スタンピード《7》
人間と龍とが、最終決戦とばかりに激闘を繰り広げている地点より、少し離れた森の中。
そのまま無策に突っ込むことはせず、一度バイクを消し、夜叉牙に身を屈ませて小さくさせ、俺達は軽くだが作戦会議を行っていた。
「――ありゃ、ギガント・アースドラゴンか。土龍系の龍種だな。こっちから手を出さなきゃ攻撃してこねぇ類のヤツなんだが……やっぱアンタが言った通り、他の魔物と同じように洗脳魔法で狂わされてやがんな」
「……自分でお前に言っといてアレなんだが、あの巨体でも洗脳魔法が効くのか? 龍族って、世界最強なんだろ?」
「さあな。その辺りは何かカラクリがあるのかもしれねぇし、よくはわかんねぇ。ただ一つ言えるのは、どちらかと言うとアンタのペットのベヒーモスの方が、特殊なんだ。ベヒーモスってのは、総じて魔法に対する抵抗がアホみたいに高ぇ。あの龍族に洗脳魔法が効くのかどうかは知らねぇが、アンタのこのペットに洗脳魔法が効かねぇってのは納得出来る」
……なるほどな。
夜叉牙より魔法抵抗が弱いのならば……俺にも、やりようはあるか。
「――よし、一つ思い付いた。ネアリア、ここから狙撃は出来るか?」
「あー……ちと厳しいな。距離がある上に兵どもの動きが激しい。天才でもなけりゃあ、弾の行方は神のみぞ知るってぇところだ」
なら、狙撃の線は無理か――と、思った俺だったが、そこで赤毛の同僚はニヤリと笑みを浮かべる。
「が、幸運なことに、アタシは射撃の天才だ。狙撃をご所望ってんなら、こんくらいはしっかりと当ててやるよ」
「……オーケー、頼むぜ天才さんよ。――それじゃあ、聞いてくれ、お前ら」
――まあ、俺が考える作戦は、どこまで行っても暗殺だ。
俺とセイハが『ハイド』で枢機卿の喉元まで忍び寄り、ネアリアが狙撃する。
彼女の狙撃でそのまま死んだら何も問題なし、仮に外れたり防がれたりしても、待機していた俺達が殺すという算段だ。
俺とセイハだけで、忍び寄ってそのまま殺害することも出来るが、念を入れての作戦である。
攻撃の手数は、増やせるだけ増やした方がいい。
以前戦った際、奴は自身の周囲に防御用の魔法を張っていたので、俺の小太刀、セイハのダガー、ネアリアのライフルにはすでに『貫通』属性を付与してある。
実際のところ、本当にあの防御魔法を貫通出来るかどうかはやってみなければわからないが……まあ、大丈夫なものとして動くしかない。
暴れ回っているドラゴンに関しては、枢機卿を殺すことさえ出来れば洗脳が解けると思うので、後回しだ。
もう少しだけ、兵士諸君は耐えてくれ。
「あんちゃん、燐華と玲はどうすればいー?」
「……この役回りからすると、ネアリア様の護衛、でしょうか?」
玲の言葉に、俺はコクリと頷く。
「あぁ、その通りだ。二人はネアリアに迫る魔物を排除してくれ。あんまり派手な魔法は使わないようにな。夜叉牙、お前は俺達がしくじった場合、あのドラゴンを抑えに動いてくれ。面倒な役回りだが、頼むぞ」
「グルゥ」
自身よりもあのドラゴンの方が強いと言ったのはコイツ自身なのだが、「四肢の一つはもぎ取ってやります」と言いたげな様子で、一つ鳴き声をあげる我がペット。
頼もしい奴だ。
「よし……行くぞ。作戦開始だ」
そして俺達は、動き出した。
姿を消した俺とセイハは一目散に駆け出し、飛んで来る土や岩、肉片を避けながら、激しい戦闘が繰り広げられている一帯へと向かう。
大分激しい戦場で、回避だけで一苦労だが……俺もセイハも、こんなところで躓きはしない。
やがて、セイハと共に一息でその首筋を掻き切れるというところまで距離を詰めた俺は、メニュー画面を操作し――『攻撃』のコマンドを夜叉牙へと送る。
準備完了という、ネアリア達への合図である。
夜叉牙と言葉での意思疎通を図ることが出来たため、今まで使うことは一度もなかったが、そもそも『隷属』スキルは特定のワードを言うかメニュー画面からコマンド入力をすることで、指示を出すことが可能な仕様だ。
今使用したのは、コマンド入力の方。
こちらならば距離が離れていようが指示が出せるため、ハイドを発動しているせいで俺達の姿が見えない彼女らへの、合図代わりにすることが出来る訳だ。
俺の合図とほぼ同時、遠くから聞こえてくる、一発の発砲音。
刹那遅れ、枢機卿の側頭部からブシュゥッ、と血がはじけ飛び、吹き飛ぶようにして倒れる。
彼女の放った弾丸は、動き回る兵士達をすり抜け、しっかりと目標を撃ち抜いていた。
――アイツ、やりやがったな!
思わず笑みを浮かべながら、俺は呆気なく死んだ奴が、手から滑り落とした黄金の剣へと腕を伸ばし――おい、待て。
何故、お前がそこにいる?
黄金の剣を掴むという、物理的な接触をしてしまったがためにハイドが解けた俺を見る、近くにいた兵士の一人。
だが、その兵士が被るヘルムの奥の顔は、兵士とは思えぬ老いが存在し、そしてその顔には見覚えがあった。
「あなた達なら、きっと来ると思いましたよっ!!」
ニヤァ、と嫌らしい笑みを浮かべる、老いた兵士――枢機卿ヴェーゼル。
――抜かった。
影武者がいるということは、事前の情報からわかっていたことだ。
これ見よがしに法衣を着ていた男が、本人ではないかもしれないと考慮に入れなかったことは、俺のミスだ。
完全に、頭から抜け落ちていた。
そんな致命的な隙を晒してしまった代償は大きく、突如視界が光で埋め尽くされたかと思うと、全身の感覚がなくなり、何もわからなくなる。
「マスターっ!?」
右か左か、上か下かはわからないが、どこか遠くから聞こえてくる、セイハの悲痛な悲鳴。
訳が分からなくなり、意識が混濁し……数瞬の後、明滅していた視界がようやく現在の状況を認識する。
――どうやら俺は、空へと吹き飛ばされたようだ。
グルグルと回転する視界の中に映ったのは、場違いに綺麗な青空と煌々と輝く太陽、そして大暴れしているどデカいドラゴン。
……恐らく、爆発系のトラップが、偽物だったのだろう俺が掴んだ黄金の剣に仕掛けられていたのだろう。
随分と高く吹き飛ばされたが……チラリと見えた様子では、セイハや他の兵士達に被害が見えなかったことから察するに、指向性のある爆発だったのだろうか。
自身の身体の様子を確認すると、今の攻撃で俺の左腕がどこかへ吹き飛んだらしく、根本辺りから先が無くなっており、迸る鮮血が俺の周囲を大量に舞っている。
ただ、重症なのはその左腕だけで、全身ボロボロではあるものの、ちゃんと動いている。
ならば、今は問題ない。
恥も外聞もなく泣き叫び、のたうち回りたくなるくらいにはクソ痛いが、痛いだけだ。
俺が使える『エクストラヒール』ならば、後で腕を持って来れば再度くっ付けることが出来るので、我慢すれば済む話である。
いや、よしんばどこかへ行ってしまった左腕が見つからず、今後右腕一本で生きていくことになるのだとしても、死にはしない以上何も問題はない。
問題は、この高さである。
ビル何十階分もの高さに打ち上げられた俺が、このまま何もせず地面に落下すれば、落とした卵の如くグチャリと爆ぜて確実に死ぬだろう。
どうやって、着地するか。
……この際、綺麗に着地することは、諦めよう。
仮に全身バキバキに骨折し、死に掛けの虫の息になったとしても、即死さえ避けることが出来れば回復することが可能だ。
万歳ゾンビアタックだ。
死ななければ全ては安いのである。
「こんなもんじゃ死なねぇぞッ!」
落下の最中、刹那の思考で考えを纏め上げると、俺は生存のために動き出す。
長くなったので、いつもの如く分割。
早めに次を投稿したいね……。




