スタンピード《11》
すみません、投稿遅れました!
最初に攻撃を開始したのは、ジゲル。
「少々落ち着いたらどうです、あなたも。大きな図体の割に、みっともないですよ」
麻痺により身体が上手く動かないらしく、無造作に身体を暴れさせているドラゴンの横っ面に、老紳士は裏拳を叩き込む。
その拳は、どんなアホ威力をしているのか、圧倒的という言葉を三回通り越すくらいの体格差はあろうドラゴンを仰け反らし、はじけた鱗が辺りに飛び散る。
「ガアアアッッ!?」
ジゲルの一撃が相当痛かったのか、ドラゴンは悲鳴にも聞こえる鳴き声をあげると、ジゲルに向かって無理やり火球を放つ。
『小賢、しいッ!』
だが、放たれたその火球は、次の瞬間には真っ二つにされ、あらぬ方向へと飛んで行った。
本人の身長程はあろうかという大剣を振り切った恰好で、その場にいたのは、レギオン。
続けて放たれる数個の火球も、全て彼が斬り裂き、無効化。
と、そこでようやく『麻痺』が切れたようで、ドラゴンは駄々っ子のように暴れさせていた身体を起こし――今度はその身体が、ズブズブと地面に埋まり始めた。
「足止めは私が。ファーム、精神魔法はどうですか?」
「だめー、ファームの魔法通らないみたい! ファームは攻撃するー!」
えーい! と彼女が気合を入れると同時、突如空中に無数の武器が生み出され、ズカカとまるで弾幕のように射出され、ドラゴンへと突き刺さる。
無造作な攻撃に見えるが、誰も味方が避けるような動作をしていないのにもかかわらず、一発も誤射がないのを見る限り、一本一本しっかりとファーム自身が操作しているようだ。
うむ……あれだな。
今更だが、ウチの人達はみんな、やっぱどこかおかしいよな。
「おう、ゴブロ。お前もとんでも能力を見せて、戦ってくれてもいいんだぜ?」
「バカ言え。いいか、俺は人間だ。テメーらと違ってバケモノ染みた力は持ってねぇ。ああいう奴の相手はテメーらがやってくれ」
酷い言いようである。
まあ、そう言いたくなる気持ちはわからなくもないが。
「ユウ、クソッタレの枢機卿は?」
「ぶっ殺した。後はこのスタンピードを終わらせるだけだ。第一王子が連れていた奴ら以外の軍は……」
「もう動いてるぜ。軍の動きを鈍らせるだけで、被害を増やしちまったら無能の極致だからな、こっちがやべぇってなってすぐにウチの上司の宰相が派遣させた。今は冒険者と協力して他エリアの魔物の排除を行ってる。……そうか、黒幕はようやく死んだか」
ポツリと、そう呟く小男。
「色々話したいことはあるが……とりあえずそれは、あのデカブツをどうにかしてからにしよう」
「おう、頼んだぜ。テメーら以外じゃあ、アレの排除は難しい。テメーらが最後の砦だ」
「そりゃあ責任重大だ、なッ!!」
言葉尻と共に、俺は一気にドラゴンへと距離を詰めると、振るわれる極太の前脚をしゃがんで回避。
そのまま壁走りをするように飛び上がり、奴の肩に突き刺さっていたゴルド・カルネを回収する。
周囲を薙ぎ払わんと、ブゥンと迫り来る大木のような尻尾を跳んで避けた俺は、固有スキル『オーバークロック』を発動。
瞬間、まるで世界が停止したかのように、奴の動きが極端に鈍くなる。
「悪いな、反則だとは俺も思うが、コイツはちょっと設定が狂ってやがるんだッ!!」
その間に俺は、黄金の剣に状態異常スキルを発動可能なだけ発動し、ドラゴンの動きを制限すると同時、体力を削って行く。
軸として使用するのは、『毒』だ。『毒』で体力を奪い、『麻痺』と『昏倒』で身体の動きを封じる。
俺の『毒』は、威力が高過ぎて雑魚に食らわせれば即死するレベルの、毒という名の別の何かになっているが……見るからに体力がありそうな奴には、物理攻撃を仕掛けても意味ないだろうしな。
……いや、まあ、ジゲルは殴ってダメージを与えている訳だが。
オルニーナの皆はどこかおかしいが、やっぱり一番おかしいのは間違いなくあの老紳士だろう。
鬱陶しい攻撃をする俺に、ドラゴンのヘイトが溜まるが――奴は、反撃出来ない。
「ほう、流石ですな、ユウ!!」
『これは、いい的、だ!!』
俺の攻撃に合わせ、皆が次々に攻撃を仕掛けていくからだ。
ジゲル、レギオン、夜叉牙、セイハ、玲が、各々物理攻撃を仕掛け、確実にダメージを与えていき、シャナルが魔法で足止めを行う。
ファームと、多少MPが回復したらしい燐華もまたダメージソースとして多種多様な攻撃魔法を放ち、そしてネアリアは俺達に余計な敵が襲って来ないよう、他の魔物達の排除を一手に担っている。
ゴブロもまた腰の剣を抜き放ち、雑魚狩りに協力している。
それは、完璧な布陣だった。
圧倒的なサイズ差はハンデとして存在しておらず、ドラゴンはなされるがまま。
反撃は出来ず、身動きはロクに取れず、ただどんどんと体力を削られ、動きが精彩を欠いていく。
世界最強の種は、ただのヒトの集団に、圧倒されていた。
「――『従え』」
そして、発動した隷属スキルは拒絶されることなくあっさりと通り、俺達を脅かしていた最大の敵は、一切の抵抗をしなくなったのだった――。
* * *
「倒し切らなくてよろしいので?」
構えは解いたが、しかし依然として警戒の眼差しをドラゴンへと送るジゲルに、俺は「大丈夫だ」と手振りで示す。
「コイツはもう、俺の配下になったからな。ほら、挨拶しろ」
「ガウゥゥ……」
新たな我がペットは、そのデカく太い首を倒し、俺達に頭を下げる。
自分で言っといてアレだが、その様子を見て本当に大丈夫そうだと俺も判断し、『エクストラヒール』を発動して怪我を全て治してやる。
「他に怪我人いるかー? いるなら俺が治せるが」
そう問い掛けるも、特に怪我をした者はいなかったようで、皆から大丈夫だと声が返ってくる。
……今回の騒動で、一番重い怪我をしたのは俺かもな。精進せねば。
と、近くで大人しく佇んでいる夜叉牙の方を見ながら、ゴブロが口を開く。
「ユウ、とりあえず先に聞いときてぇんだが……そのベヒーモスはもしかして、テメーが闘技場で戦ったヤツか?」
「そうだ。まだ紹介してなかったな。俺のペットの夜叉牙=ベヒベヒだ」
「ベヒベヒ君って呼んであげてね!」
「グルゥ」
ベヒベヒ呼びにももう慣れたのか、特に何も言わず頭を下げる夜叉牙を見て、ゴブロは呆れたような苦笑を浮かべる。
「……あー、そりゃ、随分とまあ……」
「言っておくがゴブロ、名付けたのはウチの幼女だ」
「おう、随分といい名前だ。立派な名前を貰えて、羨ましい限りだぜ」
「えへへ、でしょー?」
俺の言いたいことを汲んで、すぐにベタ褒めを始めるゴブロに、ニコニコ顔の燐華。
お前、やっぱ良い奴だよ。
「ふむ、先程の戦闘を見ても、とても頼りになりそうな子ですな。オルニーナで飼えればいいのですが……」
「おー! こんなおっきなペット飼ってたら、近所中で噂になっちゃうねー!」
「フフ、そうですねぇ」
ファームの言葉を聞き、ニコニコしながら相槌を打つシャナル。
「いやー、そうしたいところではあるんだが、流石にコイツを街中に連れてったら大混乱間違いなしだろうから、無理だなぁ。しかも、もう一匹ペット増えた訳だし」
夜叉牙より三倍くらいデカいのがもう一匹な。
「おう、街中に連れて行くのは勘弁してもらいてぇな。どんなお題目を押し出しても、王都に入った瞬間阿鼻叫喚だ」
「だろう? だからいつもは、森の中で放し飼いにしていたんだ。コイツの方もそうするつもり――と、まずはお前の名前を決めないとな」
新たなペットの身体をポンポンと叩きながらそう言うと、シュタッと元気良く燐華が手を挙げる。
「はい! ドラドラ君!」
「お燐、流石にそれはわんぱたーんじゃろ。えーっと、ギガント・アースドラゴンだから……」
「はい! ギガドラ君!」
「いや、ほぼ一緒じゃろうが。――アドラ、とかどうでしょう、主様」
「よし、じゃあ燐華と玲の両方使って、アドラ=ギガドラにしよう。お前の名前は、今日からアドラ=ギガドラな」
俺の言葉に、特に反発することもなく、コクリと頷く新たな我がペット、アドラ=ギガドラ。
夜叉牙よりも言葉少なな感じなのを見る限り、元々は大人しい奴なのかもしれない。
「……コイツら、いつもこうなのか?」
「おう、そうだぜ。ユウがちょっとアレなのはアンタも知ってっだろうが、そこにあのガキどもが加わると……ま、こんな感じだ」
ゴブロの言葉に、肩を竦めてそう答えるネアリア。
ネアリアよ、その「ちょっとアレ」の部分を教えてもらおうか。
「失礼な。確かにマスターは、少し抜けているところはありますが、だからこそいいのです。わかりますか、ネアリア」
「いや、わかんねぇよ。つか、アンタのその言い方も、それはそれで失礼だと思うんだが……」
そう、口々に好き勝手話す皆を見て、好々爺然とした様子で笑っていたジゲルは、パンと軽く手を叩いて口を開いた。
「さ、皆さん、まだ仕事は終わっていませんよ。のんびりするのはその後にしましょう。手分けして、残りの魔物を排除しますよ」
「了解。ゴブロ、付いて来てくれ。枢機卿の部下を一人、捕らえて転がしてあんだ」
「オーケー、案内しろ」
「私も付いて行きます、マスター」
「ユウ、あなたのペットをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいぜ。燐華と玲は、そっちに付いて行って、ペット達の面倒見てやってくれ」
「任せてー!」
「お任せを、主様」
後数話で今章は終わると思います。




