正面から見た。
「もちろんです、父上。お兄様がお考えになっておられること以上のことは、決して考えておりません。」
きっぱりとした調子で言った。3人は安心したようにお互いを見た。
彼が領内に入ったことを知ったのは、たまたま彼が盗賊団を討伐したという報せと、どう対応すべきかを求める問い合わせがきたからである。戸惑う父王に、彼を王都に招き、礼を尽くそうと彼女は最初から主張した。それだけであって、兄達の考えに反対する考えはなかった。
なかったが、
「あの4人の女はいないのだ。」
彼が、ただ一人だということを聞き、心が微かに揺れた。
王たちが入ってきた。数人の衛兵、廷臣だけ、その前に、一人、かつて中継ぎの勇者と言われた、トウドウ・シン・デーンが直立不動で立っていた。
「度々あなたに、我が国は救われました。」
ジャンヌ王女が、高くとおる声で語りかけた。
「もったいない御言葉。しかし、それは、勇者デューク・フリード様の命を受け、代理として行ったことです。」
彼は頭をさげ、静に丁重に述べた。
”あの時は、今より酷いことを言われたな。“とトウドウ・シン・デーンは思いだした。