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断罪の暗殺者  作者: 流優
政権転覆
78/83

スタンピード《8》

 前話ちょっとだけ修正しました。




 まず発動したのは、中級支援魔法『ヘイスト』。


 魔法の効果としては移動速度上昇というものだが、副次効果として自身のノックバック率が上昇するという微妙なデメリットが存在する。


 利用するのは、そのデメリットだ。


 次に発動したのは、俺でも使える『初級魔法』の中の一つ、『ウィンド』。


 これは、相手に向かって小さめの風の渦を飛ばす魔法なのだが、対象を指定しないとその場に留まるという性質がある。


 つまり、発動した魔法を自分で食らう(・・・・・・)なんて間抜けなことが出来る訳だ。


 錐揉み回転で落下しながら発動した一発目は、どうもタイミングを間違えて自身の上に魔法が発生してしまったらしく、スカってしまったが、二発目はしっかりと自分自身に当てることに成功する。


 刹那、俺は皮膚を薄く割かれるような痛みと共にグ、と一瞬だけ滞空し、それから落下を再開する。


 通常ならば、『ウィンド』に人を浮かせられるだけの威力はないのだが、今の俺はノックバック率が上昇しているため、一瞬でも空中に留まることが出来るようになる訳だ。


 この二つの魔法の組み合わせで、誤魔化し誤魔化し速度を落としていき、地面まで到着する。


 結構ヤバかったが、これで自由落下のままビッタンと地面に激突するのは避けられそうだな――と、そんなことを考えていた時、突如ブワリと吹き上げる風が俺の全身を包み込む。


「おわっ!?」


 攻撃魔法かと一瞬防御の構えを取った俺だったが、しかしその風は俺の体力を削ることなく、落下が完全に停止する(・・・・・・・)


 これは……恐らく燐華が使える魔法の一つ、『エアウォーク』だろう。


 一定時間宙を滞空出来るようになり、発動は早いがしっかりと対象へ魔法を当てる必要がある。

 俺がどうにかこうにか落下速度を落とすことが出来たため、彼女の魔法が間に合ったのだろう。


「……ありがとうな、燐華」


 後で、思いっ切り甘やかしてやるとしよう。


 最後の最後で彼女の魔法がこちらに届いたことで、俺は完全に体勢を立て直す。

 

 これで、挽肉の如くグチャグチャになる未来は避けられたが――。


「…………」


 俺は、『ハイド』を発動して空中で姿を消す。


 下では今、激高した様子のセイハが、いつも冷静な戦いをする彼女らしからぬ激しさを以て、枢機卿と奴の部下らしい騎士と戦っている。


 遠くてはっきりとは見えないが……あの騎士は、枢機卿の傍にずっとくっ付いていやがった神父の男か。

 恐らく、あれが本来の役職なのだろう。 


 そして、奴らは今セイハ一人に意識が行っているため、俺が体勢を立て直したことに気が付いていない。


 となると、俺は現在、死んだ人間(・・・・・)になっている訳だ。


 ――これで、殺す。必ず。


 散々失敗し、ようやく掴んだこの機会を、逃す訳にはいかない。


 見ると、微妙に状況が変化しており、後ろで人間同士が戦っていることに気付いたらしい兵士の数人が、セイハへと武器を向けている。 


 まあ、あの程度じゃあセイハを止めることは出来ないが……悪人相手ならばともかく、もう彼女に余計な殺人はさせたくないし、怪我を負わせたくもない。


 本来ならば、こんなところに立たせたくもないのだ、俺は。


 出来ることならば、彼女と共に、ただカフェ店員として悠々自適に暮らす未来を過ごしたいのだが……そのために今、さっさと奴をぶち殺して終わりにしよう。


 魔法の滞空時間が切れると同時、再度落下を開始した俺は、数瞬の後両足から着地。


 強い衝撃に、下半身に痺れが走るが、無視してセイハが戦っているところへと走り出す。


 ――もはや、小細工は必要ない。


 周囲の激しい戦闘音でこちらの足音は消え、俺の存在は限りなく空間に薄れている。


 黄金の剣『ゴルド・カルネ』でバンバン魔法を放っているのを見る限り、黄金の剣とそれを持っている奴自身は本物と考えていいだろう。


 影武者その二、ということはないはずだ。


 最速で元の場所まで戻った俺は、セイハの横を通り過ぎ様、ポツリと呟く。


「――セイハ。一撃入れてくれ」


 仮面の奥で一瞬息を呑むような気配を感じたが、少女はすぐに激高した演技へと戻り、再度暴れ始める。


 俺はもう、そちらを見ない。

 一般兵に囲まれた彼女を、助けもしない。


 彼女ならば、その状態でも最高のアシストをしてくれるということを、誰よりもよく理解しているからだ。

 

 本当にマズくなったならば、こちらを見ているはずのネアリア達が援護してくれるだろうしな。


 そして――距離を詰める俺のすぐ横を、一本のダガーが飛んで行く。


 少し前に、『貫通』属性を付与したダガーである。


 それは的確な狙いとタイミングで、騎士姿の神父の男の横をすり抜け、枢機卿へと迫る。


 そのダガーが危険であるということは、すでにクソッタレ野郎も理解しているのか、土の壁を生成して物理的な防御をし――完全に警戒がそちらに向いて、隙だらけの枢機卿の喉元へ、俺は小太刀を繰り出した。


 事前の予想通り、やはり何かしらの自動防御魔法を張っていたらしく、奴の手前にある透明な壁のようなものに、刃の切っ先が突き刺さる。


「しゃらくせぇッ!!」


 一歩、前へ踏み込む。

 血管が浮き出る程、右腕に力を込め――次の瞬間、バリンと刃が防御魔法を貫通する。


 そのまま俺の小太刀は、枢機卿が被っているヘルムの隙間をすり抜け、老いぼれの喉に突き刺さる。


 グリ、と手首を返し掻き切ると、ブシュゥ、と血飛沫が舞い、返り血が俺の服を赤く染め上げた。


「ガ、はァ……!?」


「いい加減、くたばりやがれ。クソジジィ」


 枢機卿は現れた俺を見て驚愕の表情を浮かべ、一目で致死量と分かる血をまき散らしながら。


 ドスンと膝を突き、ゆっくりと大地に転がり――二度と動かなくなった。



   *   *   *



 ――終わった。


「フゥ……」


 一つ、息を吐き出す。


「ッ、貴様ッ、よくも……ッ!!」


 憤怒の表情となった神父の男がこちらに向かって武器を振るうが、その前に右手の小太刀を手放し、転がっていたゴルド・カルネを回収した俺は、刃の切っ先をソイツへと向ける。


「『オーバークロック』」


 ――瞬間、黄金の剣が淡く光ったかと思うと、神父の動きが極端に遅くなる。


 ゆっくり、ゆっくりと、まるで奴だけが別の時間軸で移動しているかのように。


「お前の主は知らなかったみたいだがな。コイツには、魔法の通しを良くする効果以外に、もう一つやべぇ能力があるんだ」


 俺は魔術師系のビルドを組んでいないため、洗脳魔法は愚か、通常魔法もほとんど使えない。


 だが、そんな俺が使っても「頭がおかしい」と言えるぶっ壊れ性能が、この黄金の剣には存在する。


 ――固有スキル、『オーバークロック』である。


 能力は、一度発動すると選択した対象の動きを十秒間遅くする、というもの。


 スキル名と効果が微妙に外れている気がしなくもないが、何か開発陣のこだわりでもあったのだろうか。


 ぶっ壊れ性能過ぎて、当たり前だがゲーム時代はPvPやボス戦などで使用制限が掛かっていたのだが……こちらの世界では、何も問題なく使えるようだな。


 これのことを枢機卿が知っていたら、俺の勝ち目は、限りなく低くなっていたことだろう。


 無くなった左腕で落とした小太刀を拾おうとしてしまい、一瞬苦笑を浮かべてから俺は、右手に持っていた黄金の剣を腰に差し、そのまま右手で落とした小太刀を拾い上げる。


 そして、『睡眠』の状態異常を付与すると、まるで止まったかのような神父の男を浅く斬り裂いた。


 十秒が経過し、再度元の速度で動き出した奴は、そのままバタリと地面に崩れ落ちる。


 コイツのこともぶち殺してやりたいのは山々だが……色々と事情は、聴かなければならないだろうからな。


「寝てろ、そこで。お前が人生で享受出来る最後の贅沢だ」


 フンと吐き捨て、俺は小太刀に付いた血糊をビュッと払い――そこで、セイハが感極まった様子でこちらに駆け寄り、ギュッと俺に抱き着いた。


「マスター……マスターっ!」


「おっとと」


 ふわりと、彼女の良い匂いが俺を包み込む。


「爆破で吹き飛ばされて……姿が見えなくなって……生きて、おられたのですね……!」


 若干、涙声になりながら、そんなことを言う仮面の少女。


 この様子だと、俺はもう完全に死んだものだと思ったのだろう。


「あれくらいじゃ死なないさ。俺は強いからな。それに……セイハ一人を残して、死ぬ訳にもいかないだろう?」


「はい……はい……っ!」


 俺を抱き締める力を強め、胸元に顔を(うず)めてくるセイハ。


「動くな!! 動いた瞬間二人とも殺す!!」


「貴様ら、ヴェーゼル殿を……!!」


 周囲の兵士達が俺とセイハを取り囲むが、俺はソイツらをシカトし、枢機卿が操っていたドラゴンへと顔を向け――あ?




 ドラゴンの(・・・・・)洗脳が(・・・)解けていない(・・・・・・)



 どういう風に死んでもらうか、悩みに悩みまくって、結局あっさり死んでもらいました。

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