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断罪の暗殺者  作者: 流優
裏ギルド
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ギルドマスター《2》



 スキンヘッドおっさんに案内されたのは、ギルドの二階。


 ……理由はわからないのだが、他の冒険者達から物凄い視線を集めながら階段を上り、奥にあった一つの部屋に通される。


 中に入ったおっさんに続き、俺達も中へ入ると――待っていたのは、執務机に座る、老齢の女性。


 背筋がシャンと伸び、毅然とした態度の鋭い視線の女性である。

 何となく、ジゲルを思い出すような女性だが、好々爺といった感じの彼より、大分キツい印象を受ける。


「……アンタらが……」


 彼女は俺達の姿を見て、そんなことをポツリと呟き――だが俺は、彼女の方を見ていなかった。


「マスター」


 後ろに控えるようにして立つセイハが、俺に注意を促してくる。


「あぁ、わかってる。――すみません、先に一つお聞きしたいんですが、アレはあなたのところの者ですか?」


「何……?」


 親指で窓の外を指差すと、彼女はそちらに顔を向ける。


 ――その先にいるのは、路地の暗がりからこちらの様子を探っている、黒尽くめの者(・・・・・・)


 見られた、ということを理解したのか、こちらの注意が集まると同時、ソイツは一気に逃走を始める。


「! ヴァルデッ!」


 老齢の女性の声に反応し、スキンヘッドおっさんがその大柄な身体に見合わぬ俊敏さで窓の外へと飛び出すが、それより先に、セイハが動き出していた。


 二階の窓から飛び降り着地すると同時、着地で曲げた膝を利用してまるで弾丸のような勢いで駆け出し、瞬く間に覗き見野郎の下へと辿り着く。


 黒尽くめは、一瞬驚いたような様子を見せ、それから迎撃に武器を引き抜こうとするが……もう遅い。


 全く危なげもなくヒョイと自身の身体を倒して攻撃を回避し、足払いで黒尽くめの足を狩るセイハ。


 体勢を崩し後方に倒れ始める黒尽くめだったが、しかし両手を付いてバネのように全身を跳ねさせ、バク転の要領で体勢を立て直し――そこに、追いついたスキンヘッドおっさんがタックルをかます。


「ヌゥンッ!!」


「グッ……」


 モロに衝撃を受け、吹き飛んだ黒尽くめは、しかしまだダウンしない。

 吹き飛ばされた先にあった塀の上に昇ると、まるで軽業師のような身のこなしでピョンピョンと飛び上がり、その背後にあった建物の屋根上へと一気に登り詰める。


「いらっしゃい」


 ――そして、黒尽くめを待っていたのは、俺。


「なっ――」


 驚愕に一瞬動きを止めてしまったソイツを俺は、『睡眠』を発動した短剣で軽く斬り裂く。


 胴を斬られ、瞬時に別方向に逃げ出そうとしていた黒尽くめは、突如ガクンと膝を突き、そのまま屋根上に倒れ、意識を失って動かなくなる。


 一度周囲を確認してみるが……他は、いなさそうか。


 コイツ、単騎で監視をしていたのか。

 確かに、普通の奴ならば最初のセイハの攻撃でなす術なく捕まっていただろうし、一人でそんな仕事を任されるくらいには、実力がある奴なのだろう。


 この黒尽くめ、俺達があの部屋に来る前から張っていたようなので、俺達の方を監視していた訳じゃあないだろう。

 となると、あのばあさんの方に付いていた監視ということになるが……そのような実力者が回されるくらいには、彼女はこの王都において重要人物である、ということだろうか。


「さて……コイツ、どうやって下ろそう」


 屋根上で眠らせちゃったけど、コイツを抱えて下に降りるの、ちょっと怖いのだが。


 

   *   *   *



「……仕事が出来る、というのは本当みたいだね。あのジジィが、目を付けるだけはあるようだ」


 意識を失った黒尽くめをスキンヘッドのおっさんに任せ、セイハと共に先程の部屋まで戻って来た俺は、何事かを呟いてる対面の彼女へと問い掛ける。


「あの黒尽くめに、心当たりがあるので?」


「あぁ、恐らくね。アタシの方の客だろうさ。今、王都の政治が荒れているのは知ってるかい?」


「えぇ、馴染みの情報屋から聞いています」


 初心者狩りどもも、港で潰した海賊船も、どこかの貴族が関連していた。


 聞くところによると、どうも今、この国の国王が崩御間近(・・・・)で、それが原因で貴族達の動きが激しくなっているのだそうだ。


 国王はかなりの高齢で、現在はほぼ寝込んだままの状態であり、いつ冥土行きになってもおかしくないために次期国王争いが裏で激化しており、それが貴族達の活発なお付き合い(・・・・・)に繋がっている、という話だ。


 さっきの奴も、十中八九それ関係の者なのだろう。


「情報屋、ね。それは、第四騎士団の者かい」


「さあ、どうでしょうか」


 曖昧に答えると、彼女はフンと鼻を鳴らす。


「まあいい。それより、少し邪魔が入ったが自己紹介をしておこう。アタシがこの王都支部のギルドマスター、レンダ=ネマンダルだ。ウチの組織に入っておきながら、馬鹿をやっていた(やから)を排除してくれたことには、感謝しよう。依頼じゃあないが、後でヴァルデの奴から報酬を貰うんだな」


 ヴァルデというのは、あのスキンヘッドおっさんだな。


 そうだろうとは思っていたが、やっぱりこのばあさんがギルドマスターだったのか。

 そう言われて納得出来るだけの貫禄は、確かに感じられる。


「それで……聞かせてもらおうか。アンタらは何が目的で、ここに所属したんだ?」


「目的、ですか。それは、魔物の素材集めですね。ここに登録した方が何かと得かと思いまして」


「へぇ? それだけだとアンタは抜かすのかい?」


「それだけですよ。……それに、そうじゃなかった(・・・・・・・・)として(・・・)、何かあなたに問題があるので? 正規の手続きを経て、ここに登録したはずですが」


 少し、挑発的な笑みを浮かべながらそう言うと、ギルドマスターはスッと鋭い視線をこちらに送る。


 数瞬の、沈黙。


 少しして彼女は、再度口を開く。


「いいや、アンタらが悪事を企んでいない限りは、何も問題ないさ」


「しませんよ、そんなこと。善良な一般市民なので」


「フン、一般市民ね。言うじゃないか。――いいだろう。この際、アンタらが何者かってのは、聞かないどいてやる。ギルドに益をもたらすなら扱き使ってやる。仇為すなら潰す。肝に銘じておくことさね」


「えぇ、了解しました」


「なら、コイツをくれてやる。持っていきな」


 そう言って彼女は、ポンとこちらに何かを投げ渡してくる。


 パシ、とキャッチし、手の中のソレを見ると――投げ渡されたのは、冒険者証だった。


 二枚あるのは、俺とセイハそれぞれの分か。

 後ろを見ると、『Ⅵ』級と刻まれている。


「ソイツは『Ⅵ』級の冒険者証だ。前のは破棄しな」


「……まだ、大した依頼も熟していないはずですが」


「ギルドから直接依頼を出すには、中級冒険者以上じゃあないと無理なんだ。どうもアンタらは実力はあるようだからね、ここに所属する以上、ウチの役に立ってもらう。魔物の素材が必要だと言うなら、珍しい魔物の情報も依頼も流してやるさね」


「あー……それはありがたいのですが、一つ言わせていただくと、別のところでも働いているのでここでの仕事ばかりをする訳には行きませんよ」


「わかってるよ、基本的にアンタらがこっちに来た時しか仕事をさせるつもりはない。アンタらの(・・・・・)働く店(・・・)に敵視されたくはないんでね」


 何だ、『オルニーナ』のことは知ってるのか。

 俺達の素性は、すでに調べられた後だったか。


「話は終わりだ。せいぜい、活躍してくれることを願ってるよ」



   *   *   *


 

 ユウとセイハがいなくなって少しした後、ヴァルデがギルドマスターの執務室へと戻ってくる。


「早かったね。その様子じゃあ、尋問はスカかい」


 レンダの言葉に、ヴァルデは少し不愉快そうな様子で頷く。


「えぇ。何らかの自害用の魔法を仕込まれていたようで、尋問を始めた途端泡を吹いて死にました。回復魔法も用意していたのですが、間に合わず。全く、あの手の者は……」


 彼は一つ溜め息を吐き出し、言葉を続ける。


「それで……あの二人は、どうでしたか?」


「食えないガキどもさね。流石、あの食えないジジィのところで働いているだけはある。少し圧を掛けてみたが、何も気にせず飄々としていやがった。さっきの身のこなしを見ても、恐らく上級冒険者の奴らとタメを張れるくらいはあるだろうさ」


「やはり、それだけの実力があると? 確かに二人とも、驚く程の機敏性でしたが」


 ヴァルデの言葉に、ギルドマスターはコクリと頷く。


「あぁ。少なくとも、味方である内は受け入れた方がいい類さ。ここのところ、王都は荒れ方が酷い。手札はあるだけ欲しい。馬鹿を受け入れる訳には行かないが……あの店の従業員なら、信用出来る。顔を見るだけのつもりだったが、収穫はあったね」


「『オルニーナ』、ですか。私は、あまり詳しくないのですが……ギルド長は、あそこの者とお知り合いなので?」


「あの店の店長が、古い知り合いなんだ。この国の重鎮の中にも数人奴の旧友がいて、強い影響力を持っているために、誰も手出しができない」


「……そのような者が何故、一介の酒場のマスターをやっているので?」


「昔は遠国の騎士、それも最も王に近い近衛騎士団長(・・・・・・)だったんだが……ある時、奴を妬んだ貴族に嵌められ、職も家族も失った。ここまで言えば、アンタも何だかわかるだろう」


「ッ、もしや、『国墜としの騎士』ですか!!」


 驚愕の表情を浮かべるヴァルデ。


「怒りに震え、復讐に命を燃やし、最後はたった一人で政権すらも転覆するに至った騎士……あれは、ただの訓話の類だと思っていましたが……」


「実話さ。その後は国から国を放浪し、悪党どもを殺して回り、最終的にこの国『セイローン王国』に落ち着いた。幾度か悶着はあったが……結局、奴を敵に回すよりは味方に引き入れた方が良いと重鎮どもが判断して、今の『代行人』の仕事をするようになったのさ。アンタも、決してあそこには手を出すなよ」


「……えぇ、そうすることにします。では、あの二人の扱いは?」


「普通に有能な冒険者として扱い、ウチから仕事を回してやればいい。どんな取引があったのかは知らないが、指名手配も解かれた以上、藪をつついて蛇を出す必要はないよ。今後も、奴らの担当はアンタがやりな」


「了解しました。そのように」


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