スタンピード《3》
「おわっ!? そ、そこの怪しいの、ちょっと待て――」
門のところで制止して来ようとする衛兵を無視し、ブラフ・シューペリアで王都外へと飛び出た俺は、後ろのセイハに声を張り上げる。
「セイハ、臨時本部はどっちだ!?」
「このまま街道沿いを真っ直ぐ進んでください!」
「了解!」
スタンピードが発生していると知らされているからか、全く誰もいない道をセイハの道案内を頼りに疾走し、十分程は経っただろうか。
前方に、グルっと囲うように設置された馬房柵とテント群が見え始め、多数の冒険者の姿がここからでも確認出来る。
「な、何だ!?」
「よ、避けろ!!」
見たことのないものが爆走してくるのを見て、一瞬武器を構えるも、乗っているのが人間であることに気付き慌てて道を開ける冒険者達の横をすり抜け、簡易陣地の中へと侵入する。
俺は、キキィ、と車体を横滑りさせることで、速度を急激に落として慣性を消し去り、バイクを停止させた。
「何事――って、ようやく来たのかい、アンタら!」
怒鳴るような声色で仮設テントの一つから出て来るのは、ギルドマスターの老女、レンダ。
「ギルドマスター! ウチの従業員は!」
「あの子供らと目付きの悪い女は、主街道沿いのはずさね。引くように伝令を出したが、まだ戻って来てないよ!」
戻って来てないとなると……もしかすると、ウチのペット、ベヒベヒ君こと夜叉牙と合流したのかもしれないな。
上手く孤立出来た時に、夜叉牙を呼んでやれと幼女達には言ってあったため、恐らくそうしているのだろう。
他の冒険者達に夜叉牙を見られると、狩りの対象として認識されそうな気がしなくもないからな。
セイハと同様、俺の召喚獣である燐華と玲ともパーティを簡易ステータスもまた見ることが出来るのだが、彼女らのHPは全くと言っていい程減っていないので、ピンチに陥ってこちらに戻って来れていない、という訳ではないだろう。
「わかった、もう一つ聞かせてほしい! 第一王子の一団はこっちに?」
「あぁ! 軍と……あと枢機卿を率いて出ていっちまったよ!」
「ッ、枢機卿ヴェーゼルか!?」
「? よくわかったね。そうだよ、その男だ」
あの野郎、やっぱり来てやがったか……!!
「どこに行った!?」
「ここから南東の方さね! 何故かわからんが、魔物どもが集結を始めちまって、それを抑えに行ったよ!」
魔物が集結……もう、本格的に時間が無さそうだな。
「チッ……ギルドマスター、裏で暗躍していたのはソイツだ!! 枢機卿だ!! やべー武器持ってやがるから、もし俺達と行き違ってこっちに戻って来ても手は出すなよ!!」
若干の焦りから敬語もかなぐり捨てて忠告し、ブラフ・シューペリアの発進準備に映る。
「何!? どういうことさね!?」
「悪いが悠長に説明している時間は無いんだ!! 後でジゲル達がこっちに来ることになってる、俺は先に第一王子のところへ向かったって言っといてくれ!!」
それだけを言い残し、俺はアクセルを噴かして臨時司令本部を飛び出る。
こっちの予想が外れていれば良かったが……枢機卿がこっちに来ているとなると、相当嫌な展開である。
魔物の集結地点に向かった第一王子と軍に、その魔物達を操っている枢機卿ヴェーゼル。
敵の全ての手札が、ここに揃ったと言えるだろう。
「セイハ、ネアリア達と合流したいところだったが、このままクソ野郎がいる方に――っと、話をしている暇もねぇな!! 掴まれ!!」
その時、前方に見えたのは――魔物の混成団。
数はそこまで多くないが……今の俺達には、相手をしている余裕はない。
コイツらの排除は、司令本部の冒険者達に任せるとしよう。
グイ、と俺は車体を倒し、左右に回避してソイツらの横をすり抜ける。
ただ、ゴブリンやオークのような足の遅い魔物は置き去りにすることが出来たが、その中で狼型の魔物がこちらに呼応して即座に走り出し、俺達と並走を始める。
これでもかなりの速度で走っているのだが……そこはやはり、狼に見えても異世界の生物であるということか。
「セイハ!!」
「お任せを!!」
すでにバイクという乗り物に慣れたらしい仮面の少女が、器用にバランスを取りながら、両手に持ったダガーを投げ放つ。
彼女の投擲は非常に精確で、荒道でそれなりに車体が跳ねるというのに、一本も外れることなく並走する狼どもへと突き刺さり、体勢を崩して吹き飛ぶように転がる様子が視界に映る。
俺もまた、左ハンドルから手を離し、腰裏から片手で三連式ソードオフショットガンを引き抜くと、前方から飛び掛かって来る狼を散弾で返り討ちにする。
狼どもの唸り声に、断末魔。
息を吐く間もない、緊張の連続。
三連射したところで弾切れし、片手でのリロードは流石に無理なので、後ろのセイハへと空のソードオフショットガンを渡す。
「リロード頼む!!」
「はい――左ですっ!!」
セイハの短い警告。
バッと左へ視線を送ると、側面に生えている木々で死角になっていたところから、こちらのリロードの隙を突き、俺の首を食い千切ろうと大口を開けて飛び掛かって来ている、一匹の狼野郎。
「ッ――」
牙が首元に届くすんでのところで、俺は狼野郎の首根っこを片手でガッと掴んで防御すると、走り抜けざまに側面の木の一本へと叩き付けた。
「キャウン!」
「今更可愛い鳴き声あげてんじゃねーぞ、犬っころ!!」
「マスター、お怪我は!?」
「大丈夫だ、助かった!!」
俺は彼女からリロードしたショットガンを受け取りながら、そう声を張り上げる。
パッと見た限りだったが、狼の身体に数本のダガーがいつの間にか突き刺さっていた。
多分、俺が防御せずとも、絶命して俺の首筋を食い千切るまでは出来なかっただろう。
やっぱり、周囲の気配の察知能力は、俺よりセイハの方が数段上だな。
「セイハ、こっから先も多分襲われるぞ!! 俺が攻撃出来ない範囲は任せた!!」
「はい! マスターには、指一本触れさせません!!」
今日から章終わりまで、毎日投稿行けるか……?




