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断罪の暗殺者  作者: 流優
政権転覆
65/83

王城侵入《4》



 部屋の外で、何か小さく物音が聞こえた。


「……メルダ、コール」


 王国第一騎士団の騎士団長は、腰の剣に手を伸ばしながら扉の外で警護しているはずの仲間の名を呼ぶが、返事は、戻って来ない。


 何かしらの異変が起こっていると瞬時に理解した騎士団長は、部屋の中で国王の警護に当たっていた仲間達にハンドサインで指示を出し、即座に陣形を組む。


 ――やがて、ギィ、と扉が開かれる。


 その先にいるのは、小柄な、仮面を被った一人(・・)の侵入者。


 姿を確認した瞬間、斬り込み役の仲間が敵へと一直線に突っ込んで行き、戦闘が開始する。


 これは、第一騎士団におけるいつもの戦闘の形だ。


 後手に回らないために、敵を発見し次第戦闘力に長けた者が突撃し、敵がそちらに意識を取られた瞬間に他の者が援護する。


 今回の敵もまた、こちらから突っ込んで来るとは思っていなかったようで、一瞬面食らったように防御。


 それを見て取った仲間の二人が、即座に追撃を仕掛けようと前へ勢い良く踏み出し――ドサドサ、と連続で崩れ落ちて動かなくなる。


 ――いつの間にか倒れた仲間達の近くに立っていたのは、別の仮面の侵入者。


 二人目の賊は、ナイフをヒュ、とこちらではなく横へと投げ飛ばすと、一気に肉薄してくる。


「チッ……!!」


 抜き放っていた剣で、攻撃を防御。


 鳴り響く剣戟。

 金属同士のぶつかり合いに、小さく火花が散る。


 続く連撃を剣で受けながら、チラと敵が飛ばしたナイフの方を見ると、一人目の賊と戦っていた仲間の腕に突き刺さっており、次の瞬間に彼は他の仲間達と同じように地面へと崩れ落ちる。


 ――毒か、魔法か。


 皆、鎧は纏っているが……室内戦を想定し、動きやすい軽鎧にしていたのが仇となった形だろう。


 一発でも食らったら、終わりだと考えなければならない。


 ――これで敵は二人。こちらは一人。


 速攻で目の前の賊を倒し、一対一に持っていくしかない。


 鎧の薄い箇所を的確に狙うこの賊の技量から見て、それが相当に難しいことはわかるが……やらなければ、王を守る術はない。


「ハァッ!!」


 敵に流れを取らせぬべく、こちらから間合いを詰め、速度の乗った斬撃を放つ。


 近衛騎士達の騎士団長として――国内において最も実力があると見なされねば辿り着けないこの地位にいる者として、会心と思える一撃を放つことが出来たが……ギリギリのところで、横へと逃げられる。


 しかし、敵の実力から避けられることも想定していたため、即座に侵入者の逃げた方向へと横薙ぎに剣を振るい――そこには、誰もいない。


 刹那、本当に刹那の間だけ、被ったヘルムに隠れて敵が見えなかった間に、侵入者は完全に消失していた。


「何ッ!?」


 敵を見失い、動揺してしまった代償は、大きかった。


 突如、鋭い痛みが斬撃を繰り出した腕に走ったのと同時、抗いようのない強烈な眠気が襲い掛かり、急速に意識が遠退いていく。


 もやの掛かる視界で見えたのは、何もなかったはずの場所にいつの間にか立っている、仮面の男。

 

「悪いな。ちょっと眠っててくれ」


「……へい、か……」


 そこで、意識が途絶えた。



   *   *   *



 ――監獄流。


 つまりは、脳筋戦法である。


 難しいことは考えず、ただ力で以て事を為す。


 と言っても、敵という訳でもない第一騎士団の面々を殺したくはないので、銃は使わず、短剣二刀流に『睡眠』のエンチャントを付与し、全員眠ってもらった。


 最後に残った男の攻撃は冷や汗を掻いたが……何とかなったか。


 一応、今回の潜入のために作った、サプレッサーの装着出来るハンドガンを後ろ腰に隠し持っていたのだが、それも使わずに済んだ。


 彼らには悪いが、今の俺達には時間がないんだ。


「ったく……俺を囮にすんのはこれっきりにしやがれ。肝が冷えたぞ」


 ゴブロと共に、先に部屋の外で無力化していた二人の近衛騎士を室内へと運び込み、扉の閉めて鍵を内側から掛ける。


 これで、しばらくは大丈夫だろう。


「そういう割には、しっかり戦えてたじゃねーか」


「生き残るための防御は出来る。だが、それだけだ。攻撃までは手が回らねぇ。近衛騎士のヤツらと比べちゃあ、俺の戦闘技能なんざゴミみてぇなモンだからな」


 そんなことはないと思うのだが……まあ、元々この小男は戦闘ではなく諜報がメインの仕事だろうしな。


 あくまで、戦闘は自衛の手段だと割り切っているのかもしれない。


「と、そうだ、ゴブロ。コイツらの後のこと、頼んだぞ。俺達の侵入を許したからクビ、とかなんないように手回ししといてくれよ」


「あぁ、わかってる」


 そう言ってゴブロは、部屋のベッドで死んだように眠っている、顔色の悪い老人――国王の前に跪くと、今まで見たことがないような真摯な態度で頭を下げる。


「陛下。陛下の御前でこのような騒動を起こしてしまい、大変申し訳ございません。これも、全ては悪を討つため。陛下が回復なされたら、罰は如何ようにでも」


 彼の横で俺は、黙って一度上位解呪魔法を試してみるが――ダメか。


 国王が回復した様子はなく、今だ顔色は悪いまま。


 最上位の解呪魔法で使えればよかったのだが、普通の回復魔法と違って状態異常系の回復魔法はゲーム時代にあまり重要ではなかったこともあり、そこまで育てていないのだ。


 俺がゲーム時代にヒーラーをやっていたら、もしかすると国王を回復させられたかもしれないが……言っても詮の無いことか。


 とりあえず体力だけは回復してもらおうと、こっそりエクストラヒールを国王に掛けていると、ゴブロの方も気が済んだようで、顔を上げて立ち上がる。


「さ、早く済ませてずらかるぞ。ここまでやってスカだったら、お笑い種だからな」


「そうだな、装置があることを祈ろう」


 そうして、国王の部屋の捜索を始めた俺達だったが――。


「……見つからん」


 何も、怪しいものが見つからない。


 ここは、第一騎士団が常に守っている場所だ。

 故に、ここに何かを隠す以上、それなりの隠蔽工作が行われているだろうと考え、隅から隅まで捜索をしているのだが……何も、見つからないのだ。


「こっちにもねぇぞ。……これは、外れだったんじゃねぇか?」


 険しい表情で、周囲を見回しながらそう言うゴブロ。


「ここだとは思うんだが……」


 俺もまた、周囲へと視線を送りながら、思考を巡らす。


 ――落ち着いて考えろ。


 他のめぼしい場所は、もうすでに探し終えているのだ。


 そうである以上、この部屋に物がある可能性は高い。


 しかし、床、天井、壁、国王のベッド、家具の全てを確認してみたが、見つからない。


 ならば――この部屋(・・・・)にはないのだ(・・・・・・)


「…………」


 俺はコンコンと部屋の壁を叩き、床を軽く蹴り、反響する音を確認する。


 ここは、どこか。

 ここは、国王の寝室だ。


 であれば、隠し通路(・・・・)の一つや二つ、あるのではないだろうか?


「ゴブロ、隠し通路の場所、知ってたりしないか?」


「……いや、知らねぇ。が……」


 そう言って、ゴブロもまた隠し通路の捜索を始め――。


「あった。これだ」


 少しして、壁の一か所を親指で指し示す。


「おぉ……早いな」


「周りの部屋の間取りを俺は知ってっからな、空間がありそうな場所はわかる。……考えてみりゃあ、そうか。第一騎士団のヤツらにも見つからねぇようにするとなると、この部屋よりもそっちに隠した方が順当か」


「俺もそう思ってな。どうやって入るかは、検討付くか? 最悪、俺の解錠魔法を試してみるが……」


「ちょっと待て」


 ゴブロは近くの燭台や棚、他の幾つかの家具を細かく見始め、五分程経った後、まずタンスの真ん中の段を三分の一程引っ張り、次に壁に掛かった小さめの鏡を半分回し、最後に燭台をグイと横に倒す。


 すると、カコンと床の一部が開き、レバーが現れる。


 ゴブロがそれを引っ張ると、壁が内側にギィ、と開いた。


 奥に見えるのは――上へと続く階段。


「……お前、こんな複雑な仕掛け、よく解けたな」


「ま、こういう仕事は慣れてるんでね」


 ニヤリと笑ってゴブロは、トラップの有無の確認しながら、その先へと足を踏み入れ――。

 



 気付けたのは、ほぼ偶然だった。




 この先の敵の有無を確認するために、『索敵』スキルを発動し、そして敵の反応が室内にあることに気付く。


 バッと振り返った俺の視界に映ったのは、無機質な、機械のような眼差しで氷の槍を生み出している――国王(・・)


 狙いは、隠し通路に足を踏み入れていた、ゴブロ。


 恐らく、何かしらの術が掛けられているのだろう。

 ベッドから上半身だけを起こした彼の瞳には、まるで意志を感じられず、血の涙を流し、同時に鼻血がダラダラと垂れている。


 限界を超えて、魔法を行使させられているのだ。


 ゴブロは、気付いていない。


 防御は……わからない。

 短剣の刃で軌道を逸らせば、あるいは、とは思うが、あの氷の槍は国王が多量の血を流し、命を削りながら作らされているものだ。


 どんな追加効果があるかわからない上に、軌道を反らせず俺の短剣の方が弾かれる可能性もある。


 ――取れる手段は、一つしかない。


 刹那の思考で判断を下した俺は、片手の短剣から手を放し、瞬時に後ろ腰からハンドガンを引き抜くと、引き金を引く。


 バシュ、と鳴り響く、サプレッサーでくぐもった銃声。


 ドス、とその場に落下した氷の槍は、やはり見た目通りのものとは違ったようで、砕け散るのとは違う爆発するかのような四散の仕方をし、氷の散弾が当たり一面へと飛び散る。


 その幾つかがこちらに向かって飛んで来るが、短剣とハンドガンの銃身で全て弾き落とす。


 そして国王は、額に風穴を開け、血飛沫と脳漿を撒き散らし、ゆっくりとベッドに崩れ落ちた。




 ――俺は、国王を撃ち殺した。


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