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断罪の暗殺者  作者: 流優
政権転覆
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王城侵入《5》



 氷の槍は四散したが、幸い眠って動けなかった第一騎士団の者達にも死者はいないようだ。

 彼らが着込んでいる鎧に阻まれ、氷の破片が刺さりはしているものの全て表面で止まっている


 ……恐らく、隠し通路に足を踏み入れるのが、起動条件だったのだろう。

 こちらの世界には、洗脳魔法みたいなものもある訳だ。


 背後の派手な音に気付いたゴブロは、即座に後ろを振り返り、銃を構えた俺とぶち撒けられた血痕――そして、脳天に風穴を開け倒れている国王の存在に気が付く。


「なっ――」


 呆然と固まる小男に――だが、俺が弁明する時間はなかった。


 ピー! と思い切り鳴らされる、何か笛らしいものの音。


 恐らく部屋の外で、国王の部屋の前に警護兵がいないことか、銃声が聞こえたか、何らかの異変が起きていることを誰かが気付いたのだろう。


 数秒して、ドタドタと多くの足音が集まってくるのが聞こえ、部屋の扉がガンガンと叩かれ始める。


『団長、団長!! 開けてください!!』


『お前ら、突破するぞ!!』


『だ、第一騎士団!? 何をしている!?』


『大臣、危険ですので下がっていてください!!』


「チッ……行くぞ、ゴブロ!」


「くッ……!!」


 被った仮面の奥で、ゴブロはギリィ、と歯が欠けてしまいそうな程に食い縛ってから、すぐに隠し階段を上って行く。


 俺もまた、ゴブロに続いて狭い階段を上っていき――その先に、ソレはあった。


 少し開けた部屋の中、魔法世界とは似つかわしくないような、SF世界に出て来そうな機械群。

 アンテナが天井まで伸び、現在も稼働しているようで、様々な装置の光がピカピカと光っている。


 ――やっぱり、あったか。


 ゴブロは、機械群から伸びていたコードを片っ端から無理やり引っこ抜き、片手に握っていた剣で装置をぶっ壊し始める。


 俺もまた、短剣を隙間に刺して表の鉄板を外し、内部のゴチャゴチャした基盤を破壊しにかかり、そして重要そうなパーツをインベントリへと突っ込み始める。


 壁や床に固定されているようなものはインベントリに回収出来ないのだが、破壊して細かいパーツにすれば、回収出来るようになることはすでに確認している。

 ゴブロの組織に渡しておけば、これがどんな機械なのかの解析をしっかり行ってくれることだろう。

 

 それから機械群を粗方破壊し終え、隠し階段の下の方が騒がしくなり始めた頃、俺は無言を貫く隣の小男へと口を開いた。


「ゴブロ、これで目標は達成出来たはずだ。撤収しよう。下の扉は閉めて来たが、時間が経てばこっちにも来る可能性がある」


 ――そこでゴブロは我慢の限界が訪れたのか、ガッ、と俺の胸倉を掴み、背後の壁に思い切り押し付けた。


「テメェッ、自分が何をしたのか、わかってんのかッ!?」


 常に冷静なゴブロがあげる、激情を感じさせる怒声。


 俺は、ただ静かに、言葉を返す。


「わかってる。敵の魔法で操られていた、国王を撃ち殺した。……すまん」


「……ッ!!」


 ゴブロは、俺の胸倉を掴む拳から血が出んばかりに握り締め、わなわなと肩を震わせる。


 その間俺は抵抗せず、ただ為されるがまま、だ。


 ――どれだけ、そうしていただろうか。


 国王の部屋の方から聞こえる喧噪が激しくなり、俺達の捜索を命じる怒声やむせび泣く声が聞こえてくる中、小男は様々な感情を窺わせる表情を浮かべ続け……やがて、ゆっくりと俺から手を放す。


「……悪い。命を救われたな。感謝するぜ」


「いや……気付くのが遅れた。もっと早く気付けていたら、殺さずに無力化が出来ていたかもしれん」


「それを言ったら、俺はテメーが動かなかったら今頃あの世行きだ。――ったく……物事ってのは、上手く行かねーもんだ」


「あぁ……全くだ」


 互いに一つ、苦い笑いを溢す俺達。


「これで俺達は手札の一つを失い、敵は邪魔だった国王が死んで万歳三唱、ノンストップで第一王子を新国王へ据えるよう動き出す訳だ」


「そうだな。……ただ、意識のない人間に無理やり魔法を行使させるだけの洗脳魔法は、一朝一夕に掛けられるものじゃねぇ。下準備をして、何度も何度も魔法を重ね掛けすることでようやく、っつーレベルだ。つまりヤツら、陛下のことはいつでも殺せた(・・・・・・・)んだろう。にもかかわらず生かしておいたのには、訳があるんだろうぜ」


「……生かさず殺さず、ってのが最も都合が良かったと」


 俺の言葉に、小男はコクリと頷く。


「恐らくな。状況を有利に持っていくのに時間が欲しかったんだろう。つっても、軍を動かし始めた今となっちゃあ、もう陛下は用済みだったろうが……何とか、間に合ったか」


 そう言って彼は、壊した機械群の方へと顔を向ける。


 これで、魔物どもは散っていくだろう。


 本当にギリギリのタイミングだったが、軍が出動して魔物の討伐に動き出す頃には、大分散っているのではないだろうか。


 しかし、俺が国王を撃ち殺してしまった以上、遅かれ早かれ新国王は誕生することになる。

 それが第一王子になるか、第三王子になるかは、今後の動き次第だ。


 ――正直に言って、今まではどこか、他人事であった(・・・・・・・)


 ここは俺の数少ない友人達の住む国で、第一王子がトップになれば、彼らが困るからという理由で手伝いをしていた気分だった。


 何故なら、元々俺はこの国の出身ではなく、この世界の出身でもなく、ただ流れに乗った結果こうして王都の裏で暗躍する者を追うことになったからだ。


 要するに、この国に何の思い入れも(・・・・・・・)無いのだ(・・・・)、俺には。


 だが――俺は、国王を撃った。


 である以上、もう、他人事ではいられないだろう。


 俺は、悪人でも何でもない者を殺した。


 ならば、その責任――この国に対する責任は、負わねばならない。


 心の中で、一つ覚悟を決めながら俺は、ゴブロへと口を開く。


「それで、撤収はどうする? 姿を消しても、下はちょっと戻れないそうにないし……やっぱ、帰りはアレでか?」


 俺が指差すのは、部屋の隅でぼんやりと光っている、魔法陣(・・・)


 この部屋、俺達が昇って来た階段以外に行ける場所がないため、恐らくあれはワープ装置的なものなのではないだろうか。


 ここ三階だし、隠し階段の割には下じゃなくて上に行くのかと思っていたのだが、そこはやはり異世界ということだろう。


「それしかねぇな。ただ、それの行先は恐らく王都外だろうし、殿下に鍵を返さなきゃならねぇから、速攻でこっちまで戻るぞ。陛下が何者かに殺害されたとあっては、当然その方法が問われることになる。三階以降が自由に行き来出来る、王族が持つ鍵の有無は、遠からず確認されるはずだ」


 なるほど……それで第三王子が鍵を持っていないとなれば、前に言っていた辺境の修道院送りで病死の未来が訪れることになる訳か。


「……それと、念のため言っておくが、その空間転移魔法陣はこの国の中でも極秘中の極秘のモンだ。俺も、存在は知っていたが見たのは初めてだ。どっかでこれのことを喋ったら、ムショ送りにすっからな」


「おう、わかった。すでにムショ送りになりそうなことはしてる気がするが」


「……それもそうだな。よし、外に出たらテメー、逮捕な」


「あ、やべぇ、墓穴を掘ったか」


 本当はまだ、全くそんな気分ではないのだろうが、平静を装って冗談を言ってくるゴブロに、俺もまた笑ってそう冗談を返す。


 それから小男は、ジッと階下の国王の部屋の方へと視線を送り、少しの間だけ黙祷し――すぐに顔を上げる。


「行くぞ。物は破壊したが、俺達の仕事は終わってねぇ。舐めた真似をしてくれた野郎に、思い知らせてやらねぇと」


「あぁ。散々手こずらせてくれたんだ。十分な礼をしてやろう――」



   *   *   *



 王都近郊の、森。


「……な、何だ、アレは」


「……ま、まさか」


 呆然と固まる、二人組の冒険者の男達。


 ギルドから緊急依頼が出され、先んじて調査部隊として、魔物達の様子を森の奥深くまで行って探っていた彼らは――しかし、目の前の光景に、硬直していた。


 全身が恐怖で固まり、動けない。

 指先の一つでも動かした瞬間、ソレ(・・)がこちらに気付いてしまうのではないかと、そんな想像が脳裏を支配する。


 冷や汗が、とめどなく流れ出る。

 ゴクリと、唾を飲み込む。


 数秒、もしくは数十秒、もしくは永遠とも思える時間をそうしてから、やがて二人は顔を見合わせ、無言で退却を始める。


 ソレに気付かれないよう、ゆっくり、ゆっくりと後ろへ下がり……だがそれは、水泡に帰す。


 ――ス、とソレが、男達の方を向いた。


「!! に、逃げるぞッ!!」


「ッ、あぶなッ――」


 次の瞬間、冒険者達は潰れて死んだ。


 いつも読んでくれて、ありがとうありがとう。

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