中央教会《5》
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ゴーレムは、ゲーム時代でも俺が苦手にしていた敵Mobの一つである。
理由は簡単、固いからだ。
ゴーレムと言えば大体が石や鉱物などの身体で形成されており、現在俺達が迎撃しているゴーレムどももまた石製の身体を持っているため、小太刀の刃が全然通らない上に、ソードオフショットガンの散弾が致命傷まで届いていない。
せいぜいが小さめの穴を量産するくらいだ。
つまり、俺の戦闘スタイルとは非常に相性が悪いのである。
まあ、ゲームの頃は、石でも鉄でもスパスパ簡単に斬り裂けるアホ斬れ味の小太刀に、『徹甲魔弾』というインチキ貫通能力を持つ銃弾や、『榴魔弾』という何かにぶつかると爆発する弾丸など、特殊弾丸が使える超高威力ハンドガンを使っていたので問題なかったのだが、現状はそんな装備を持っていない。
このウスノロどもはウスノロなので、そう簡単に攻撃を食らいはしないだろうが、しかし俺の攻撃能力もまた激減である。
むしろ、ステゴロの方が威力があるかもしれない。
……試してみるか?
「オラッ!!」
上から下へと振り下ろされる、一体のゴーレムのどデカい拳を余裕を持って避けてから、俺はその石の胴体へと向かって回し蹴りを叩き込む。
その蹴りは、途中で止まることなく最後まで振り抜かれ、ゴーレムは通路の壁へと激突し、動かなくなった。
……意外といけたな。
一定以上のダメージを食らうと停止するのか、それとも今の蹴りで何か『核』となる部分を破壊出来たのか。
「――って、いってぇぇ!! クソッ、固ぇんだよアホが!!」
石を蹴った訳なので、当たり前と言えば当たり前の結果なのだが、ジンジンと響くような足の痛みに思わず俺は悪態を吐く。
『ユウ、大丈夫、か!?』
大剣に近いサイズの肉厚な剣で、豪快にゴーレムを真っ二つにしながら声を掛けてくるのは、レギオン。
この場所は二方向に通路が繋がっており、片一方は俺、もう片一方はレギオンという分担でゴーレムの迎撃を行っているのだが、彼の戦い方は非常に堅実である。
的確に立ち位置を調整することで、押し寄せるゴーレムどもと常に一対一で戦える状況を作り出しており、パッと見た限りでも非常に安心感がある。
「あぁ、大丈夫だ!! ムカついたんで蹴り飛ばしてみたら、ちょっと痛かっただけだ!!」
『……クックッ、ゴーレムに体術、を仕掛ける者など、お前くらいしかいない、だろうな!』
言葉尻と共に、レギオンは大剣を一閃。
瞬間、また別のゴーレムが真っ二つとなり、破片が辺り一帯に散らばる。
……あれだな、レギオンは典型的な重量級戦士なんだな。
受けてから反撃する防御型戦士と言えるだろうが、その一撃の重さが半端ない。
鎧とかなら、簡単に斬り裂けるんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら俺は、声を張り上げる。
「ジゲル、まだか!?」
「もう少しお待ちを!」
この密会が行われていた場所には作業台や魔道具らしいものが幾つか設置されており、ジゲルは今、その上に置かれていた数枚の書類を漁って何事かの確認をしている。
ちなみに、このゴーレムどもを呼び寄せた神父は、ゴーレムどもに踏み潰されて死んだ。
逃げようとしたようだが、しかしこちらに迫ろうとするゴーレムに押し倒され、そのままザクロの如く頭部を弾けさせ、死んだ。
哀れな最後に笑えてくるが、しかし奴から情報を聞き出すつもりだった俺達としては、大分痛い結果である。
故に、俺達の情報源はこの場にある何かしらの書類のみになってしまったため、ああしてジゲルが漁っている訳だが……。
「……よし」
一つ思い付いた俺は、両手の武器をインベントリにしまった後、ゴーレムの攻撃を回避しながらバギ、と壁の補強材らしい木材を力尽くで引っぺがすと、転がっていたゴーレムの片腕を反対の手で掴み、『下級武器錬成』を発動。
この材料が、武器の素材として認識されるかどうかは賭けではあったが、しかしスキルは問題なく発動し――出来上がったのは、スレッジハンマー。
ハンマー系の武器を触ったことなど数回くらいしかないものの、今の状況ならば小太刀にソードオフショットガンよりも、こちらの方が使えるだろう。
「吹っ飛べッ!!」
スレッジハンマーを手にした瞬間、俺は身体全身を捻ることによって攻撃に遠心力を乗せ、目の前に迫って来ていたゴーレムの一体を殴り抜く。
するとソイツは、他の個体を巻き込みながら派手に吹っ飛んでいき、動かなくなった。
オーケー、これならまだマシに戦えそうだな。
技も何もない、ただ力任せにぶん回しているだけの攻撃だが、しかし俺の鍛えに鍛えたステータスがあれば、何とかなりそうだ。
――そうして、終わることなく次々と迫り来るゴーレムどもをレギオンと共に迎撃し続けていると、聞こえてくるジゲルの声。
「お待たせしました、行きましょう! レギオン、道を!」
『任せ、ろ!』
ジゲルの言葉を聞き、レギオンは即座に上段に大きく大剣を構え、弾かれるようにして刀身を勢いよく振り下ろし――。
『ハッ!!』
――瞬間、刃の先から真空波のようなものが飛び出し、その軌道上にいたゴーレムどもが次々と斬り裂かれていく。
連続する、破砕音。
「お、おぉ……すげぇ」
何だ、今のビームみたいなの。
あれか、今のもこの世界の『魔力』を使っているのか。
「今です、戻りますよ!」
撤退を決め込んでからの動きは、早かった。
先頭のレギオンが道を開き、動きの鈍いゴーレムどもの攻撃を掻い潜り、来た道を駆け戻る。
「危ねっ!?」
途中、ゴーレムの一体の攻撃を避けた際に、そこまで広くない通路から足を踏み外して眼下の地下水脈へと落ちそうになり、慌てて態勢を立て直す。
「お気を付けを! 一度地下水脈に落ちたら、海に出るまで戻って来れませんぞ!」
「それは勘弁、だなッ!!」
言葉尻と共にスレッジハンマーを振り抜き、危ない目に遭わせてくれたソイツを、地下水脈へと落とす。
痺れるような腕の手応えの後、数瞬遅れドボンという音が下の方から聞こえてくる。
「……それにしても、ユウ! いつの間にそんな大型ハンマーを!」
「あぁ、さっき良い材料があったんで、作った!」
「……作った、ですか! あなたは、こう、器用な方ですな!」
そんなことを言いながら、ジゲルは襲って来ていたゴーレムの水月辺りに掌底を叩き込み――次の瞬間には、そのゴーレムの石の身体が、まるで糸が切れた操り人形のようにガラガラと崩れ落ちて動かなくなる。
「ジゲル、今何したんだ!?」
「魔力を打ち込みました! ゴーレムは、大半が胸元か腹に動力源となる『魔核』が組み込まれています! なので、こうすることで内部の魔核を直接破壊出来るのです!」
次々とゴーレムどもを破壊し続けながら、答える老紳士。
……魔力を打ち込む、か。
戻ったら俺、本格的にこの世界の魔力や魔法に関して、勉強してみるとしようか。
――それから少しして前方に見えてくるのは、行きに通った教会へと戻る扉。
レギオン、ジゲルと扉を潜り、最後に俺が潜ったところで、俺は扉を力の限りで蹴り飛ばす。
重いその扉はズゥンと勢いよく閉じ、締まれば自動的にそうなる仕掛けなのか、ガチャリと鍵の掛かる音が聞こえる。
俺達を追い縋っていたゴーレムどもは、しかしここまで追って来るようには設定されていないのか、扉を壊そうとしてくることはなく――少しして、ガシャンガシャンと遠ざかるような幾つもの足音が聞こえてくる。
どうやら逃げ切れたらしいということに、俺達は揃ってフー、と一つ息を吐き出した。
「どうにかなったな……」
「お疲れ様です、助かりましたよ、二人とも。おかげで、ある程度黒幕が絞り込めました」
「へぇ……やっぱり、教会の関係者か?」
壁に設置されていた鎖を引き、隠し通路から教会内部へと戻りながら、ジゲルはコクリと頷く。
「えぇ。敵は恐らく――枢機卿です」
「……枢機卿」
『……なるほ、ど。枢機卿ならば、力もあり、国に対する影響力、も、ある』
そう言葉を溢す、俺とレギオン。
「そういうことです。暗号化されていましたが、幾つかの書類に『枢機卿』を意味する言葉と、どうやらその者の指示によって動いているらしいことが書かれていました。名前だけはしっかりと全て隠されていましたが……これで、敵はかなり絞り込めることでしょう」
……なるほど、書類を漁っている際に少し時間が掛かっていたのは、暗号の解読を行っていたからか。
書類を持って帰って後で暗号解読に励むのではなく、あの場でそこまでやっていたのは、多分あの場でしか解読出来なかったからなのだろう。
ジゲルが、設置されていた魔道具らしきものやら何やらを弄ったりしている様子も見ているからな。
というか、むしろあんな短時間で、よくそこまでわかったものである。
「地下空洞の惨状を見て、敵は我々が核心に迫りつつあることに気付くでしょう。ここからはスピード勝負です。忙しくなりますよ――」




