中央教会《4》
「……こちらの方は、特に怪しいものはないようですやね」
会議室らしい部屋をチラと覗き込みながら、玲はポツリと言った。
見ると、聖職者らしい者達が何事かの会議をのんびりと行っており、特に不審な点は見当たらない。
と、玲と共にいたネアリアが口を開く。
「ま、そういもんだ。こういうのはな、表のヤツらはなーんも知らねぇんだ。多数の一般人が、ニコニコしながら表で愛想を振りまいている間に、一部の肥溜めの臭いを漂わせたヤツらが、裏でせっせと肥溜めを作ってんだ」
「…………」
ネアリアの言葉に、玲はジッと彼女の方を見詰める。
「? 何だ、ガキんちょ?」
「いえ……ネアリア様は、意外と、と言ったら失礼じゃが……結構まともな方なんやなと、思いまして」
「えぇ、そうですよ、玲ちゃん。口は悪いですし、普段は悪ぶっていますが、ネアリアは本来とても性根の良い子なのです」
「おい、アンタはアタシをどんなキャラにしたいんだ……」
二人に付いて来ていたシャナルの言葉に、ネアリアはげんなりした表情を浮かべ、それから玲に向かって肩を竦める。
「そりゃあ、ウチのヤツらと比べちゃあ、アタシはまとももまとも、大まともさ。色々と頭のネジがぶっ飛んだジジィに、殲滅魔女。能天気な魔法の天才に、堅物の鱗硬過ぎ獣人戦士。このメンツの中だと、差し詰めアタシは一般常識担当ってところだろ」
「あら、私は殲滅魔女ですか。かっこいいですね~」
「……な? ウチのヤツら、みーんなこんな感じだからよ。レイも、オルニーナで暮らすようになって、ちょっとはわかんだろ?」
「フフ……えぇ、わかります」
くすっと笑う玲。
「それに、レイにはちょっと、近いものを感じてるんだぜ? アンタの相方のガキんちょ――リンカも、大分のんびりとした感じっつーか、コイツら寄りだろ?」
コイツら、のところでシャナルを親指で指差すネアリア。
「あー……確かに、あの子にはそういう面がありますやね。元々、『九尾』という種は人を襲う種やので、その中でもあの子はかなり変わり者なんじゃが……」
「あ? そうなのか?」
「そうなのですか? 全然、そんな風には見えませんが」
不思議そうな顔をするネアリアとシャナルに、玲はコクリと一つ頷く。
「その内、敵と遭遇した時なんかに、お二人も『九尾』という種をお分かりになろうと思います。嘘を吐かれたりした時も、あの子そういうのはすぐに見抜くので、ちょっと怖くなります。主様にとても良く懐いていて、主様が手綱を握ってますので、基本的には何も問題あらへんのですが」
「へぇ……嘘も見抜けるのか。ファームと似たような感じなんだな」
「? ファームも?」
玲の問い掛けに、ネアリアが答える。
「あぁ。妖精族ってのは、ソイツが善人か悪人かを見抜くことが出来んだ。ヤツらは純粋で子供っぽいからこそ、他種族に騙されねぇよう身に付けた種族特性って話だ。ファームとリンカで組んだら、良いコンビになるかもしれねぇな。……まあ、そうなるとレイの気苦労がすげーことになりそうだが」
「ウフフ、リンカちゃんもファームも似たタイプですからねぇ。そこにレイちゃんが入れば、きっと良いアクセントになって、良い三人組になれますよ」
「おう、シャナル。アタシは、アンタもその気苦労を掛ける側だってことを、アンタ自身に知ってもらいてーな」
そんなことを話しながら、三人は教会の構造を把握すべく次々と見て回って行った――。
* * *
その場にいるのは、二人の騎士と、一人の牧師服を着込んだ神父。
「なら、作戦は失敗したと?」
神父の問い掛けに、騎士の片方が口を開く。
「計画がどこからか漏れていたらしい。任務に当たったゼーガンは戻って来たが、奴がどこからか見繕ってきた子飼いの部下は全滅した。まあ、元より使い捨てだ。そこから辿られることはないだろう」
「悠長なことを。わかっているのか? 『閣下』は第三王子を早々に排除しろと仰せだ。ボンクラの殿下と違って、第三王子――レルリオは危険だ。奴の能力の高さは本物、放っておくと足元を掬われる可能性がある」
神父に対し、ヘルムを被っているためわからないが、もう一人の騎士が渋面を浮かべていそうな声音で言葉を返す。
「無理を言うな、仮にも奴には騎士団が丸ごとバックに付いているんだ。それも、あの目障りな第四騎士団がな。こっちは同僚に疑われないようにしながら動いている以上、我々だけではどうしても戦力が足りん」
「どこかの近衛騎士様は、自信満々に『自分ならやれる』なんて言っていたと思うが?」
「その時も我々は反対したろう! ゼーガンの言を鵜呑みにして、勝手に行動させたのはそっちだ」
しばしの間、黙りこくる男達。
互いを睨むように、視線を交わす。
「……わかった、いいだろう。我々がいがみ合っても何も生まれない。教会の聖騎士どもにも協力を取り付けてやる。ただし、次はしくじるな。――それで、作業の方は?」
「今現在部下に進ませている。今頃は教会裏に設置が終わっているだろう。……それより、あの装置はいったい何だ? どういうものなんだ?」
「それは知らなくて良いことだ。お前達はただ、アレが閣下のためになるものだということだけを知っておけばいい」
「……フン、まあいい。俺達はもう行く。近頃、第四騎士団が辺りをウロチョロしている、警戒することだ」
そこで彼らの会話は終わり、二人の騎士は踵を返し――。
「ふむ……この辺りでいいでしょうか」
「ッ――!?」
「ぎァ……ッ!?」
――一人は胸から剣を生やし、もう一人はグチュリと頭部を弾けさせ。
身に着けている鎧など、全く無意味だと言わんばかりに致命傷を負わせられた騎士達は、ドサドサとその場に崩れ落ちる。
そして、闇からボワリと滲み出るようにして現れるのは――ジゲルと、レギオン。
「なっ……き、貴様ら、いつの間に……!?」
「今回はそれなりに収穫がありましたな。第一騎士団は、全員が全員敵の手の者という訳ではなく、数人の悪が入り込んでいるだけ、と。『ゼーガン』と言っていましたね、覚えておきましょう。そして……教会が敵と大きく関わっているのでは、という予想はやはり正解だったようです」
『神職に就く、者が、裏で悪事を、為しているとは。愚かしい』
「賊どもがッ!!」
と、神父は片手に掴んでいた杖を掲げ、何かの魔法を放とうし――だが、その前に背後へと回り込んでいた俺が背中を蹴り飛ばし、そのままうつ伏せに倒れたソイツの背中に足を乗せて押さえる。
「ギッ……ふ、不敬者が!! その汚い足をどかせッ!! 神に仕える身である私を足蹴にするとは、つまりは神に対する冒涜であるッ!! 神罰が下るぞッ!!」
「悪いな、俺は空飛ぶスパゲッティモンスター教しか信じてない――あぁ、いや、今は一応信じている神はいるが、アンタのところの神じゃないんでね。神罰と言われても、といったところだ。……というか、レギオンの言じゃないが、神に仕えておきながらこんなことをしてるアンタの方が、よっぽど冒涜的だろうに」
「黙れッ、何も知らぬ賊どもめ!! 閣下の行いは全て、この国を更なる発展に導くためのもの!! その崇高なる意思を理解出来ない者が、知ったような口を利くでないわッ!!」
「おう、その崇高なる意思、すごく興味があるから是非とも教えてくれよ。――ジゲル、パスだ」
「えぇ、承りましょう。さ、色々と聞かせてもらいましょうか」
そう、ジゲルがとてもいい笑顔を浮かべ、こちらへと近付いて来た――その時だった。
「来いッ、侵入者だ!!」
突如神父が叫び声をあげ、それから刹那遅れて、何か地面に響くような振動が遠くからこちらまで伝わってくる。
俺は、即座に索敵スキルを発動し――。
「……あ、マズい」
「ハハハハッ、地下水脈の底に沈むがいい、賊どもがッ!!」
聖職者とはまるで思えない表情で哄笑する神父。
――スキルに反応を示したのは、こちらへと駆けて来る、大量のゴーレム達だった。




