企て《2》
杖系統武器『ゴルド・カルネ』。
アレの効果は、HPやMPなど一部ステータスの上昇、魔法やスキルの効果増幅――そして、幾つかの特殊魔法が使用可能になる。
その性質上、洗脳魔法を使用しているのはあの老人自身だろう。
ゴブロは、意識の無い人間を無理やり操る程の洗脳魔法を掛けるのには、日数を要すると言っていたが……アレがあれば、恐らく簡単に仕掛けられたのではないだろうか。
レア度は、『レジェンダリー』。
最上位のレア度に設定されている武器である。
――何故、あれがここにあるんだ。
俺と同じように、こっちの世界に流れ込んできた、ということだろうか。
……もっと調べてみれば、他にもゲーム中のアイテムや武器なんかがこちらの世界にあるかもしれないな。
よりにもよって、厄介な男に厄介な武器が渡ったものだが……もしかして、俺がこの世界に転生した理由は、それか?
――いや、深く考えるのは後だ。
この様子からすると、流石に特殊魔法の方は使えることもわかっていないようだが……そっちまで使われたら、非常にマズい。
対処は、無理ではないだろう。
だが、セイハまで守り切れるかどうかは、ギリギリだ。
……特殊魔法の起動条件に気付く前に、アイツを殺してしまう。それしかない。
「セイハ、もしかしてアイツが?」
「は、い。あの枢機卿が、恐らく黒、です」
少し呂律の回らない舌で、頷くセイハ。
――アイツが、俺達の追っていた黒幕。
ようやく、そのツラを拝めることが出来た。
「……まあ、どうでもいいことです。『従いなさい』」
「悪いがタネの割れてる手品に引っ掛かる程、お人好しじゃねぇぞ」
「……ほう?」
老人は黄金の剣を掲げるが、しかし俺達が洗脳に掛かることはない。
俺はパッシブで発動する耐性系スキルを全て上限まで上げ切っているため、状態異常に関して言うと無敵であり、すでにセイハにも、一時的なものだが付与スキルで耐性を付与してある。
と言っても、こちらの世界で状態異常を食らうのは初めてだったので、防げるかどうかは賭けではあったが……この身体は、この世界用に調整されていることがすでにわかっている。
ならば、ゲーム時代の状態異常耐性も、こちらの世界で通用すると考えてもいいだろう。
過信はしないよう気を付けるがな。
ただ、そうして俺の状態異常耐性がMAXだったために、『解呪魔法』のような状態異常を治す系統の魔法は、あまり必要がなく最後までスキルを育て切っていなかった。
当然だ、俺はヒーラーじゃなくアタッカーとしてあのゲームをプレイしていたのだから。
ただの回復魔法は、あると便利であるため最上位まで覚えていたが……つまり、一度仲間が洗脳魔法やその他の状態異常を食らったりすれば、俺には解く手段がない。
その点だけは、十分に気を付けなければならないだろう。
脳裏で思考を続けながら、俺はチラと男達を確認する。
排除は……簡単ではないだろう。
あの成金ソードを持った枢機卿も厄介だが、傍らに控えている神父も厄介だ。
ほぼ奇襲だったというのに、とても神父には見えない体格のあの男は、射線を見て間に剣を挟み、弾丸を防御しやがった。
全く、異世界人はどいつもこいつも肉体スペックが高過ぎる。
こっそりとインベントリを開き、ノーマルのハンドガンから『三連式ソードオフショットガン』へと片手の武装を取り換えながら、俺は腕の中から下ろし、壁に寄りかからせるように座らせたセイハへと耳打ちする。
「……セイハ、一瞬でいい。気を引いてくれ。やれるか?」
「片腕だけ、なら、動かせます。お任せ、を」
「わかった。頼む」
短く作戦会議を終えた俺達は、合図も無しに、即座に行動を開始する。
フ、とどこからともなく取り出したダガーを、セイハは手首のスナップを効かせ、枢機卿目掛け投げ放つ。
その攻撃は神父の剣に阻まれるが、ソイツの意識が一瞬逸れた瞬間に、いつものハイドで姿を消した俺が、一気に枢機卿へと肉迫する。
まず近距離からソードオフショットガンをぶっ放し、が、ブゥンと手前に出現した透明な障壁に、ばら撒かれた散弾が防がれる。
自動発動の防御魔法か。
ならばと、追撃の短剣に瞬時に『貫通』属性を付与して突きを放つと、目論見通り障壁は突破したものの、今度は直前で神父の剣が間に割り込む。
「フッ――!!」
神父による、反撃の拳打。
俺は半歩分身体をずらすことでそれを回避し、お返しにショットガンの二発目を放つも、銃身に神父の剣が叩き付けられ、壁に散弾がばら撒かれる。
どうやら剣術に体術を織り交ぜる戦闘スタイルらしく、その剣での防御と同時、俺の腹部へと向かって足刀蹴りを繰り出してくる神父。
後ろに下がって蹴りの間合いから出ると、神父はその分だけこちらに詰め寄り――瞬間、ヒュ、と俺の顔の横を飛んでいくダガー。
セイハの援護である。
「ッ!」
的確に自身の眉間へと迫るダガーに、神父は思わず剣でそれをガード。
顔に迫るものを見れば、誰であろうと、それが特に訓練した者であれば反応せざるを得ず、意識外からの攻撃の防御には、隙が生まれる。
彼女の援護がここらで来るんじゃないかと予想していた俺は、全くのタイムラグ無しに一足で相手の懐に飛び込むと、回避のし難い胴体に向かってゼロ距離からショットガンの三発目をぶっ放す。
「グッ……!!」
神父服の下に鎧を着込んでいたらしく、内臓をグチャグチャにしてやることは出来なかったが、神父の身体が浮き、後ろに吹き飛ぶ。
ここでトドメをと、俺は前へ足を踏み出し――寸前に急ブレーキを掛けると、前には進まず、後ろへ跳んでセイハの近くまで戻った。
「おや、惜しい。やはり本職の戦闘員が相手では、私は分が悪いですね」
小さくため息を吐き出す、枢機卿。
……神父の後ろで奴が、黄金の剣の切っ先を俺の足元付近に向けていたのが視界に映ったから下がったが、やっぱり何か仕掛けてやがったな。
恐らく、いや間違いなくトラップ系の魔法だろう。
「俺の本職はカフェ店員だ。お前らみたいなクズがいるから、嫌々戦ってるだけでな」
「ほう? そうですか。表の顔はカフェ店員で裏では悪と戦う正義の使者! 大変そうですねぇ」
余裕そうな表情で、いけしゃあしゃあとそんなことを言いやがる枢機卿。
俺は少しでも揺さぶりを掛けるため、ソードオフショットガンをリロードしながらわざと嘲笑うような口調で言葉を続ける。
「よくわかってるじゃねーか。だから、お前らが王城の隠し部屋に設置した、魔力波を垂れ流す装置は破壊したぞ。第一王子のアホを国王に据えるための実績が欲しかったんだろうが、これで軍を動かしても無駄骨だな」
すると、枢機卿は一瞬目を丸くし――。
「アッハハハハ!!」
――突如、大口を開けて笑い出した。
「……何を、笑ってやがる」
「フ、フ……まだ、その程度のことしかわかっていないのですか」
「あ……?」
「全く、笑わせてくれますね。あのような頭の軽い男を王に据えようなど、誰も思いませんよ」
……何だと?
第一王子を国王にする以外に、目的がある……?
「閣下。その辺りで」
散弾で吹っ飛ばされたダメージをもう回復したらしく、枢機卿の護衛へと戻った神父が、諫めるように口を挟む。
「えぇ、わかっています。――さて、あなた達には洗脳魔法が効かず、とてもお強いことはわかりました。ここでこのまま争うだけの時間の猶予はありませんので、私達は逃げさせてもらうことにしましょう」
「逃がすと思ってるのか?」
「勿論です。あなたは今、大事な大事なお仲間さんを守っていて、そして自分達こそが正義だと思っている。――だからこそ、私も打てる策がある」
静かな微笑みを浮かべ、老人はゴルド・カルネを掲げた。
「『侵入者を殺しなさい』」
刹那、俺の索敵スキルに映る、こちらへと迫り来る数十の敵の姿。
ただ、周囲の警戒は怠らなかったので、敵の集団が近くにいることを予めわかっていた俺は、余裕を持って背後から迫って来る者達へと先制攻撃を仕掛け――。
「なっ……!!」
途中で俺は、攻撃をやめる。
不自然な動きになってしまったせいで回避が遅れ、振るわれた剣に腕を浅く斬られながら、再度セイハのところへと戻る。
「……腐れ外道が」
苦々しげに吐き捨てると、クソッタレのゴミクズ枢機卿野郎は、変わらない余裕の微笑みのまま口を開く。
「あなたはそこで、彼らと遊んでなさい。あぁ、追って来てもいいですが、彼らは死ぬまで私の命令に従います。無茶をしますと、無駄な人死にが出ますよ」
――襲ってきたのは、兵士や暗殺者などではなく、一般人。
子供こそいないが、老若男女様々な、瞳から意志を失った者達。
それが隊列も何もなく無造作に武器を構え、その矛先をこちらに向けている。
「では、これで失礼させていただきます」
身を翻し、奥へと去って行く腐れ外道ども。
奴らに攻撃を仕掛けようにも――届かない。
洗脳された彼らが俺の行く手を阻み、銃の射線を阻み、間の道を物理的に埋め尽くす。
傍から殺していけば、あるいは突破出来るかもしれないが……。
「チッ……あぁ、クソッ!!」
「マス、ター……」
未だ満足に動けないセイハもいる以上、ここは無理をするべき時じゃない。
俺は悪態を吐いた後、仮面の少女を抱え上げ、撤退を開始した。
* * *
「さて、ようやくですが、報告を聞きましょう」
「ハ。冒険者達に緊急依頼が下され、軍が到着するまでの間の時間稼ぎに動き出しました。そろそろ作戦も大詰めです」
「わかりました、では、私達も移動を開始しましょう。『証人』となる者達も連れて来てください。……先程の男、魔力波の増幅装置を破壊したと言っていましたが、問題はありませんね?」
「あの者達はアレの性質を勘違いしている、作戦に支障は皆無かと。……ただ、別のところで一つ問題が。第三王子及び宰相が妨害工作に出ているようで、未だ王城にて行われている緊急防衛会議が終わっておらず、予定より動きが遅れております」
「ふむ……では、あの哀れな裸の殿下を、それとなく焚き付けて出撃させてください。会議などしている場合ではないと言っておけば、彼ならば張り切って動いてくれることでしょう。将軍達にも、彼に協力するよう連絡を」
「畏まりました」
それから枢機卿は、嘲笑するような笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「全く、先程の男も愚かなことです。彼らは敬虔な信者として、自らの意志で私に洗脳されることを望んだというのに。彼らが自身で戦えば、恐らくあの男も普通に戦ったでしょうが、私が洗脳しているとわかった途端まともに攻撃が出来なくなる。敵であることに変わりはないのですがね」
「私はあなたが恐ろしいですよ、閣下。……そろそろ、王と呼んだ方がよろしいでしょうか」
「フ、フ……まあ、先程の様子からすると、せっかく敵を欺けているのです。このまま彼らには、勘違いをしていてもらいましょう。――それと、この地下空洞。もう水を流してしまって構いません。そろそろ廃棄せねばと思っていたところですから。部下全員を撤収させなさい」
「ハッ」
そのまま二人の聖職者達は、地下空洞を後にした。
戦闘シーン、難しいんだよぉぉ!




